です。その価格決定権を産油国によるOPECが奪い、OPEC
が一時期原油価格を支配したのですが、それも長くは続かなかっ
たのです。自ら主導して価格を決めることの難しさをOPECの
盟主サウジアラビア自身が知ったからです。
結局、原油価格は現在のところ「市場」が価格を決定する時代
になっているのです。原油市場に参加する人の中で、今よりも高
い値段であっても原油が欲しいと考える人や高い値段でないと原
油を売りたくないと思う人が多いと価格は上がり、その逆である
と価格は下がるのです。
このことを整理すると次のようになります。要するに需給のバ
ランスによって原油価格は決定されるのです。
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原油の需要が多く供給が少ないと価格は上がり、原油の需要が
少なく供給が多いと価格は下がる
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しかし、現在「1バレル=100ドル」以上になっている原油
価格は、こうした需給関係で決まったものではなく、投機的資金
がどれだけ流れ込むかによって決まるようになっているのです。
これについては、今後の原油価格を予測する際に重要であり、改
めて述べることにします。
ところで、原油については、「原油先物市場」といわれますが
どうして「先物」なのでしょうか。
既出の芥田知至氏は、航空会社の例を引いて次のように分かり
易く説明しています。
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ある日本の航空会社が1機2000万ドルの航空機を20機注
文したとすると注文総額は4億ドルである。注文した時点では
「1ドル=100円」であったが、決済を行う1年後には「1
ドル=125円」になっていたとすると、航空会社にしてみれ
ば、「4×(125−100)=100億円」も損をしたこと
になる。こういうリスクは航空会社としては回避したい。そこ
で「先物」市場が有益な役割を果たす。例えば、先物市場で、
1年後のドルを「1ドル=105円」で4億ドル分を調達する
ことができれば、こうしたリスクは発生しない。
――芥田知至著
『知られていない原油価格高騰の謎』/技術評論社刊
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さて、この「先物取引」には若干「怖い」というか「油断なら
ない」イメージがあります。よく「先物相場」に手を出してスッ
テンテンになったという話をよく聞くからです。
しかし、それは「先物取引」のことを正確に理解していないか
らです。そこで「原油先物市場」を理解するうえから、「先物取
引」について解説します。
「先物取引」について知る場合、「先渡し取引」について理解
する必要があります。「先渡し取引」は「先物取引」の基礎とな
るものであり、実はこの「先渡し取引」――享保15年(173
0)に八代将軍吉宗の時代から行われていたのです。
この場合の取引の対象となった商品は「米」です。当時の大阪
は米の一大集積地であったのです。もともとは淀屋という米屋の
店頭で取引をしていたのですが、後に大岡越前守によって堂島で
米会所取引がスタートしたのです。これは日本における先物取引
のはじめといわれていますが、正しくは「先渡し取引」です。こ
の取引とは、次のような取引のことをいうのです。
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≪先渡し取引とは何か≫
先渡し取引とは、あらかじめ値段と数量を決めて、相対で、将
来の決められた期日に売買を行うことを約束する取引のことを
いう。契約日には値段と数量と受け渡し日についての契約だけ
が結ばれ、実際のお金と品物の交換は将来、受け渡し日が到来
した時に同時に行われる。
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先渡し取引の良い点は、受け渡し日が将来であっても価格が既
に決まっているので、将来の価格変動の影響を受けないというこ
とです。これによって、売る方も買う方も将来の事業計画を立て
易くなります。
しかし、先渡し取引は相対取引ですので、不便な点も多くあり
ます。そこで、先渡し取引の何が問題で、先物取引だとどう解決
されるのかという点について説明します。
添付ファイルを見ていただきたいと思います。Aさん、Bさん
Cさんの3人だけからなる市場を考えます。まず、7月10日に
AさんとBさんの間に「12月25日にAさんは金1キログラム
をBさんに300万円で売却する」という契約が結ばれたとしま
しょう。
AさんはBさんに売却するための金1キログラムを入手するた
め、9月20日にCさんとの間に「12月25日にCさんは金1
キログラムをAさんに250万円で売却する」という契約を結び
ました。この2つの契約はいずれも12月25日を受け渡し日と
する先渡し取引ということになります。
この契約が12月25日に正常に履行される場合は、Aさんは
50万円の利益を手にすることができます。しかし、12月25
日までは利益は入らないことと、Cさんから金1キログラムを購
入する代金250万円を用意しなければなりません。
虫の良いことを考えるなら、自分は少しでも早く利益の50万
円を手にし、後の取引はBとCの間でやって欲しい――というも
のです。もうひとつこの取引の怖いことは、もし、商品の受け渡
し日までにBさんかCさんが倒産したり、逃げたりしたら、Aさ
んは大損害を蒙ることになります。したがって、先渡し取引はよ
ほど信頼できる相手としか取引できないということになり、市場
は限定されます。 ―― [石油危機を読む/16]
≪画像および関連情報≫
●「堂島米会所」とは何か
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堂島米会所(どうじまこめかいしょ)とは、享保15年8月
13日大阪堂島に開設された米の取引所。当時大坂は全国の
年貢米が集まるところで、米会所では米の所有権を示す米切
手が売買されていた。ここでは、正米取引と帳合米取引が行
われていたが、前者は現物取引、後者は先物取引である。敷
銀という証拠金を積むだけで、差金決済による先物取引が可
能であり、現代の基本的な先物市場の仕組みを備えた、世界
初の整備された先物取引市場であった。
――ウィキペディア
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