話題になっています。こういう機会を利用して、石油について詳
しく知っておくことは意義があると思います。
原油を採取してそれを精製するとき使う装置を常圧蒸留装置―
トッパーというのです。巨大な反応塔ですが、そこに原油を注入
し、下から暖めて蒸留するのです。蒸留によって軽い成分から分
留していき、さまざまな石油製品が作られるのです。
炭化水素の種類というと、メタン、エタン、プロパン、ブタン
ぐらいまでは知っている人は多いですが、その先を知っている人
は少ないと思うので、そのすべてを表示し、それがどういう石油
製品に結びついているのかについてまとめたものが次の表です。
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名称 凝固点℃ 沸点℃ 用 途
メタン −183 −162 天然ガス
エタン −172 −89 天然ガス
プロパン −190 −42 液化天然ガス
ブタン −135 −1 液化天然ガス
ペンタン −120 36 溶剤
ヘキサン −94 69 ガソリン
ヘプタン −90 98 ガソリン
オクタン −59 126 ガソリン
ノナン −54 151 ガソリン
デカン −30 174 ガソリン
ウンデカン −26 196 灯油
ドデカン −10 216 灯油
トリデカン −6 230 灯油
トラデカン 5 251 灯油
ペンタデカン 10 268 軽油
ヘキサデカン 18 280 軽油
ヘプタデカン 22 303 軽油
オクタデカン 28 317 重油
ナノデカン 32 330 重油
エイコサン 343 343 潤滑油など
――芥田知至著
『知られていない原油価格高騰の謎』/技術評論社刊
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なお、沸点の低いものほど気体になりやすいのです。さて、蒸
留によってそれぞれ分留していった残りが「残油」といわれるも
のです。残油の中には普通の気圧ではなかなか気化しない、いろ
いろな成分が混ざっています。そこで、気圧を低くして気化しや
すい状況にして分留するのです。
重油は、軽油留分と残油を混合して粘度や硫黄分を調整して作
られるのです。この場合、軽油を中心として残油分をほとんど含
まない重油を「A重油」、残油を中心としてそれに軽油を少し混
ぜたものを「C重油」というのです。
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A重油 → 漁船や農業機械のディーゼルエンジン用燃料
C重油 → 工場や発電所などの大規模ボイラー用の燃料
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潤滑油は残油から作られます。潤滑油の条件として重要なのは
寒い冬でも凝固せず、粘度が一定であることです。そこで、残油
から一定成分を抽出したあと、それに添加剤を加えて望ましい粘
度や耐久性を備えた潤滑油を作り出すのです。
潤滑油、すなわちオイルは、自動車、工場の機械設備、家電製
品の部品が回転などの運動によって生ずる摩擦によって磨り減る
ことを防ぐものです。
自動車などのガソリン・エンジン、ディーゼル・エンジン、飛
行機のジェット・エンジン、船舶用のエンジンなど――これらに
はいずれも潤滑油が必要なのです。ガソリンや軽油や重油を燃焼
することで推進力を得る自動車、飛行機、船舶、農業機械などは
それぞれ同じ石油の成分である潤滑油をいずれも必要としている
のです。このように考えると、石油がいかに大切な資源であるか
がわかと思います。
残油から精製できるもののひとつに「ワセリン」があります。
日本薬局方にワセリンについて次の記述があります。
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ワセリンは、石油から得た炭化水素の混合物を脱色して精製し
たものをいう。 ――ウィキペディア
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いうまでもなく、ワセリンは軟膏剤のような医薬品の基剤や化
粧クリームのような化粧品などの基剤として用いられます。また
潤滑剤や皮膚の保湿保護剤として利用されます。
もうひとつ、残油から採れる重要な石油製品があります。アス
ファルトがそうです。アスファルトは原油の最も重質な成分であ
り、大きな分子量の炭化水素の混合分です。
現在アスファルトは道路の舗装に使われますが、アスファルト
は、古代から塗料や防水剤などとして利用されていたという記録
が残っています。地上にあった原油から軽質分が自然に蒸発して
天然アスファルトができたのです。
天然アスファルトは主に接着剤として使われ、旧約聖書の『創
世記』ではバベルの塔の建設にアスファルトが使われているので
す。アスファルトという単語が英語に現れたのは原油の利用が一
般的になり始めた18世紀に至ってからです。
日本で初めてアスファルト舗装が施されたのは長崎県長崎市の
グラバー園内の歩道なのです。その後東京で舗装がはじまったの
です。使用されたのは秋田県昭和町(現在の潟上市)からはるば
る運ばれた天然アスファルトであったといいます。
ここで述べたもののほかに、石油製品にはプラスチックや合成
繊維などがあるのです。それだけに石油が枯渇したらそれこそ大
変なことになります。 ―― [石油危機を読む/10]
≪画像および関連情報≫
●常圧蒸留装置を描いた切手
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切手の意匠として描かれた石油精製装置は、デリックについ
て多数発行されています。デリックが産油を象徴するなら、
精製搭は、消費国の工業を象徴します。今回は、切手に描か
れた常圧蒸留装置を選んでその一部を紹介します。なお、切
手だけでなく蒸留塔を描いた記念消印については改めて紹介
します。これが、実に多い。旧ソ連邦、ポーランドなど社会
主義国は国威高揚から発行しているようです。製油所内でひ
ときわ高くそびえて見えるのが製油所の心臓部ともいえる常
圧蒸留装置です。
http://www9.ocn.ne.jp/~petro/cdudis.htm
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