2008年03月28日

●福田政権バスの行き先はどこか(EJ第2294号)

 「石油危機を読む」というタイトルを掲げているのに、なぜか
円高や株安のことを書いていて、石油の話がなかなか出てこない
――このように考えている方も多いと思います。
 株安、円高、原油高を「三重苦」と書いている新聞や雑誌もあ
りますが、円高は原油高のマイナスを少し和らげてくれる効果が
あるので、本当は歓迎なのです。なぜなら、石油はドル建てであ
るからです。
 しかし、今回の円高――実は米国に対してだけなのです。ユー
ロを含む15種類の外貨に対しては円安なのです。それもプラザ
合意以後の1985年10月と同程度であるという歴史的円安な
のです。ちなみにユーロに対しては現在は150円台後半程度で
あり、2000年に「1ユーロ=90円」を突破するまで上昇し
た円相場がまるでウソのようです。
 この2000年以降の円安傾向は、急成長するアジアの新興国
や、原油高で潤う資源国通貨が円に対して強くなったことに加え
て、日本で景気が低迷して物価下落が続いたからなのです。
 これを見ると、もはや円ドル相場だけを見ていたのでは、市場
全体が読めなくなってきており、輸出立国をはかってきた日本も
そろそろ円安政策を見直すときであるといえます。これはまさに
経済失政そのものであり、日本の経済の現在の実力を如実に示し
ているといえます。そういう日本経済が置かれている状況を展望
した上で、原油問題を考えてみようとしているのです。
 愛読している「日経BPネット」の「田中秀征の一言啓上」の
第71回に実に面白いレポートが出ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小泉純一郎政権をバスに例えれば、行き先はもちろん「郵政の
 民営化」。バスの前に「郵政民営化行き」と大きく標示してあ
 る。それどころかバスの腹にも後ろにもそう書いてある。その
 上、街宣車のように、運転手の小泉さんが大声で叫びながら走
 る。小泉バスは郵政の民営化が終着点。運転手は降りてしまう
 し、バスもほかには行かない。乗客である国民は、特に郵政民
 営化に行きたかったわけではない。しかし、運転手があまりに
 確信をもって走るものだから、次第に乗客もそれに同調した。
  ――「日経BPネット」/「田中秀征の一言啓上」第71回
―――――――――――――――――――――――――――――
 田中秀征氏は自民党の政治家だったのですが、1993年6月
に自民党を離党し、新党さきがけを結成、代表代行を務めた人で
す。私の印象では、政治家というより学者タイプの人です。現在
は、福山大学教授として教鞭をとっています。
 ここで田中氏が強調しているのは、小泉元首相は「行き先」を
明らかにして走ったということです。政治において、これほど重
要なことはないのですが、それをやった総理大臣は非常に少ない
といえます。
 続く安倍バスはどうだったでしょうか。田中氏は次のように書
いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 安倍晋三政権は、バスの行き先が多すぎた。どこから先に行く
 のかもはっきりしなかった。それに運転手の技能にも乗客は危
 うさを感じた。「小泉さんが熱心に乗車を薦めたから乗った」
 という乗客も多かった。その人たちも、次第に途中で降りてし
 まった。        ――田中秀征氏の上掲レポートより
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かに安倍政権はあれもこれもだったのです。目指すべき行き
先が多いのに優先順位がはっきりしなかったのです。それに運転
――政権運営も稚拙であったといえます。
 それでは、現在の福田バスはどうでしょうか。田中氏は次のよ
うに書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 福田康夫首相が運転する現政権の行き先はどこだろうか。それ
 が必ずしもはっきりしていない。運転手は実直な人柄。運転も
 慎重で安全。しかし、行き先が分からなければ、不安は消えな
 い。「何を目指しているのか」、それがもっと明確であれば期
 待や支持が大きく広がるはずだ。
             ――田中秀征氏の上掲レポートより
―――――――――――――――――――――――――――――
 正直いって、福田政権の行き先は安倍政権のそれよりももっと
わからないのです。田中氏はさきの日銀総裁人事における首相の
リーダーシップはとても褒められたものではなく、新しい政権像
や首相像を打ち出す絶好の機会をこれによって逸してしまったの
ではないかと述べています。全くその通りであると思います。
 このところ目に見えて、日本の国力が落ちていることを感じま
す。それは政治のリーダーシップ――すなわち、首相のリーダー
シップが弱くなっているからであると思います。
 田中秀征氏は、福田首相が描いている政権像や首相像は、おそ
らく父・福田赳夫首相のそれではないかといっています。もし、
そうであれば、内外の環境が一変している今の日本の政治状況に
は、対応できないと指摘しています。首相は経済の現況に対して
あまりにも無関心であるように見えます。
 今回の円高は、対処のしかたが今までとは違うと思うのです。
なぜなら、今回は、その背景にドルの信認が揺らいでいるという
構造的な問題があるからです。
 ここ数年の世界経済は、経常赤字を膨大させながら消費を続け
る米国に世界中がモノを売るという危ない均衡の上になんとか成
り立っていたのですが、それがサブプライム問題を契機に限界が
来てしまったのです。
 したがって、同じ円高、株安、原油高でも従来とは異なる手を
打っていかないと、経済の展望が開けないのです。このあたりの
ことをよくチェックしながら、そのなかで、原油の問題を考えて
いきたい――そう考えています。ドルに対する円高はかなり長く
続きそうです。   ―― [石油危機を読む/05]


