米国の金融混乱がもたらす円高――これらは日本経済に深刻な影
響を与える要因になります。
外需がダメなら内需に頼るしかないが、景気の減速による雇用
調整圧力が高まるため、個人消費の基礎となる所得環境は厳しい
ままの状態です。生活に関連する物価が上がっているのに対し、
収入は増えていないのですから、消費が大きく伸びる可能性は薄
いと考えられます。しかし、もし、消費が落ち込んでしまうと、
景気の下支えは弱くなります。
これについて安達氏は、そうかといって消費は大きく落ち込む
ことはなく、安定的に推移すると見ています。GDP統計ベース
の家計消費と所得の関係を分析すると、消費は必ずしも所得の動
きに制約を受けていないことがわかっているからであるとしてい
ます。これを「消費平準仮説」というのです。
この点において安達氏は楽観論に立っていますが、日本の個人
消費については悲観論も多いのです。
BNPパリバ証券東京支店経済調査本部長の河野龍太郎氏は個
人消費については次のようにいっています。
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中堅・中小企業を中心とした賃金回復が遅れ、原材料高による
値上げが、家計の実質購買力を低下させ、消費を抑制する。コ
スト増の悪影響がついに家計に波及しつつある。
――河野龍太郎氏/「週刊ダイヤモンド」3/1/2008
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しかし、安達氏のいう「消費平準仮説」に立っても、1996
年〜97年の金融危機のようなことが起きると、消費は確実に大
きく落ち込むことになります。なぜなら、消費は将来の所得見通
しに基づいて決定されるからです。したがって、大手金融機関が
経営破綻するような状況になると、消費者は将来に不安を感じ、
消費を抑えることになるのです。
幸いにもサブプライム問題が日本の金融機関の経営を揺るがし
金融不安を再燃させることは今のところ考えられないので、最悪
の事態は避けられる見通しです。
問題は、現在の日本の景気減速の大きな原因となっている住宅
投資の落ち込みです。2005年に発覚した構造計算書偽装問題
を受けて、2006年に成立した改正建築基準法が2007年6
月から実施されたのですが、これによって、法改正以降の建築確
認申請は滞ったままの異常な状態が続いたのです。
これは、現場知らずの国交省による法改正のミスなのですが、
そのために住宅着工は大幅に遅れ、日本の景気の足を引っ張った
のです。国交省といえば、目下道路特定財源の問題で火の車です
が、こんなひどいミスも冒しているのです。
といっても、2008年1月の住宅投資は、年率換算で120
万戸まで回復しており、マイナス効果は一巡したと見られるので
す。しかし、これは景気の下支えにはなるものの、景気を上へ引
き上げる力はないと安達氏はいっているのです。
つまり、日本経済は海外の景気減速や円高によって、沈むこと
はないものの、そうかといって、自力で上に上がることはできな
い状態なのです。これが「日本経済は浮遊する」理由のひとつで
ある――このように安達氏はいっています。
それでは、日本経済を「浮遊」ではなく、「上昇」させるには
どうすればいいのでしょうか。
重要なことは、欧州を中心とする不動産バブルは明らかに崩壊
しつつあるが、日本はそのブームの完全に蚊帳の外にいるという
事実です。一般的にいって、バブルの崩壊局面において、バブル
の拡大場面で対象外であった金融資産の評価は相対的に改善する
ものです。日本株こそまさにその金融資産であるといえます。ま
して、日本はサブプライムローン問題でも蚊帳の外なのです。
しかし、ここで大きく値を上げていいはずの日本株が前にも増
して相対的下落――アンダーパフォームしているのです。アンダ
ーパフォームとは、その株の株価上昇率が日経平均などの株価指
数を下回ることをいうのです。反対語としてアウトパフォームと
いう言葉がありますが、これはその株の株価上昇率が日経平均な
どの株価指数を上回ることをいいます。
ここで添付ファイルを見ていただきたいのです。これは、20
03年1月以降の日米相対株価の推移をあらわしています。日本
株は2005年8月の郵政解散以降、米国株にアウトパフォーム
して上昇してきたのですが、それを止めてしまったのは2006
年3月9日の日銀による量的緩和解除であり、アンダーパフォー
ムを決定づけたのは、2007年2月21日の日銀の第2次利上
げと7月29日の参院選での自民党の大敗、さらに9月13日の
安倍晋三内閣の突然の退陣だったのです。グラフはそれをはっき
りとあらわしています。
日本の悪いくせは、少し景況感が回復すると、すぐ金融を引き
締め、改革路線を後退させてしまうことです。とくに2007年
5月1日の三角合併解禁以降の「外資締め出し・金融鎖国」路線
は大きな問題です。三角合併解禁とは、消滅会社の株主に存続会
社の親会社の株式を交付して企業合併ができるようになったこと
をいいます。
問題だというのは、この法律によって、比較的簡単に企業を買
収できるようになるということで、主要企業による相つぐ買収防
衛策の発表や外資に対する空港設備規制の動きが顕在化している
ことです。なかでもまずかったのは、空港設備規制の動きが、福
田首相がダボス会議において、今後も改革路線を推進すると発言
して日本に帰国した直後に顕在化したことです。
これでは、そうでなくても外国人投資家への依存度が大きい株
式市場から外国人投資家が逃げ出すのは当然のことです。外国人
投資家から見ると、日本が何を考えているかわからなくなってし
まっているのです。日銀総裁の空席もその一環として大きなマイ
ナスになっているのです。 ―― [石油危機を読む/04]
≪画像および関連情報≫
●アンダーパフォームとアウトパフォーム
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一定の期間にその株がどれだけの収益を投資家にもたらした
か(もたらしそうか)を測る場合には、「その期間に何%上
昇したか(上昇しそうか)」という絶対評価と、「平均的な
収益を何%上回ったか(上回りそうか)」という相対的な評
価がある。アンダーパフォームは相対的な評価に使う。アナ
リストが投資判断する時に使う。比較対照となるのは、日経
平均やTOPIXなどの株価指数で、それらをベンチマーク
と呼ぶ。反対語はアウトパフォームである。
http://allabout.co.jp/glossary/g_money/w001663.htm
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