2008年04月18日

●バックワーデーションとコンタンゴ(EJ第2309号)

 昨日のEJの復習をしておきます。原油先物市場の「買い」と
「売り」の常識を再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 原油先物価格は、期近物の方が期先物よりも価格は高くなる
―――――――――――――――――――――――――――――
 期近物とは満期の近い物をいい、これに対して期先物とは満期
の遠いものをいうのです。先物原油を購入すると、現物で決済す
る満期までの先物原油購入資金の金利が発生します。そのため、
先物原油購入のための金利相当分だけ期先の原油価格が低くなる
――これは経済学的に見て当然のことです。こういう状態を「バ
ックワーデーション」というのです。
 したがって、原油先物の常識的な投資手法では、高い期近物を
売って安い期先物を買い、ロールオーバーしていくという手法を
とるのです。
 しかし、2004年の後半からこのようなバックワーデーショ
ンの市場構造に変化が生じているのです。どういうことかという
と、「原油価格は期近物よりも期先物の方が上昇する」という事
態になっているのです。こういう状態のことを「コンタンゴ」と
いいます。
 バックワーデーションとコンタンゴ――相場関係の専門用語で
あって一般的には知られていない言葉です。参考書などを読むと
これらの言葉には次の解説が出ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    バックワーデーション ・・・・・ 逆ざや
    コンタンゴ ・・・・・・・・・・ 順ざや
―――――――――――――――――――――――――――――
 バックワーデーションの先物市場構造においては、投機筋は期
先で原油を買い、期近になると原油価格が上がるので、そこで原
油売りのオペレーションを行って利ざやを稼ぐことができるので
です。これは投資家によって都合の良い状態です。
 つまり、今まで原油に関しては「逆ざや」が常識であったとい
うことになります。例えば、ガソリンは「逆ざや」ですが、灯油
に関しては、需要が増す冬場は「逆ざや」、夏場は「順ざや」に
なるのです。このように商品によって、「逆ざや」「順ざや」は
違ってくるのです。
 期近物が期先物より安い状態になるコンタンゴは、投資家にと
って都合の悪い状態になります。今、原油先物市場でパラダイム
の転換といわれているのは、バックワデーションからコンタンゴ
に市場が変化してしまったことをいうのです。
 問題は、なぜ、原油先物市場においては、バックワデーション
がコンタンゴになってしまったのでしょうか。
 変化は2004年後半から起こっているのです。この時期はい
わゆる「ピークオイル論」が出はじめた時期と一致します。この
ように原油価格は今後値上がりして高止まりするという観測によ
り、年金基金や投資信託の資金が大量に原油先物市場に流入した
ことが市場の構造変化の原因とする説が現在主流なのです。
 年金基金や投資信託が具体的に何をしたかというと、期近物を
売って、その資金で期先物を購入する――これを大量の資金で繰
り返して行ったのです。その結果、原油価格は期近物よりも期先
物の方が上昇するコンタンゴの状態になったというわけです。
 既出の芥田知至氏――三菱UFJリサーチ&コンサルティング
調査部主任研究員は、年金基金や投資信託の資金が大量に原油先
物市場に入り込んできたことが原油価格高騰の原因であるという
説にやや懐疑的であるという意見を持っています。
 添付ファイルの上のグラフを見てください。このグラフでは左
ほど期近物であり、右に行くほど期先物になります。2004年
10月までの原油先物市場では、「1」のように期先物ほど価格
は低かったのです。これは、バックワーデーションですね。
 芥田氏は、2004年10月までバックワーデーションの状態
であったことについて、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 原油先物市場がバックワーデーションであった理由は1980
 年代以来の継続的な供給力の過剰や長期的な価格低迷があった
 とみられる。長い間にわたって、価格の下落や低迷を経験して
 いたため、原油価格が先行き上昇するという見方が、生じにく
 くなっていた。              ――芥田知至著
     『知られていない原油価格高騰の謎』/技術評論社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、2005年に入ると状況に変化があらわれるのです。
2005年4月には「2」のグラフのようになり、期近物の価格
が下がりはじめ、12月になると「3」のグラフのようになって
期近物の方が期先物より下がるいわゆるコンタンゴの状態になっ
たのです。
 芥田氏は原油価格先物がコンタンゴの状態になったことが過去
にもあったことを上げ、現在のコンタンゴの状態が必ずしも年金
基金や投資信託の資金の原油先物市場への大量流入のせいばかり
ではないといっているのだと思います。
 添付ファイルの下のグラフを見てください。芥田氏はここでは
コンタンゴの状態を見るために「6ヶ月物と期近物の価格差」を
グラフにしているのです。6ヶ月物は流動性は高く、投機的な思
惑や石油関連業者の価格変動リスクに対する意識などもよく反映
していると考えられるからです。
 1990年以降で見ると、2005年と同程度にコンタンゴに
なったのは、1990年の湾岸戦争直前時期と、1997年のア
ジア通貨危機のとき――いずれも期近物の原油価格が足元の需給
緩和懸念などから下落したためあまり価格が変動しなかった期先
物との価格差がプラス方向に拡大したのです。しかし、2500
年にかけては、足元の原油価格が上昇しているにもかかわらず、
期先物については先高感が出ているのです。これについては来週
考えることにします。     ―― [石油危機を読む/20]


≪画像および関連情報≫
 ●コンタンゴの語源を探る
  ―――――――――――――――――――――――――――
  コンタンゴというものは少し変わった言葉である。コンタン
  ゴの語源は、語源は明確ではなく continue という言葉が変
  化したもの、あるいはラテン語の contingo ではないかとも
  いわれている。意味はcontactと同じである。
  ―――――――――――――――――――――――――――

WTI原油の先物カーブの変遷.jpg
posted by 平野 浩 at 04:19| Comment(3) | TrackBack(0) | 石油危機を読む | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
日銀の論文(2010年1月)を見て、「バックワーデーション」「コンタンゴ」を調べてたどりつきました。わかりやすかったです。あありがとうございます。
Posted by 増井山太郎 at 2010年01月23日 21:48
「期近物を売って、その資金で期先物を購入する」の具体的手順を教えていただけますか。
期近を売ってその資金を得るには、保有している現物を実際に売却するように読めますが、年金基金が原油の現物を持っているとは思えません。もしキャリートレードのことを指しているのであれば、順序としては期先を(安く)買って、その決済が来た時に(買った時を同じ相場ツキであれば)高く売り戻してその差益を得る、という意味でしょうか
Posted by 豊岡潔 at 2013年11月27日 09:01
期近物を売って、その資金で期先物を購入するの意味が私も解りません
空売りなら得る資金など無いし
期近物を実際現物受け取って
期先物で売っといて
満期までタンカーなどで保存するのですか?
Posted by めがね551 at 2015年08月14日 07:44
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