≪画像および関連情報≫
 ●2008年3月21日/円対ユーロ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  円は対ユーロでは3営業日ぶりに大幅に反発して始まり、そ
  の後はやや上げ幅を縮小している。12時時点では1ユーロ
  =153円35―39銭銭前後と19日の17時時点と比べ
  2円28銭の円高・ユーロ安水準で推移している。金や原油
  が大幅に続落し、商品先物相場と反対の動きを示しやすいド
  ルが対ユーロで大幅高となったことにつれて、円も対ユーロ
  で上昇した前日の海外市場の流れを引き継いだ。その後は利
  益確定目的の円売り・ユーロ買いも出て、円はやや伸び悩ん
  でいる。              ――日経ネットより
  ―――――――――――――――――――――――――――
●「田中秀征の一言啓上」/第71回

http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/column/shusei/080321_71st/

田中秀征氏.jpg
posted by 平野 浩 at 04:22| Comment(1) | TrackBack(0) | 石油危機を読む | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 田中秀征氏は、小泉元首相は「郵政民営化」という行き先を明らかにして走り、安倍前首相も多すぎたが行き先を示したという。ところが、福田首相は何を目指しているのか不明確だと批判している。そうだろうか?「郵政民営化」や「美しい国」のような生活を直視ない、上滑りなスローガンでごまかされてきたからこそ、今日の混乱があるのではないですか。福田首相は施政方針演説の中で、自民党総裁としては驚くべきことを言っているのです。(正確には言わざるを得ないほど追いつめられている) つまり、
・「政府、行政のこれまでの生産者・供給者の立場から作られた法律、制度、さらには行政や政治を、国民本位のものに改める」
・「国民の安全と福利のために置かれた役所や公の機関が、時としてむしろ国民の害となっている例が続発している」
首相が目指しているものは「今までの統治構造そのものの改革」をしようとしているのではないですか。ある意味革命ですよ、これは。(ま、自公政権下では大きな期待はできませんが)。
明治以来、この国は「富国強兵」「殖産興業」のスローガンを掲げ、戦後は経済成長第一主義のもと、生産者・供給者を最優先してきた、その構造を変えないと、この国はこれ以上もたないと考えているのでしょう。その危機認識は、彼が首相となって直ぐに、消費者保護のための行政機能の強化をうたい、国民生活センターや横浜検疫所を訪ね足りして、消費者庁(省)構想となったのだと思います。
戦後の自民党政権下で消費者・生活者である国民が、計り知れない犠牲となってきた事実を無視することはできません。森永ヒ素ミルク事件、薬害、欠陥製品事故、豊田商事事件・・・最近では、建築・食品偽装、生保の不払い問題、金融の不祥事、極めつけは年金問題など枚挙にいとまナシではありませんか。生活の場で、これらの問題群に直面している日弁連や消費者団体は、消費者庁(省)構想の成り行きを今、固唾を呑んで注視しています。
 田中氏は、消費者行政の責任者である元経済企画庁長官として、何を考えてきたのか、考えているのか。この田中氏のレポートを「実に面白い」とするセンスは、いかがなものでしょうか?
 
 原油高等の問題の核心は、世界的な無秩序投機マネーにあり、これこそ日本でのサミットの中心課題とすべきです。

 *ホームページアドレスを入力しないと受け付けてくれないようですので、しかたなく前勤務先のHPアドレスを入力しました。この内容と前勤務先とは一切関係ありません。
Posted by T.SUZUKI at 2008年03月28日 14:05
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