質学者のM・キング・ハバートは、次の予告をしています。
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米国の石油生産のピークが1970年に来る
――M・キング・ハバート
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原油というものが有限の資源であることは誰でも知っているこ
とです。いつか石油の生産量はピークに達し、その後減少に向か
うということも理解できます。ハバートは米国の場合、そのピー
クが1970年に来ると予告したのです。これはその後「ピーク
・オイル論」といわれ、世界中で論議を呼ぶことになります。
ハバートはこう考えたのです。規模の大きい、地表近くの見つ
かりやすい油田は発見しやすいので、すでに発見されてしまって
おり、残りの油田は発見に時間がかかるうえに規模は小さくなる
――と。大規模油田がこれから発見される可能性はきわめて低い
ので、1970年ごろから下降線をたどると予測したのです。
米国には1万4000以上の油田がありますが、そのうちの大
規模な100程度の油田が総産出量の約3分の2を占めているの
です。このような大規模油田は長期にわたって安定した量を産出
できますが、その後急速に産出量が減少するのです。
ハバートは、アラスカとハワイを除く米国本土48州で、19
01年から1956年の間に発見・生産された原油量の統計を集
めたのです。その結果、米国で確認された原油埋蔵量は1930
年代までは急増しているものの、その後勢いが衰えていることが
わかったのです。
ハバートは、このパターンをグラフ化したところ、米国の原油
供給量が近く頂点に達し、その後減少に転ずる釣り鐘型になるこ
とがわかったのです。
ハバートがこの予測を出した1956年の米国は、新たな油田
発見が相次ぎ、米国は世界最大の産油国だったのです。したがっ
て、誰もハバートの予告には耳を傾けなかったのです。しかし、
1970年、米国の石油生産量は、ハバートの予測通りピークを
迎えその後は2度と同じ生産量に達することはなかったのです。
しかし、石油が出るところは米国だけではないのです。世界全
体のピーク・オイルはいつなのでしょうか。
ハバートは、米国での予測に使ったパターン「ハバート曲線」
を使って、世界全体の石油産出量についても予測をしているので
すが、それによるとピーク時を2006年頃としているのです。
そういえば、確かにこの頃から原油価格は上昇傾向になってい
ます。ピーク・オイル論にしたがい、投機筋による原油価
格上昇の期待形成ができたからでしょうか。しかし、専門筋では
このピーク・オイル論に否定的なのです。
2006年9月に米国テキサス州ダラスで開催された「OPE
Cセミナー」において、サウジアラビアの国有石油会社サウジア
ラムコのトップは、次のように明確にピーク・オイル論を否定し
ているのです。
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地球の5兆7OOO億バレルもの生産可能な原油数量に対して
世界はこれまでにわずか約1兆バレル、いわば、約18%しか
生産していない。残りの4兆7000億バレルは現在の生産ス
ピードで計算して今後140年以上消費し続けるのに十分な量
である。――藤 和彦著、『石油を読む/地政学的発想を超え
て』より。日本経済新聞社/日経文庫1128/A52
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ハバートの予告が的中したのは、米国の場合、探鉱活動が非常
に進んでいたので、原油埋蔵量の予測が比較的正確に把握するこ
とができた点にあるのです。しかし、世界の原油埋蔵量となると
そう簡単には予測できないのです。
残存している原油埋蔵量は、地質学者が実際に現地調査を行っ
て推計する方法と、過去の原油産出量の統計を分析して推計する
方法の2つがありますが、最低で800億バレル〜2兆9000
億バレルと大きな幅があり、正確に把握することは困難です。
ピーク・オイル論のように資源量の枯渇から来る原油価格高騰
傾向に加えて、油田や製油所に対する投資不足が原油価格の高騰
を招くという考え方もあります。
ピーク・オイル論があらわれた2006年11月に國際エネル
ギー機関/IEAは、次の衝撃的なレポートをまとめています。
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世界の需要を賄うには2030年までに油田や製油所に4兆3
000億ドルの投資が必要であり、この投資不足が続くと、長
期的には原油価格は130ドルに達する可能性がある。
――國際エネルギー機関/IEA
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2008年4月18日付の日本経済新聞は、17日の早朝、W
TIで期近の5月物が、一時「1バレル=115.54ドル」ま
で上昇したと伝えています。その原因として、新聞は「米製油所
の稼働率低迷」とタイトルを付けて、次のように書いています。
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米エネルギー省によると、直近の米製油所の稼働率は81.4
%で、一年前の同じ時期に比べて9ポイント低く、2005年
10月下旬(82.5%)以来の低水準だ。大型ハリケーンの
被害で設備が破壊された当時と違い、今回は石油会社が操業を
抑えているのが原因だ。
――2008.4.18/日本経済新聞より
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2008年4月の時点で「1バレル=115.54ドル」まで
きているのです。IEAの予測は2030年に130ドルですが
そんなにかかからないで、そのラインまで到達する可能性が高い
ことも予測されます。やはり、原油価格はこのまま上がり続ける
のでしょうか。 ―― [石油危機を読む/21]
≪画像および関連情報≫
●ピーク・オイル論に言及している本
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現在「ピーク・オイル」という言葉が声高に叫ばれている。
世界の石油生産はピークを迎えつつあるという意味である。
これは世界の専門家たちがハバート博士の分析方法を利用し
て立てた予測によるものだ。ピークはまもなくやってくる。
石油を燃料として利用できる時代の終焉まで、もう時間はな
い。ハバート博士に師事したケネス・S・ディフェイス博士
は本書で起源、探査、生産、流通、代替エネルギーまで、石
油産業のすべてを詳細に解説し、ハバート理論の長所と短所
迫りくる事態への対処法までを網羅している。「石油の代わ
りにステージに上がる代替エネルギーは何か?」「燃料とし
て利用されなくなった石油はどうなるのか?」。本書はこれ
らの疑問に答えてくれる必携の書だ。
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