2008年04月16日

●原油高騰の原因を探る(EJ第2307号)

 原油の価格が高止まりしている原因を明らかにする前に原油価
格に影響を与える3つの油田について説明しておきます。
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 1.NYMEXで取引されているWTI原油
 2.ロンドンのICEで取引されている北海ブレント原油
 3.TOCOMで取引されているドバイ原油
 注:NYMEX ・ ニューヨーク・マーカンタイル取引所
   ICE ・・・ アイス先物取引所、旧IPE
   TOCOM ・ 東京工業品取引所
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、これら3つの油田の原油先物価格が北米、欧州、アジ
ア各市場において、原油先物価格のベンチマークとなっているの
です。なかでもWTI原油が現在マーカーオイル(指標原油)と
して、北米市場だけでなく、世界の原油先物価格のベンチマーク
となっているのです。
 実は、原油価格は、各国の市場が開く時間と原油の性質によっ
て影響を受けるのです。まず、NYMEXで決定した原油価格が
東京工業品取引所で扱っているドバイ原油価格に影響し、さらに
ロンドンICE取引所での北海ブレント原油価格に影響する――
そういう仕組みが働いているのです。
 これに加えてWTI原油は、原油の性質の価値が高いため、そ
ういう意味からも原油先物価格の世界標準となっているのです。
原油の性質の価値が高いとは、硫黄分が少なくガソリンなどが多
く取れる軽質であることを意味します。WTI原油は、北海ブレ
ント原油やドバイ原油に比べて軽質なのです。
 さて、なぜ原油価格は100ドルを突破し、今後も高止まりす
る様相を示しているのでしょうか。
 まず、基本的なことを押さえておくことにします。原油の需要
面での要因について考えます。
 原油需要は増大の一途をたどっています。新興国では、自動車
や航空機の普及が進んだことに加えて、石油化学プラントが建設
され、電力使用量が増えるなど、さまざまな面での原油需要が急
増しています。今後この面の需要は増大すると考えられます。
 それでは、原油の供給面はどうでしょうか。
 供給面では、生産コストの高い原油が供給される傾向は不可避
なのです。開発が容易な油田は既に開発し尽くされ、多額な開発
費を投じないと開発できない案件が増えているのです。これは、
当然原油価格上昇の要因になります。
 もうひとつ米国の製油所の能力不足が上げられるのです。2O
O5年2月の米国エネルギー省の調査によると、米国のすべての
製油所は全米で19ヶ所しかなく、その製油能力は、原油換算で
日量1320万バレルです。しかし、米国国内の消費量は日量で
2800万バレル――あと日量1500万バレルの原油が不足し
輸入する必要があるのです。
 ところが、米国の製油所の分布ならぴにその構造はきわめて不
安定な状態にあります。全米の製油所の能力は、日量1320万
バレルの約60%の約800万バレル分はメキシコ湾岸のテキサ
ス、ルイジアナの両州にあるからです。
 どうしてかというと、メキシコ湾岸は俗に「ハリケーン銀座」
と呼ばれるほど、年に何度も大型のハリケーンの襲撃を受ける地
域なのです。2005年には年間実に12回ものハリケーンが、
このメキシコ湾岸で成長して米国本土を襲い、大きな被害を与え
ているのです。
 それに米国ではここ30年以上にわたって製油所の新設が行わ
れていないのです。最も新しいものでも1976年に完成したも
のであり、今日まで、30年以上使い続けられており、当然設備
は老朽化しているのです。したがって、小さい規模のハリケーン
でも設備の一部が損傷を受けて、製油所の活動が停止することも
あり得ることなのです。そういう意味で米国の製油所はきわめて
不安定なのです。
 米国の製油所の能力が原油価格に影響を与える――ちょっと考
えると不思議な感じがしますが、2006年8月7日に発生した
米国最大の油田――アラスカ州ノーススロープのブルドーベイ油
田の生産停止の影響を述べることにします。
 何が原因かというと、プルドーベイ原油を輸送するパイプライ
ンに腐食と原油漏れが発生したのです。問題のある部分は22マ
イル(約35キロメートル)のうち、16マイル(約26キロメ
ートル)であり、この部分を交換する必要が生じたのです。
 プルドーベイ油田の原油生産量は日量40万バレルであり、米
国国内の原油生産量の10%未満ではありますが、カルフォルニ
ア州を中心に米国西海岸に原油を供給し、カルフォルニア州にお
ける精製原油の20%はこの油田に依存しているのです。
 2006年7月14日――NYMEXのWTI原油価格は終値
で「1ドル=77.03ドル」に達していたのです。イランの核
開発問題、北朝鮮のミサイル発射、イスラエルによるレバノン空
爆などがその原因です。
 しかし、その後イスラエルとレバノンの停戦によって原油価格
は沈静化していたのです。しかし、8月7日のプルドーベイ油田
の生産停止の発表を受けて、NYMEXの原油価格は瞬間的に高
騰して「1ドル=77.30ドル」になり、終値については「1
ドル=76.98ドル」というその時点の史上2番目の高値を記
録したのです。
 このWTI原油の高騰は、ロンドン市場の北海ブレント原油は
78.64ドルと史上最高値をつけ、日本原油市場に上場してい
るドバイ原油も8月8日に72ドルという高値をつけたのです。
 このように、國際原油価格形成のメカニズムは、米国が発信源
となっており、米国国内の製油所のトラブル、ハリケーンの到来
など国内事情によって、WTI原油先物価格が乱高下する構造に
なっているのです。そういう状況が投機筋に買い材料を与えるこ
とになります。        ―― [石油危機を読む/18]


≪画像および関連情報≫
 ●ブルドーベイについて書いてあるブログより
  ―――――――――――――――――――――――――――
  車窓のお供は有名なアラスカパイプライン。緩やかな起伏で
  チラチラと見え隠れしつつ延々と続いています。1977年
  北極海ブルドーベイの油田から石油を輸送するために、様々
  な条件を考えて敷設されたというアラスカ半島縦断全長にし
  て1280キロメートルのグレーのパイプ。自然の大きさと
  人間のすることのすごさに目をみはり、久々に「地上の星」
  のテーマソングが頭をよぎります。
     http://babu.jp/~lorispaw/travel/06-alaska/3.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

ブルドーベイ油田のパイプライン/アラスカ.jpg
posted by 平野 浩 at 04:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 石油危機を読む | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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