(DCA)の軍事ネットワーク/ARPAネットの標準プロトコ
ルとしてです。このようにいわれてもきっとピンとこない人が多
いと思います。一体TCP/IPとは何なのでしょうか。
TCP/IPは、PCの例でいうと、OS――通信のOSのよ
うなものと考えてよいと思います。
PCはPCメーカ独自のハードウェアの上にOSが搭載され、
それがプラットフォームになっています。そのプラットフォーム
上でアプリケーションが動作するわけです。
通信は伝送路(ケーブルなど)というハードウェアの上にTC
P/IPというソフトウェア(OS)が載り、その上位層におい
てアプリケーションが動作する――大雑把にいえばそういう位置
づけになります。添付ファイルを参照してください。
さて、昨日のEJで述べたように、ARPAネットのすべての
ノード(拠点コンピュータ)へのTCP/IPの実装は1983
年4月までに完了しています。こんなに早く実装が完了したのは
当時のARPAネットが国防通信局(DCA)の傘下にあり、軍
事ネットワークとして位置づけられていたため、TCP/IPの
実装を軍の命令として実施することができたからです。
さらに政府は、コンピュータ・メーカにTCP/IPを標準と
して搭載するよう働きかけたのです。しかし、これにはメーカか
らかなり抵抗があったのです。既に自社でプロトコルを開発して
いたところがあり、それをTCP/IPにせよというのですから
反発が起きて当然です。
IBM社は、1974年9月に「SNA」という大型コンピュ
ータ用の通信プロトコルを発表しており、ゼロックス社において
もPARCが1977年に「PUP」という5層レベルから成る
プロトコルを既に実用レベルにまで高めていたのです。
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SNA = System Network Architecture
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とくにPARCのPUPは、TCP/IPを先取りした内容に
なっているのです。もともとヴィントン・サーフが座長を務める
国際ネットワーク・ワーキング・グループがARPAネットの標
準プロトコルを検討していたのです。そのときPUP構築の中心
メンバーであるPARCのロバート・メトカフもこの会議に参加
していたのです。
しかし、ヴィントン・サーフという人は、拙速を非常に嫌うタ
イプだったのです。まして標準プロトコルを定めるには、大勢の
人による合意形成が必要であるという信念の持主であり、会議に
新しいメンバーが加わって異論を述べると、一から議論し直すと
いう慎重さがあったのです。
これに対してロバート・メトカフはこういうノロノロとした会
議では何も生まれないと考えて、その標準プロトコルを決める会
議には途中から出席しなくなったのです。そしてPARCの仲間
と一緒にPUPを作ってそれを実装してしまったのです。
PUPは当初ゼロックス社の「社外秘」とされてきたのですが
1979年7月にはPARCから技術報告が出ています。それは
デビット・ボッグス、ジョン・ショック、エドワード・タフト、
ロバート・メトカフの共著となっているのですが、興味深いのは
そのタイトルです。そこには「インターネットワーク」の文字が
書かれていたからです。
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『PUP:インターネットワークの仕組み』
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PUPはTCP/IPが世に出る前に単純化され、XNS――
ゼロックス・ネットワーク・システム――と命名されています。
このように、世界中にさまざまな独自プロトコルによるネット
ワークが乱立する兆しが出てきたのを受けて、1978年に国際
標準化機構――ISOが、米国、英国、フランス、カナダ、日本
から委員を集めて、オープン・システム相互接続(OSI)参照
モデルを打ち出したのです。
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レイヤ7 ・・・ アプリケーション層
レイヤ6 ・・・ プレゼンテーション層
レイヤ5 ・・・ セッション層
レイヤ4 ・・・ トランスポート層
レイヤ3 ・・・ ネットワーク層
レイヤ2 ・・・ データリンク層
レイヤ1 ・・・ 物理層
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この7層から成るOSIは、現在ネットワークの教科書に載っ
ているものと同じですが、いわゆるARPAネットの4層とは基
本的に異なっていたのです。それはARPAネットの4層にはあ
る「インターネット層」がOSIにはなかったことです。
この時点のOSIモデルでは、「X.25」の方式を「ネット
ワーク層」の標準としていたからです。X.25というのは、既
に述べたように、ヴァーチャル回線方式の通信層のプロトコルな
のです。それにOSIモデルが発表された時点では「TCP」か
ら「IP」は分離していなかったのです。
これを巡ってARPAの打ち出すTCP/IPとOSIモデル
とは、1982年まで激しい主導権争いを繰り広げるのです。論
争の結果、OSIモデルにインターネット層を加えることになっ
たのです。といっても名称は変更せず、OSIのレイヤ3のネッ
トワーク層がARPAでいうところのインターネット層を意味す
ることになったのです。
これに伴い、PARCの開発したLANはデータリンク層に位
置づけられ、X.25もLANと肩を並べるひとつの方式という
ことになったのです。やがてX.25の役割は縮小され、歴史的
役割を終えていくのです。 ・・・・・[インターネット40]
≪画像および関連情報≫
・X.25とは何か
X.25とは、ITU−T(CCITT)で勧告化(国際標
準化)されたコネクション型のデータ通信を行うパケット交
換用のプロトコル体系で、X.25プロトコルを使用した回
線をX.25ネットワークとも呼ぶ。このX.25は、デー
タ端末(ユーザー側。DTE、データ端末装置)とネットワ
ーク側のDCE(回線終端装置)の間のプロトコルで、レイ
3までをサポートしている。
・TCP/IPはPCでいうとOSに該当する
