わたって書いてきました。そして、やっとARPAネットが4拠
点でスタートするところまできました。しかし、この話はまだま
だ終らず、これからがむしろ本番であり、面白くなります。
このテーマは単なるITのテーマではなく、インターネットの
誕生のドラマを通じて現代の米国を知り、米国を理解するための
助けとなると思うので、そういう観点で読んでいただけたらと考
えて、さらにこのシリーズを続けることにします。
IMP(インプ)の話が出てきていますが、これについてもう
少し述べることにします。そもそもIMPとは何をするマシンな
のでしょうか。
通信をするさい、ホスト・コンピュータ(以下、ホスト)は通
信相手を指定してIMPにデータを送ります。IMPはそのデー
タを小さく区切り、宛先情報の入ったヘッダーを付けてパケット
化します。そして、IMPはヘッダーの宛先を頼りに通信相手の
ホストにつながっているIMPにパケットを運ぶのです。
この場合、ホストはそれぞれ異なる仕様なのですが、IMPは
同一仕様なのです。したがって、IMPとIMPの間の通信プロ
グラムは共通のハードを共通のソフトで制御する一種類のプログ
ラムで済んだのです。
しかし、ホストとIMPの間の通信は当然のことながらホスト
ごとに異なってくることになります。しかし、ホストプログラム
は次の2つに階層化されます。ホストのアプリケーションとIM
Pとのやり取りを担うホストプログラムを分けたのです。
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1.アプリケーション ・・・ ファイルの転送/遠隔操作
2.ホストプログラム ・・・ IMPとのデータの入出力
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このパケット交換の基礎技術は、その後登場するルータに引き
継がれるのですが、IMPをいきなりルータと同一視することに
は問題があります。というのは、現在のルータにあってIMPに
ないのは、異なる仕様のネットワークを相互接続する機能である
からです。
この異なる仕様のネットワークを相互接続する機能は「ゲート
ウェイ」というマシンに受け継がれ、ここでいうIMPの機能は
「TCP/IP」(ティー・シー・ピー・アイ・ピー)という有
名な通信プロトコルに発展していくのです。
IMPの基本的な機能には次の3つがあります。これは、ホス
トが、つねに正しいデータを受け取るという前提のもとにIMP
というミニコンがデータの送受信、エラーチェックを専用のハー
ドウェアが担うというものです。
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1.パケットの分解・再編
2.受信確認・データ送信
3.あて先への送信・受信
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1974年に、ARPAにいてロバーツの部下であるロバート
(ボブ)・カーンとスタンフォード大学の助教授をしていたビン
トン・サーフは、ある学術誌に共同で論文を発表します。
彼らは、無線など非常に雑音などが多く、通信に困難な環境で
もきちんとパケットを送受信させるにはどうするかという現実的
な研究をしており、論文はその研究成果をまとめたのです。
論文の内容は、IMPの3つの機能をソフトウェア化し、コン
ピュータに実装することによって、エラー訂正などの機能をホス
トにやらせるという画期的な技術だったのです。先端技術という
ものは、当初ハードウェアで実現したことを技術の進化によって
後からソフトウェア化する――そういう流れになるのです。
そのソフトウェアの名前は「TCP」――しかし、これは現在
のTCPではなく、TCP/IPの全機能をTCPと呼んだので
す。さらに1978年になって、「TCP」と「IP」は分離し
宛先に確実にデータを届ける機能として「IP」を独立させてい
るのです。IPプロトコルの誕生です。
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≪TCP≫
1.パケットの分解・再編
2.受信確認・データ送信
≪IP≫
3.あて先への送信・受信
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ここでARPAについて述べておかなければならないことがあ
ります。それはARPAがときどき名称を変えていることです。
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1958年 2月 7日 ・・・ ARPA
1972年 3月23日 ・・・ DARPA
1993年 2月22日 ・・・ ARPA
1996年 2月10日 ・・・ DARPA
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ARPAは1958年に設立されたことは既に述べましたが、
1972年に「DARPA」と名称を変更しているのです。DA
RPAとは次の省略です。
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DARPA=Defense Advanced Research Projects Agency
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ここまで述べてきたように、もともと軍事目的の先端技術を開
発するのが目的なのに自由にやっているので、わざわざ「防衛の
ための」という言葉を先頭に付けたのです。しかし、93年にク
リントン大統領は再びARPAに戻したのですが、96年になっ
て、また、DARPAとなって、現在に至っています。しかし、
当のARPAの住人は名前には頓着せず、自由に研究を続けてい
るといわれます。 ・・・・・[インターネット28]
画像および関連情報≫
・ルータ関連の歴史
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1973 ・・・ ARPAネット初の国際間接続が成功
1974 ・・・ 「TCP」がIEEEの学術誌に発表
1976 ・・・ BBN、初のTCP実装ルータを開発
1977 ・・・ TCPによる異なるネットワーク接続
1981 ・・・ TCPがTCP/IPに分離して独立
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