ています。それはどういう意味でしょうか。
NYMEX市場における取引参加者には、米国商品先物取引委
員会(CFTC)に報告義務のある業者とそうでない業者がある
のです。
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1.CFTCに報告義務のある業者
・ 当業者 ・・ 原油の実物取引をする業者
・非当業者 ・・ 原油を実物取引しない業者
2.CFTCに報告義務のない業者
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ここで問題なのは、CFTCに報告義務のある業者の中の非当
業者とCFTCに報告義務のない業者なのです。これらの業者は
石油の実物取引はしない投機・投資目的の業者であるからです。
非当業者には、ヘッジファンド、年金基金などの機関投資家が
該当するのですが、彼らは投機や投資の対象として原油先物を購
入しているのです。
非当業者のヘッジファンド、年金基金などの機関投資家は、基
本的に石油産業に関しては専門知識を持たない業者であり、いわ
ば石油に関してはアマなのです。これに対して、当業者は石油事
業者そのものであり、プロということになります。冒頭において
原油の取引市場には、プロとアマが同居している市場といったの
は、そういう意味です。
それでは、石油産業のアマ的存在のヘッジファンド、年金基金
などの機関投資家は、なぜ、原油先物市場に参加しはじめたので
しょうか。
それは、これまで石油を大量消費していた先進国が、今後も安
い原油の時代が続くことに疑問を持つようになったことです。そ
もそも原油は、1980年代以降20年以上にわたって、「1バ
レル=10ドル〜2Oドルの間で推移しており、投資対象として
は、まるで魅力がなかったのです。
しかし、21世紀に入ると事情が一変したのです。それはさま
ざまな要因によって原油価格が上昇したこと、それに加えて原油
需給の逼迫懸念をあおる報告書や論文が相次いで報告されたから
であるといえます。これらを「ピークオイル論」――原油の生産
は既にピークを超えている――というのですが、何となく意図的
の感があります。
大きなインパクトを与えたのは、米投資銀行のゴールドマン・
サックスが2005年春に出した次の趣旨の報告書です。
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原油価格は「1バレル=105ドル」まで上昇する
――ゴールドマン・サックスの報告書
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原油の希少性が高まり、どうやらそれが本当らしいということ
がわかってくると、原油価格が上がってくることは必定であり、
高利回りの投資対象を必死に探している投資家が原油先物市場を
見逃すはずがないのです。
ここで重要なのは、「原油価格は絶対に下がらない」と投資家
が考えはじめているということです。米国最大の年金基金である
カルバース――カルフォルニア州公務員退職者年金基金などが、
これによって本格的に原油を投資対象として検討することをはじ
めていることです。
ここで、言葉の問題ですが、ヘッジファンドなどの投機筋と年
金基金などの投資家を区別して使う必要があります。
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ヘッジファンドなど ・・・・・ 投機筋
年金基金など ・・・・・ 投資家
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「投機筋」と「投資家」はどう違うのでしょうか。
ヘッジファンドなどの「投機筋」は、先物買い、空売りなどの
さまざまな金融手法を駆使するのに対して、年金基金などの「投
資家」は、資金運用手法に大きな縛りがあり、空売りなどで短期
的に利ざやを稼ぐことはできないのです。したがって、運用対象
は、おのずと安定的に利益を上げられる銘柄に長期投資すること
に限定されるのです。
原油先物市場の「買い」と「売り」には、長い間にできた「常
識」というものがあります。実際にNYMEXのWTI原油価格
が「1バレル=10〜30ドル」で推移していたときには、次の
常識というかルールが成立していたのです。
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原油先物価格は、期近物の方が期先物よりも価格は高くなる
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原油先物価格は、「6月物」とか「8月物」といわれますが、
これは「限月」といって、数字は取引の期限の満了をあらわして
いるのです。これに関して、「期先物」と「期先物」という言葉
について知る必要があります。
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期近物 ・・・・・ 満期が近い
期先物 ・・・・・ 満期が遠い
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満期が遠い「期先物」は価格が安いので、そこで買って、満期
が近い「期近物」になって売れば利ざやを稼げる――これが常識
だったのです。これを「バックワーデーション」というのです。
ところが、2004年〜2006年の3年間は、一貫して原油
価格が上昇基調にあったので、すべての限月において原油価格が
上昇していたので、したがって、すべての限月において利益が上
がるようになったのです。これを「スポット・リターン」という
のです。これに対して、先物を買って、期近で売るのを「ロール
・リターン」といいます。この原油先物市場の常識があることか
ら変わることになります。 ―― [石油危機を読む/19]
≪画像および関連情報≫
●ヘッジファンドとは何か
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ヘッジファンドの正確な定義は難しいが、公募によって一般
から広く小口の資金を集めて大規模なファンドを形成するこ
とを目指す通常の投資信託と異なり、通常は私募によって機
関投資家や富裕層等から私的に大規模な資金を集め、金融派
生商品等を活用した様々な手法で運用するファンドのことを
指す。代替投資の一つ。 ――ウィキペディア
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