2008年03月26日

●漂流を続ける日本経済(EJ第2292号)

 止まらない円高――昨日のレポートでも述べたように、この円
高トレンドは簡単には収まらないと考えられます。それでは、今
後日本経済はどうなっていくのでしょうか。
 多くの経済の専門家が今後の日本経済の展望について述べてい
ますが、「週刊エコノミスト」3月25日特大号に掲載された安
達誠司氏――ドイツ証券シニアエコノミストの次の論文は大変参
考になります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   小さくなる自立余地
   『頼りは「米国回復」だけ日本経済の漂流は続く』
    ――ドイツ証券シニアエコノミスト/安達誠司氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 以下、安達氏の論文をベースにして、今後の日本経済の展望に
ついて述べていくことにします。
 今や米国の景気は、リセッション(景気後退)入り直前のとこ
ろにきています。この米国の景気後退は世界経済にどのような影
響を与えるのかについては、次の2つの考え方があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.米国のリセッションは世界経済に相応のマイナスショッ
   クを与える ・・・ リカップリング(再連動)論
 2.米国のリセッションがあっても、新興国などが世界経済
   を牽引する ・・・ デカップリング(非連動)論
―――――――――――――――――――――――――――――
 2008年に入ってから世界的な株価調整が行われており、現
時点では、上記リカップリング(再連動)論が優勢となっている
と安達氏は指摘しています。
 日本では、3月13日の日経平均株価終値は、1万2433円
44銭となっており、約2年7ヶ月ぶりの安値水準に落ち込んで
います。2007年2月26日から今年の3月11日までの株価
騰落率を主要株価指数で示すと次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   米国ダウ平均 ・・・・・・・・・・  3.8%減
   英国FTSEIOO ・・・・・・・ 11.6%減
   日経平均 ・・・・・・・・・・・・ 30.5%減
―――――――――――――――――――――――――――――
 サブプライムローンではほとんど傷を負っていない日本の株式
の下落幅は突出しています。もともと日本の経済の体質が外需依
存経済であることと、株式市場においても外国人投資家への依存
度が高いので、こういう結果になったものと思われます。
 今後起こりうることとして輸出の減速が考えられますが、安達
氏によると、これはリカップリング(再連動)論による影響では
ないというのです。
 つまり、米国経済の後退による欧州や新興経済圏への外的ショ
ックが日本の輸出の減速をもたらすのではなく、それらの国々の
行き過ぎた不動産ブームがもたらしたインフレ懸念と、それを封
ずるための金融引き締めによって景気が減速し、それによって起
こるといっているのです。すなわち、リカップリングではなく、
デカップリングによるものであると安達氏はいうのです。
 欧州及び新興経済圏では、2003年以降の約4年間、金融緩
和政策を取っており、それがグローバルな不動産ブームを巻き起
こしたのです。この不動産ブームは、日本が比較的優位を有する
建設機材や発電機などの資本財や自動車の輸出を拡大させたので
すが、その不動産ブームが行き過ぎたことにより、インフレが懸
念されるまでなったのです。
 このようにして、この不動産ブームは欧州では既に終焉を迎え
ていますが、新興経済圏では今も金融引き締めが強化されている
のです。その結果、当然のことながら景気は減速することになる
のです。これにより、日本の輸出は減速することになります。こ
れについて、安達誠司氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この(不動産ブーム)の終焉とそれに伴う当該地域の内需減退
 は、これらの日本の輸出、いや、日本経済全体を牽引してきた
 比較的優位産業の業績悪化につながりかねない。輸出産業の企
 業業績予想では、米国経済の減速は大方織り込まれているもの
 の、現時点では、欧州や新興経済圏の減速は織り込まれていな
 いと思われる。 ――「週刊エコノミスト」3月25日特大号
―――――――――――――――――――――――――――――
 さて、サブプライムローン問題に端を発した米国における金融
混乱はFRB(連邦準備制度理事会)のバーナンキ議長によって
積極的な金融緩和策が実施されています。
 米プリンストン大学のクルーグマン教授は、金融緩和に加えて
ゼロ金利の必要性を説いています。これに関してFRBは、20
02年に次の論文を発表しており、1990年代に日本が実施し
た金融政策をFRBが取る可能性があります。これは、当時日銀
(速水総裁)の取った量的緩和とゼロ金利政策が、適切な政策で
あったということを示しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   『デフレを回避するために――90年代日本の教訓』
                      ――FRB
―――――――――――――――――――――――――――――
 もし、米国がゼロ金利と量的緩和を取った場合、それは日本経
済にとってかなりの円高インパクトをもたらすことになる可能性
があります。
 そうすると日本経済は、新興経済圏の景気減速と長期化する円
高のダブルショックを浴びることは確実であり、外需依存を強め
た日本経済の成長率をかなり押し下げる可能性があると安達氏は
予測しています。
 こういう状況において、日本はどのように舵取りをしたら良い
のでしょうか。この問題については、明日のEJで考えることに
します。           ―― [石油危機を読む/03]


≪画像および関連情報≫
 ●デカップリングとリカップリング
  ―――――――――――――――――――――――――――
  デカップリングとは、元々、何かと何かを離す、あるいは分
  離することを意味する。昨年、米国でサブプライム問題が表
  面化した後、経済専門家による、この言葉の使用頻度が眼に
  見えて上昇した。彼らが言うデカップリングの意味は、サブ
  プライム問題によって減速傾向が顕在化しつつある米国経済
  と、その他の諸国、特に高い成長率を続ける新興国の経済が
  離れる=違った方向に進む、つまり、米国の経済が減速する
  一方、新興国の景気は堅調な展開を続けるという見方だ。新
  興国の経済が堅調であれば、世界経済も、それほど米国の影
  響を受けないで済むというのがデカップリング論の概要だ。
  デカップリングの反対が、リカップリング=動きが一緒にな
  る、つまり、米国経済の減速で、世界経済全体の景気が悪化
  するとの考え方だ。
       ――http://diamond.jp/series/keywords/10020/
  ―――――――――――――――――――――――――――

安達誠司氏.jpg
posted by 平野 浩 at 04:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 石油危機を読む | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。