2005年09月05日

コンピュータは電子計算機にあらず(EJ1670号)

 中高年の人はコンピュータが苦手である――日本ではこれが通
り相場になっています。日本では大企業の社長や役員、ベテラン
の政治家、財界の大物など、一部の例外はあるものの、コンピュ
ータはダメのようです。そういう人たちの中でかなり使える人が
いると、それはニュースになるほどです。
 それでもコンピュータ関連の大企業のトップは違うだろうと考
える人がいるかもしれませんが、私の知る限り、そういう業界で
も使いこなせる人はあまりいないと考えてよいと思います。紺屋
の白袴は意外に多いのです。
 どうしてかというと、彼らはコンピュータを次のように考えて
いるからです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      コンピュータは「電子計算機」である
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ところが、PCを使う場合、一番多いのはワープロ、次いでイ
ンターネット関連の操作でしょう。ワープロは文章を作成するも
のですが、この場合、コンピュータを電子計算機と考えている人
は、「電子計算機」と「文章作成」の関係がわからないのです。
「なぜ、文章を作成するのに計算が必要なのか」と考えてしまう
からです。
 また、インターネットでメールを受発信する――なぜ、計算機
にそんなことができるのか――これも理解できないのです。さら
に、コンピュータが「スカイプ」のように電話にもなるといわれ
ると、完全に理解不能に陥ってしまいます。
 前回までに述べたように、かつてコンピュータは電子計算機そ
のものだったのです。主として砲弾の弾道計算に使われていたわ
けです。しかし、シャノンの情報理論によって、コンピュータは
単なる計算機ではなくなり、その可能性は一挙に拡大し、何でも
できる魔法のマシンと化したのです。
 ワープロは、「文字」という情報をコード化し、ビット化する
ことによって、実現されています。これにデジタル化ということ
が深く関連してきます。アナログからデジタルへ――この代表的
な例として、音楽CDやMDがあります。
 かつてのレコードは、音の情報をレコード盤の溝に刻み込み、
それをレコード針がなぞることによって再生しています。レコー
ドの音の情報は切れ目がなく、連続しています。これは、アナロ
グ情報であり、コード化されていない情報です。
 これに対して、CDやMDは音が連続していないのです。少し
専門的にいうと、CDの場合、44.1KHz(キロヘルツ)ご
とに音を分割してしまうのです。44100分の1秒の単位で分
割するのです。これを「サンプリング――標本化」といいます。
 次に、その分割された音の情報(音圧の高さ)をビットのかた
ちにコード化するのです。つまり、0と1の2進法のデータに変
換するのです。これを「量子化」といいます。
 したがって、CDには音の波形そのものは記録されておらず、
そこに記録されているのは、アナログの音をこま切れにしてビッ
ト化した0と1の情報だけなのです。
 それでは、なぜ、44.1KHzでサンプリングするのかとい
うと、このレートの場合、ちょうどその半分に当る22KHzま
での高音が正確に再現されるからです。なぜ、22KHzかとい
うと、人間の耳にはこのレベルまでしか聞こえないからです。
 したがって、理屈の上では、音の情報をできるだけ細かくサン
プリングした方が音に忠実にデジタル化できるのですが、聞こえ
なければ意味がないということで、44.1KHzでサンプリン
グしているのです。
 絵画や写真についてもデジタル化は可能です。
 まず、絵や写真を細かい升目に分割します。これはサンプリン
グ――標本化ですね。次に、その升目のそれぞれについて、その
中の色を読み込み、あらかじめ決めておいた対応表にしたがって
色を数値に置き換えるのです。これは量子化です。このようにす
ると、絵画でも写真でも単なる0と1の数字情報と化してしまい
コンピュータで扱うことができるのです。
 このようにシャノンの情報理論によって、コンピュータは単な
る計算機から情報を処理するマシンに変貌したのです。したがっ
て、コンピュータは電子計算機ではなく、「EDPS」と定義す
べきです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      E ・・・ Electronic  電子の
      D ・・・ Data     データを
      P ・・・ Processing  処理する
      S ・・・ System    システム
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ここまでの説明で、シャノンがコンピュータの発達にどれほど
貢献したかについてはわかっていただけたと思います。また、情
報理論は通信の発展にも大きく寄与したのです。
 しかし、このクロード・シャノン――かなり変わり者であった
ようです。そして、大のマスコミ嫌いで、彼に関する情報はあま
りにも少ないのです。
 シャノンは1916年4月30日にミシガン州のゲイロードと
いう小さい町で生まれています。祖父は発明家で、父親は判事、
母親はドイツ移民の娘でゲイロードの高校の先生だったのです。
 1932年にゲイロード高校を卒業し、16歳でミシガン大学
に入学しています。数学と物理が好きで、機械いじりや電子工作
が得意であったといいます。1936年に電気工学科と数学科を
卒業するという2学科専攻のダブル・メジャーを達成しており、
成績は抜群であったといわれています。
 そのときMITで微分解析機を保守する研究助手を募集してい
たので、それに応募して採用されています。ヴァネヴァー・ブッ
シュとの接点はここで生まれるわけです。MITでシャノンは大
活躍をはじめるのです。 ・・・・・・・[インターネット10]


≪画像および関連情報≫
 ・CDの音は「冷たい」?
  CDの音が物足りないという人が少なくない。そして、それ
  は音をぶつ切りにしているせいであるという人がいる。CD
  の音を聞き慣れている若者の間で、最近LPがブームになっ
  ていると聞く。LPはアナログで音をカットしておらず、聴
  くと雑音は入るものの、何となく音が「温かい」から人気が
  あるというのである。
 ・SACDというものがある。これは、100KHzまで録音
  可能であるという触れ込みである。私はSACDのプレーヤ
  を持っており、聴いてみたが、普通のCDに比べて別にどう
  ということはない。専門家に聞くと、SACDの音を満足に
  聴くには、超音波帯を再生可能な高性能スピーカが必要であ
  るという。こんなものが普及するはずがないと思うが。

1670号.jpg
posted by 平野 浩 at 09:12| Comment(0) | TrackBack(0) | インターネットの歴史 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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