2005年09月27日

軍事目的のネットワークかどうか(EJ1684号)

 念願のラリー・ロバーツを引き入れ、ARPAは本格的にAR
PAネットに取り組むことになるのですが、その前に述べておく
べきことがあります。
 それは、インターネット、すなわち、ARPAネットに関する
次の2つの「俗説」の検証です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1.ARPAネットは、ソ連の核攻撃に対応するための軍事
   目的ネットワークである。
 2.パケット通信システムは、ARPAネットではじめて開
   発された通信技術である。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これらの2つは、インターネットについてほぼ常識的にいわれ
ていることです。とくに1つ目の「インターネットは軍事目的の
ネットワーク」として開発されたことについては、私もそうであ
ると信じてきたのですが、きちんとインターネットの歴史を調べ
てみると、必ずしもそうとはいい切れないのです。
 最初に、1994年に起こったある論争をご紹介しましょう。
これは、喜多千草著『インターネットの思想史』(青土社刊)に
詳しく紹介されているものです。1994年といえば、ちょうど
インターネットの普及が加速し始めた時期に当たります。この同
じ年の7月25日付の「TIME」誌は、次のように伝えている
のです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 インターネットは国防総省の分散型コンピュータネツトワーク
 ARPAネットから育ったものであり、もともと核攻撃による
 中央情報施設壊滅を避けるために構想されたものである。
        ――1994年7月25日付の「TIME」誌
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ロバート・テイラーは驚いたのです。自分の愛読誌である「T
IME」誌がとんでもない間違いを書いていると感じたテイラー
は編集長に次の手紙を書いて送っています。そして、自分の意見
を「TIME」誌に掲載するよう求めたのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 核戦争を避けるためのネットワークがインターネットの母胎に
 なったという説が、いかに「おいしい」話であろうとも、当時
 のARPAネットの計画責任者として、それは断じてなかった
 と証言します。          ――ロバート・テイラー
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「TIME」誌の編集長も負けてはいません。テイラーの反論
に対する反論を次のように送ってきたのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 パケット交換方式が、核戦争を避けるために開発されたという
 のは、紛れもない事実であり、この技術こそがARPAネット
 構築に使われたというのは確かな筋からの情報です。したがっ
 て、残念ながらあなたの意見を掲載することはできません。
                 ――「TIME」誌編集長
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ARPAネットがもともと軍事目的で構築されたという考え方
については、テイラーの主張する方が正しいようです。どうして
このような誤解が生じたかというと、1964年に空軍に対して
提出されたある論文と混同されたのです。その論文は、空軍のシ
ンクタンクであるRAND(ランド)社の研究員であるポール・
バランによって提出された次の論文です。
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     「分散型コミュニケーションについて」
              ――ポール・バラン
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ポール・バランという人は、1926年にポーランドに生まれ
ていますが、2年後に一家は揃って米国に移民しています。バラ
ンは、1955年にヒューズ航空機に入社し、ここを経て、19
60年にランド社に移籍しています。
 ちょうどそのとき米空軍は、ランド社に対して軍事通信システ
ムの研究を委託していたのです。そのため、この研究がバランの
仕事になったのです。
 空軍がランド社に委託した軍事通信システムというのは、米国
本土がソ連の大陸間弾道ミサイルによる核攻撃を受けたときでも
耐えられる軍用通信ネットワークを構築するというものだったの
です。つまり、ネットワークの一部が破壊されても、ネットワー
ク全体としては機能できるようにするというものです。
 高高度で核爆発があると、電離層が打撃を受けて、長時間、高
周波での通信ができなくなるのです。そのため低周波の地上波を
使う以外はなくなります。つまり、短距離での地上波を使った放
送局によって、メッセージを中継する通信を使うしかない――バ
ランは、この放送局によるメッセージの中継を自動化することを
考えたのです。これが最終的には、パケット通信につながってい
くのです。
 通信ネットワークには、次の3つがありますが、軍事用のネッ
トワークは「分散型」でなければならないとバランはいっている
のです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          1. 集中型
          2.非集中型
          3. 分散型
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 しかし、バランは「通信はアナログでやるべきである」を主張
するAT&Tの幹部を説得できなかったのです。AT&Tにとっ
ては、結果として電話の将来を危うくするデジタルによる革新的
ネットワークなど、受け入れられるはずがなかったからです。
 そして、このプランは軍事ネットワークとしては、採用されな
かったのです。       ・・・・・[インターネット24]


≪画像および関連情報≫
 ・「ARPAネットは軍事ネットワークである」という俗説に
  対するラリー・ロバーツの反論
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  インターネットは核戦争に耐えるべく軍によって構築された
  という噂が(1964年のポール・バランの論文によって)
  広まり始めた。これは全くの間違いである。たとえランド社
  がこうした前提にたって仕事をしたとしても、ARPAネッ
  トもインターネットも、リックライダー、クレイン・ロック
  ロバーツのMIT派の仕事から生まれてきたのであり、ポー
  ル・バランの仕事とは何の関係もない。
  ラリー・ロバーツ著、『インターネット年代記』/1997
  年3月
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

1684号.jpg
posted by 平野 浩 at 08:46| Comment(0) | TrackBack(0) | インターネットの歴史 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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