2005年08月24日

電子メールはいつから始まったか(EJ1662号)

 EJで今まで取り上げてきたテーマに比べて、今回のテーマで
ある「インターネットの歴史」はいかにも地味であり、面白くな
さそうに見えます。また、ITや技術の話は苦手であるとして、
読むのを敬遠する人もいるかも知れません。
 しかし、それでは困るのです。むしろ、技術に弱い人ほど、今
回のテーマは読んでいただきたいのです。現在の世の中において
インターネットの恩恵を受けていない人はほとんどいないでしょ
う。少なくとも、EJの読者はPCを所有し、インターネットを
利用している人々であり、そういう意味でインターネットの恩恵
を享受されています。私が毎日大勢の人々にEJをお送りできる
のもインターネットのおかげといえます。
 インターネットの素晴らしいことは、メールやサイトという手
段を通じて、世界中の人々とコミュニケーションができる点にあ
ります。ここで私たちが忘れてはならないことは、そういうネッ
ト・コミュニケーションのコストがきわめて低いことです。それ
は、多くのインターネットの開発者たちが誰一人として権利(特
許)を主張しなかったことにより、実現されていることをご存知
でしょうか。
 WWWの開発者として知られるティム・バーナーズ・リー、イ
ンターネット・プロトコルの生みの親であるヴィンセント・サー
フやロバート・カーン、ハイパーテキストを考案したテッド・ネ
ルソン、電子メールの考案者として知られるレイ・トムリンソン
などなど――誰もひとりとして特許を主張していない。これは驚
くべきことであります。そういう人たちのおかげで私たちはイン
ターネットという便利な道具を自由に使えるのです。
 しかし、私たちはそういう人々をあまりにも知らなさ過ぎると
思うのです。したがって、こういう開発者たちに敬意を払い、感
謝する意味でも、彼らに関してもっと関心を持つべきだと思うの
です。これがEJでこのテーマを取り上げた理由であります。
 インターネットは誰がはじめたか――これは難問なのです。イ
ンターネットの主要なサービスのひとつである電子メール(以下
メール)はいつからはじまったかを例にして考えてみます。
 インターネット上でメールをやり取りするには、メールアドレ
スというものが必要です。メールアドレスは、アットマークと呼
ばれる「@」記号を中心に、@の左の部分はユーザ名、右の部分
は、ドットでいくつかに区切られるドメイン・ネームというもの
が記述されています。これは、メールの送受信に使うコンピュー
タがどこにあるかを示しているのです。
 メールがいつからはじまったかを考える場合、第1の考え方と
して、「@」の右の部分の記述のやり方が統一され、標準化され
た時点――すなわち、ドメンネーム・システムが生まれ、それが
世界中で使えるようになった時点――これを基準として使う方法
があります。
 この考え方に立つと、1983年にドメインネーム・システム
の標準化ができているので、メールはこの時点からはじまったと
いうことになります。この観点からは、このドメインネーム・シ
ステムを使って実験を成功させたジョン・ポステル――昨日のE
参照――がメールの創始ということになります。事実、ポステ
ルは「インターネットの父」と呼ばれているのです。
 第2の考え方として、「@」を中心に、左の部分にユーザ名、
右の部分にホストコンピュータ名を書くという方法で、メールを
やり取りするシステムが考案され、実験が行われた時点をもって
メールの創始とする考え方があります。
 この考え方に立つと、1971年にARPAネット(後で詳し
く説明)上のコンピュータ間で、メールをやり取りする実験が行
われているので、この時点をもってメールの創始と考えることが
できます。この実験を行ったのがレイ・トムリンソンなのです。
そのため、トムリンソンは「メールの発明者」、「アットマーク
の父」と呼ばれているのです。
 さらに第3の考え方があります。
 そもそも第2の考え方の土台になる発想――コンピュータを介
して「手紙」をやり取りしようという発想――そういうアイデア
が生まれた時点があり、それが具体化されて使われるようになっ
たということがあれば、その時期こそメールが始まった時点であ
るという考え方です。
 調べてみると、「@」の使用に先立つ1960年代半ばにおい
て、「メール」と呼ばれるデジタル情報を個人間でやり取りして
いたことがあるのです。それは、大勢のエンジニアが大型汎用コ
ンピュータを共用する方式――時分割処理システムにおいて既に
行われていたのです。
 しかし、時分割処理システムは汎用ではなく、システムごとに
異なる運用が行われていたのです。したがって、このメールのや
りとりは、ひとつのコンピュータを共用する人々の間でのコミュ
ニケーションにとどまっていたのです。
 トムリンソンは、このような独自のルールを持つ時分割処理シ
ステム同士をつないで、他のシステムともメールをやり取りする
ために、「@」記号を使って、ユーザがどのコンピュータからメ
ールを出しているかを明示して、ネットワークを介してメールを
送る実験を行い、成功させたというわけです。
 このように、メールひとつとっても、以上の3つの考え方によ
り、その創始の時期が異なってくるのです。いずれにしても、メ
ールという技術的手法が生まれたのは、1960年代半ばである
ということがわかります。約40年前の話です。
 3つの観点を整理すると、次のようになります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第1の視点 ・・ ネットワーク間をつなぐ決まり事ができる
 第2の視点 ・・ 決まり事のベースとなった技術の開発使用
 第3の視点 ・・ 上記の技術がどんな発想から誕生したのか
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
               ・・・・[インターネット02]


≪画像および関連情報≫
 ・過去から未来で/探検!つうしんワールド
  「電子メールの開始」
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   http://www.ntt-west.co.jp/basic/faq/html/in_02/
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

1662号.jpg
「起源のインターネット」
posted by 平野 浩 at 08:55| Comment(0) | TrackBack(0) | インターネットの歴史 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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