映画の制作に関して、エルヴィスとパーカー大佐の意見は明ら
かに相違していたのです。エルヴィスは、ジェイムズ・ディーン
やマーロン・ブランドのような本格的な映画俳優になりたいと考
えていたのです。したがって、音楽だけを売り物にする映画ばか
りではなく、シリアスな内容の作品にも出演したい――エルヴィ
スはそう考えていたのです。
しかし、パーカー大佐は、エルヴィスの最大の魅力は音楽であ
り、その音楽がいま大衆から受け入れられている以上、それでと
ことん売るべきである――映画はエルヴィスの音楽を普及させ、
世界中に浸透させる手段であると考えていたのです。
その頃制作された映画に次の4本があるのです。これらは、エ
ルヴィスが求めるシリアスな作品と音楽を売り物にする音楽映画
に分けることができます。
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≪シリアスな作品≫
『燃える平原児』 ・・・・・ 1960.12
『嵐の季節』・・・・・・・・ 1961.06
≪音楽を売り物にする作品≫
『GIブルース』 ・・・・・ 1960.11
『ブルー・ハワイ』 ・・・・ 1961.11
―――――――――――――――――――――――――――――
これを見て驚くのは作品と作品の公開間隔の短かさです。19
60年11月と12月、1961年6月と11月――この調子で
制作していたのでは、ほとんど映画制作に時間をとられてしまう
ことになります。それに加えて、映画のサウンドトラック・アル
バムの制作もあるのです。
結論からいうと、パーカー大佐の狙い通り、興行的には音楽を
売り物にする映画が圧倒的に好評だったのです。シリアスな内容
の2本の作品では、エルヴィスは好演したものの、興行的には今
ひとつの結果に終わったのです。
『GIブルース』は復帰後最初の映画だったのですが、記録的
な興行成績を上げ、そのサウンドトラック・アルバムはビルボー
ド・アルバム・チャートでナンバーワンになっています。
『ブルー・ハワイ』にいたっては、数年来の米国映画の空前の
ヒット作になったのです。その興行成績は1957年の『OK牧
場の決闘』をはるかに凌いだのです。
この映画のサウンドトラック・アルバムは、ビルボード・アル
バム・チャートの第1位に輝き、その後1年間にわたって、売り
上げチャートの第1位を独占したのです。
この映画は日本でも空前のヒットになったのですが、それは当
時一般の人々には手の届かなかったハワイ旅行に行った気分にな
れる映画として、人気を呼んだのです。
ところでこの映画の主題曲『ブルー・ハワイ』という曲の由来
をご存知でしょうか。イントロからしてハワイのムードがダイレ
クトに伝わってくる名曲です。
実は最初に歌ったのはビング・クロスビーなのです。1937
年の映画『ワイキキの結婚』のタイトルソングとして、レオ・ロ
ビンソンとライフ・レインジャーの2人によって作曲され、映画
の中でビング・クロスビーが歌ったのです。
その後、クロスビー・バージョンはシングル・カットされ、全
米でヒットしているのです。さらに、1958年から59年にか
けて、ビリー・ボーン・オーケストラでリバイバル・ヒットし、
その後エルヴィスがレコーディングしているのです。
そのほか、フランク・シナトラ、マントヴァー二・オーケスト
ラ、ベニー・グッドマン、レイ・アンソニー、そして『ハネムー
ン・ベガス』で、ウィリー・ネルソンがカヴァーしています。
エルヴィスは、1961年3月、ハワイでチャリティ・コンサ
ートを開いています。このライブのあと、エルヴィスは7年間に
わたって聴衆の前に立つことはなかったのです。パーカー大佐の
指示に従い、一年に3本の割合でただひらすら映画とそのサウン
ドトラック・アルバムを作り続けたのです。
短い期間で映画を制作すれば、どうしても粗製乱造になり、質
に問題が出てくるのは当然の結果です。売り上げ第一主義の二流
以下の映画のシナリオを与えられたこと、映画の画面にしか通用
しないサウンドトラックの歌の数々――それらがエルヴィスの才
能と意欲を押し潰していったのです。
それでも彼のキャリアは隆盛を極め、人気の頂点に立っていた
のです。その頃のエルヴィスの心境を既出のボビー・アン・メイ
ソンは次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
彼のキャリアは隆盛を極めていたが、さらに奥深いレベルでは
大佐の操作は不幸をもたらすものだった。エルヴィスはツァー
をやめ、60年代、スタジオでの大量の時間を質の疑わしいサ
ウンドトラックのレコーディングに費やした。サウンドトラッ
クは機械的で事務的な条件で、組合規定に従った休憩時間つき
で行われた。それはエルヴィスの集中力とインスピレーション
を粉砕する条件だった。エルヴィスの創造性はやりがいのない
仕事に苦しみ、彼は自分がますますフラストレーションを感じ
ていることに気づいた。彼は自分の映画が月並みなのを知って
いた。またレコーディングするようにと頼まれる歌の多くに気
恥ずかしい思いをした。しかし彼は映画でも音楽でも、もっと
ましな演目の申し出があるだろうという希望にすがるしかなか
った。 ――ボビー・アン・メイソン著/外岡尚美訳
『エルヴィス・プレスリー』より。岩波書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
このようにして、エルヴィスはキャリアはパーカー大佐に依存
し、個人的な財政管理は父親にすべてまかせ、自分は気晴らしと
満足感を得る役割を自認するようになったのです。お金は使い切
れないほどあったのです。そんなとき、ビートルズがエルヴィス
を訪問してきたのです。 ―――[エルヴィス/21]
≪画像および関連情報≫
・添付ファイルの説明
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映画『ブルーハワイ』のハワイ・ロケ中にエルヴィスを訪ね
た雪村いづみ。この頃、エルヴィスは少しおなかの出っ張り
を気にしていたといいます。
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2007年11月19日
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