2007年11月27日

●明日への願い/エルヴィス復活(EJ第2214号)

 ゴスペル・アルバム『ゴールデン・ヒム』に続いてエルヴィス
は何かをやらなければならないと考えていたのです。というのは
エルヴィスの映画の人気は下がり気味であり、ロックンロールも
ビートルズをはじめとする新興勢力が台頭しつつあったからなの
です。映画からの離脱は、エルヴィスだけでなく、当のパーカー
大佐自身もその必要性を感じていたのです。
 エルヴィスとパーカー大佐がそのように考えていた1967年
秋にNBCテレビから特別番組『エルヴィス』の企画の話が舞い
込んだのです。エルヴィスの復帰イベントとして最適であるので
エルヴィスとパーカー大佐はこれに乗ることに決めたのです。
 早速1968年1月から打ち合わせがはじまったのですが、実
施時期については、その年のクリスマスの季節に1時間番組を組
むことになったのです。問題はどういう内容にするかですが、こ
れを巡って、パーカー大佐とNBCテレビのプロデューサーであ
るスティーブ・ビンターの意見が真っ向から対立したのです。
 パーカー大佐の考え方は、エルヴィスによる単なるクリスマス
の音楽ショーであり、エルヴィスはタキシードを着て、クリスマ
ス・ソングを2O曲ほど歌って、挨拶して引き上げるという単純
なものだったのです。
 しかし、スティーブ・ビンターは、この番組をパーカー大佐の
いうような単なるクリスマス番組にせず、非凡な才能を持つエル
ヴィスという大歌手の劇的な2度目の復帰イベントになるように
すべきであると考えたのです。
 そのためには、リズム&ブルースとカントリーとゴスペルが融
合されたものが真のロックンロールであることを視聴者にはっき
りと確認させる必要があるとビンダーは考えていたのです。エル
ヴィスが映画作りをしている間にまがいもののロックンロールが
流行していたからです。
 エルヴィスは大佐の目の前では大佐の意見に楯つくことはしな
かったですが、大佐のいないところではビンダーの意見に賛成で
あり、全面的に協力することを約束していたのです。そのさい、
エルヴィスは自分の希望として、何らかの方法で世相を反映させ
たいとビンダーに伝えていたのです。
 ビンダーは久しぶりの大型番組なので、エルヴィスにのびのび
と歌ってもらうためにある工夫をしたのです。それは伴奏者にエ
ルヴィスの昔の仲間を集めたのです。スコティ・ムーア、D・J
・フォンタナ、それにドラムのハル・ブレイン、ベースのラリー
・ネクテルなど、これによってエルヴィスは思う存分歌うことが
できたのです。
 最大のポイントは、何らかの方法で世相を反映させたいという
エルヴィスの希望をどう実現させるかでした。ビンダーは、パー
カー大佐には内緒で作曲家のアール・ブラウンに依頼して次のメ
ッセージソングを作曲させたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       アール・ブラウン作曲
       『明日への願い/If I Can Dream』
―――――――――――――――――――――――――――――
 エルヴィスはこの歌を6回ほど黙って聴いていましたが、「ぜ
ひ、歌おう」と快諾したというのです。この歌は次のようにはじ
まるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   『明日への願い』
   きっとどこかに
   もっと明るく灯る光があるはず
   きっとどこかに
   もっと青い空高く飛ぶ鳥がいるはず
   兄弟たちが手に手をとって
   歩める地を夢見ることができるなら
   教えて、なぜ、ああ、なぜ、なぜに
   僕の夢は叶わない、なぜなんだ
    http://www.genkipolitan.com/elvis/best/best_46.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 歌詞は長いので、すべての歌詞は上記URLをクリックして見
ていただきたいが、その内容は故キング牧師の有名な演説『私に
は夢がある』に応える内容になっていることは明らかです。
 ビンダーがパーカー大佐に対してエルヴィスがこの歌を番組の
最後に歌うことを隠したのは、エルヴィスがキング牧師の死に心
を悼めていたことを知り、大佐がそういう問題に対するいかなる
コメントも出すことをエルヴィスに禁じていたことを情報として
掴んでいたからです。
 キング牧師が暗殺されたのは、1968年4月4日のことであ
り、そのキング牧師に対するメッセージソングをその年の暮れの
12月3日に放映するのですから、相当きわどい話です。
 この放映はビデオ収録だったのですが、この番組の最後の曲で
ある『明日への願い』を歌ったエルヴィスについて、既出の前田
絢子氏は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 けれどもエルヴィスは、ゴスペル歌手が着るような純白の正装
 に着替えて、歌の言葉の一つずつに確信をこめて、全身全霊を
 こめて力強く歌い切った。それは、エルヴィスの偽りのない思
 いを率直に伝えていた。それは志半ばにしてあえなく凶弾に倒
 れたキング牧師に捧げる哀悼の歌であり、エルヴィス自身の祈
 りであった。そこには、60年代を通じてエルヴィスが没頭し
 てきた霊的探求の結晶がこめられていた。未来が見えない混乱
 の時代のクリスマスに捧げる、反体制でも、怒りでもない、探
 求者エルヴィスが到達した一つの答だった。
             ――前田絢子著/角川選書/413
      『エルヴィス、最後のアメリカン・ヒーロー』より
―――――――――――――――――――――――――――――
                 ――[エルヴィス/26]


≪画像および関連情報≫
 ・カムバック・スペシャルについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「いよいよ今夜ね」「今夜エルヴィスがテレビに出るのよ」
  「早く帰らなくては」「今夜9時からだったな」1968年
  12月3日全米で交わされた会話はこんなだっただろう。1
  956年に一大旋風を巻き起こし、かってない過激なスタイ
  ルゆえに空前の人気を得ながらもパッシングを受け、82.
  6%という驚異的な視聴率を残しテレビから姿を消した。そ
  の後は1960年のフランク・シナトラショーに除隊を記念
  してゲスト出演しただけだった。テレビの前に座る人は期待
  した。アメリカが世界に誇る稀代のアーティストのピュアな
  姿を。永く目にしたことのない本当のエルヴィスの登場を待
  った。その予感はメディアを通じて伝えられていた。その視
  聴率70.2%。
     ――http://www.genkipolitan.com/elvis/best50.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

明日への願い.jpg
posted by 平野 浩 at 04:23| Comment(0) | TrackBack(0) | エルヴィス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック