「先物取引」について説明します。
Aさん、Bさん、Cさんの3人による「先渡し取引」は、例の
ように12月25日にAさんはCさんから250万円で金1キロ
グラムを買い取り、それをBさんに300万円で売って50万円
の利益を手にすることになります。そういう内容の契約になって
いるわけです。
しかし、Aさんが50万円の利益を手にするには、契約が確実
に果たされることが条件になります。契約の相手によってはリス
クがあり、不便な点が少なくないのです。また、信用のある人同
士でないとできないので、市場がきわめて限定されます。
そこで、AさんとBさん、Cさんの間に中立的な立場の取引所
を入れ、取引すべての仲介をするシステムが考えられたのです。
これによって、契約不履行のリスクも取引所が負うようにすれば
取引は安全に行えるようになります。
この場合、Aさんは契約不履行のリスクから解消されるだけで
なく、取引所との間に同じ受け渡し日の同じ品物の売りと買いが
あるので、受け渡し日を待たずに50万円の利益が確定し、取引
から離脱することが可能になります。このような取引を「先物取
引」というのです。
先渡し取引は、将来の決まった期日に現在決めた価格で実際に
商品を受け渡す取引形態のことをいうのですが、現在の先物取引
では、実際に商品の受け渡しをせずに、期日までに反対売買によ
って差金を決済することができる取引なのです。
反対売買とは、売りに対して買い、買いに対して売りのことを
いいまいす。「売り玉」――売り契約を仕切ることを買い戻し、
「買い玉」――買い契約を仕切ることを転売といいます。「玉」
(ぎょく)とは契約を意味します。
NYMEX――ナイメックス/ニューヨーク・マーカンタイル
取引所――ここで取引される原油がWTI原油であり、世界の指
標原油となっているのです。NYMEXは、最も魅力的な原油先
物市場のひとつであるといわれています。それは、非常に多くの
原油先物の売買への参加者を数多く集めることに成功したからで
す。したがって、そこで決まる原油の価格は、世界の原油市場や
エネルギー市場に大きな影響力を持っているのです。
NYMEXとはどのような取引所なのでしょうか。簡単にその
歴史を振り返ってみることにします。
1872年にNYMEXの前身であるニューヨーク・バター・
チーズ取引所が開設されています。開設してから着実に取引品目
を増やしたあと、NYMEXに名称変更をします。その後、農産
物から鉱工業品にシフトし、1978年には暖房油を上場して、
世界ではじめてエネルギー関連の商品を上場する取引所になって
いるのです。
1994年には、ニューヨーク商品取引所(COMEX)を吸
収したのです。これによって、NYMEXは、次の2つを部門を
有する大きな取引所になったのです。
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1.NYMEX部門
・原油、ガソリン、天然ガス、電力、プラチナなど
2.COMEX部門
・金、銅など
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なお、NYMEXは、世界の多くの取引所が電子取引を行って
いるなかで、現在でも仲介業者がフロアに集まって売買注文を交
わす立ち会い制度を引き続き採用しているのです。
立ち会い制度の利点は、どの業者がどのタイミングでどれだけ
の注文を出したかという情報が分かり易いので、透明性が高いと
いう点にあります。もっとも立ち会い時間外においては、NYM
EXにおいても電子取引システムでの売買を行っています。
なお、NYMEXにおいては、トレーダーが両手の手のひらを
自分の方に向けているときは「買い」であり、逆に両手の手のひ
らを外に向けているときは「売り」をあらわしています。
最新情報によると、NYMEXを運営するNYMEXホールデ
ィングスは、2008年3月にCMEグループ――シカゴ・マー
カンタイル・エクスチェンジ――に買収されています。CMEは
米国シカゴの北米最大の先物取引所です。これによって、CME
グループは、金利・株式・原油・穀物・貴金属の先物などを幅広
く扱う世界最大のデリバティブ取引所となったといえます。
さて、NYMEXの扱っている原油は「WTI原油の」といっ
て、米国オクラホマ州クッシング地区で現物(原油)の引渡しを
条件としている取引なのです。その日量はせいぜい30万バレル
前後であり、取引された原油はパイプラインで米国の一部地域に
供給されているだけで、国際的にはまったく流通していないので
す。WTIというのは、「ウエスト・テキサス・インターミディ
エイト」の頭文字をとったものです。
世界の石油消費量は、2007年度の統計で、日量8500万
バレルであるので、WTI原油はその0.4%程度のシェアに過
ぎないのです。それなのにNYMEXで取引されるのは1日3億
バレルにも及ぶのです。この数字がいかに異常であるかは、その
数が世界が1日で使う石油消費量の3倍強であることを考えると
すぐわかるはずです。
明らかに石油の需給関係とはまるで関係のないところで、原油
の価格が決められているわけです。サブプライム問題以降、原油
価格は、1バレル当たり30ドル以上上昇していますが、世界の
石油の需給関係に大きな変化が生じたわけではないのです。それ
に、第1次石油危機のときのように、OPECが価格の上昇に何
かをしたというわけでもないのです。
一体なぜ、原油価格は「1バレル=100ドル」を大きく突破
したのでしょうか。明日から、これについて考えていくことにし
ます。 ―― [石油危機を読む/17]
≪画像および関連情報≫
●オクラホマ州クッシングとは !?
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テキサス州に隣接するオクラホマ州は、米国の石油輸入施設
や石油精製施設が集中するメキシコ湾岸地域と米国の主要石
油消費地域である中西部やニューヨークをつなぐ架け橋の役
割を果たしていますが、その中でもクッシングは、“世界の
パイプラインの交差点”と揶揄されるように北米の石油産業
の一大中心地で、WTI原油の受渡し地点の役割も果たして
います。 http://com.nsnnet.jp/topics/tpc25.htm
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