2005年09月15日

なぜ、TSSにこだわるのか(EJ1678号)

 MAC計画について説明する前に、IPTOが研究開発支援を
するのにふさわしい分野として、どういう分野を考えていたかに
ついて知っておく必要があります。
 国防総省がARPAのIPTOに求めていたのは、「指揮・統
制システムの自動化」であったようです。これを受けての委員会
の報告をまとめると、次の5つになります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1.指揮官はあくまで人間であって、コンピュータはその補
   助装置と考えるべきである
 2.将来の指揮の自動化については、指揮のための情報には
   何が必要か分析・理解する
 3.指揮官が指揮の中枢になれるコンピュータ支援による指
   揮情報処理システムの開発
 4.現在の機械語は相当よくなっており、プログラミング分
   野のことは研究不要である
 5.問題設定、分析、プログラミングという情報処理技術の
   現状こそ自動化の阻害要因
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これを踏まえて、委員会は研究開発を支援するのにふさわしい
分野として次の4分野の抽出を行っています。
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 1.問題設定、分析、プログラミングの分野の先進的な研究
 2.機械と人間によるコミュニケーションのための必要分野
 3.パターン認識、概念形成・認識、問題解決、学習、意思
   決定、といった分野の構造を理解するために必要な研究
 4.コンピュータのハードウェアの信頼性を向上させる研究
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 しかし、リックライダーは、人間・機械混成システムの完全自
動化には否定的であったし、委員会も現状では無理と認めていた
のですが、4分野の抽出は、あくまで将来の自動化の可能性を探
るという観点からまとめられていたのです。
 しかし、IPTO部長としてリックライダーは、これらの4分
野にはないTSSに強くこだわり、そこに多額の援助資金を投入
しているのです。どうして、リックライダーはこれほどTSSに
固執したのでしょうか。
 それは、リックライダーがSAGEに従事していたとき、空軍
に提出した次の提案の中にヒントがあります。
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  この提案は、人間もコンピュータもそれぞれ最適に能力を引
 き出すためのもの――つまり、人間−機械思考システム構築の
 提案である。・・・・・
  このシステムは情報センターの中に置かれている。工学的知
 識の分野ごとに、全米でおそらくいくつかのセンターが作られ
 ることになるだろう。そして、関係するセンター同士は通信回
 線で結ばれている。
  ひとつのセンターには、情報にすばやくアクセスできる図書
 館が付属しているが、本や雑誌を排除するものではない。もち
 ろん、そこには大きな記憶容量をもった大型デジタルコンピュ
 ータがある。       ――J・C・R・リックライダー
 ――喜多千草著、『インターネットの思想史』より 青土社刊
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 もうひとつデータがあります。それは、リックライダーが19
65年に書いた唯一の本『未来の図書館』の中の次の一節です。
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 産業界や、政府や、教育の場で、「机」の意味が、受動的なも
 のから能動的なものにかわるだろう。机は画像表示装置があっ
 て操作できるものになり、遠隔コミュニケーション・遠隔コン
 ピュータ・システムの中にあることになる。そして、そのもっ
 とも大切な部分が多分ケーブルで、そのケーブルは壁のコンセ
 ントを通して机を認知支援ネットワークにつなげている。
 ――喜多千草著、『インターネットの思想史』より 青土社刊
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 これを読んで最初に思ったことはあのヴァネヴァー・ブッシュ
のメメックス構想です。コンピュータがブッシュのアナログ・コ
ンピュータからデジタル・コンピュータに変わっただけで、構想
そのものは基本的に同じです。そうかといって、リックライダー
は、ブッシュにヒントを得たわけではないのです。
 全米にいくつかの情報センターがあって、それぞれが通信回線
で接続されている――図書館にもコンピュータが設置されていて
それが情報センターに接続されており、ユーザは図書館でTSS
の環境で端末を通じて情報センターに接続し、必要な情報が得ら
れるという構想です。
 この構想でわかることは、リックライダーの考えているシステ
ムはあくまで中央にある大型コンピュータを端末でTSSの環境
によって共同で使うことを前提としていることです。そこには、
小型汎用コンピュータ(PC)への考え方が見えないことです。
だから、TSSは不可欠なのです。
 さて、ここでMITのMAC計画に戻りますが、MACはIP
TOの助成を受けるために立ち上げられたプロジェクトです。実
は、MACには2つの意味があるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  MAC ・・・・ Machine-Aided Cognition ・・ A
      ・・・・ Multi-Access Computer  ・・ B
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 Aは委員会の指定した3の分野をあらわしていますが、BはT
SSを意味しています。これは、リックライダーの建前(A)と
本音(B)そのものです。
 リックライダーは、こうまでしてMAC計画に300万ドルの
多額の予算をつけて、TSSに力を入れているのですが、それは
異常な執念といえます。 ・・・・・・・[インターネット18]


≪画像および関連情報≫
 ・リックライダーの認知支援システム
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  丸と楕円は上級の特別なコンピュータシステムである。四角
  は人間とコンピュータのインターフェースを示している。階
  層4は、大勢のシステムを利用する人のステーションか操作
  卓である。ほとんどの操作卓は電話線でつながれている。直
  線で表わされているのが、いま接続されている状態で、点線
  がこれから接続されうる状態である。階層1の中心は、知識
  の前提を貯めているセンターで、階層2は、そのサブ領域を
  受け持っている。そして、階層3がいろいろなところにいる
  ユーザの情報処理をしている。階層4の利用者のところには
  入出力(制御と画像表示)装置があって、たぶん、ある程度
  の処理能力とメモリーがある。階層1以外はこの図には書け
  ないほど数が多い。
   喜多千草著、『インターネットの思想史』より 青土社刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

1678号.jpg
posted by 平野 浩 at 08:44| Comment(0) | TrackBack(0) | インターネットの歴史 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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