2000年04月13日

●部分と全体との関係を解明(EJ第359号)

 「複雑化すると新しい性質を獲得する」ということについて、
昨日お話ししました。今朝はこの話をもう少し発展させることに
しましょう。
 このことに関して「水の三態」という例がよく使われます。水
は温度を高く変化させ、摂氏100度以上になると、「水蒸気」
という新しい性質を獲得します。つまり、気体になるわけです。
逆に温度を下げて摂氏零度以下になると、今度は「氷」という固
体の性質を示すことになります。つまり、水は温度を変化させる
ことによって「液体」「気体」「個体」という三つの性質を有す
るわけです。このことを考え合わせても、「複雑化すると新しい
性質を獲得する」ということはいえると思います。
 社会現象においても同じことがいえます。人間一人ひとりの個
人は、それぞれ理性的な性質を持っていても、数百人から数千人
も集まると、「群集心理」という全く別の性質を示すことがあり
ます。
 これまでの近代科学では、「要素還元主義」といって、研究の
対象を細かい要素に還元し、それぞれの要素を詳しく「分析」し
たあとで、これらを「総合」することによって、対象の全体像を
理解するという方法をとってきたのです。
 しかし、これらの科学が研究の対象とする宇宙、地球、自然、
社会、市場、企業は、いずれも「複雑化すると新しい性質を獲得
する」という特性を持っているため、要素に分割したとたんに、
獲得された新しい性質が失われてしまうので、分割する前の全体
像を正確に認識できなくなってしまうのです。このことは今まで
金科玉条とされてきた近代科学の要素還元主義の限界を示すもの
に他ならないのです。
 かなり大雑把にいってしまうと、今までの要素還元主義は、世
界というものを巨大な機械とみなす「機械的世界観」に立ってい
たということができます。しかし、現代では、逆にその研究対象
を“機械”ではなく、むしろ“生物”とみなして考える傾向が強
くなってきたといえるのです。
 それらを象徴的にあらわすものとして、かつて大きなブームと
なった「たまごっち」があります。「たまごっち」は人工物です
が、生物により近いおもちゃであるといえます。
液晶画面の中でたまごを孵し、生まれた子供を育てていくとい
うゲームですが、持ち主が寝ている間も成長を続け、予想のつか
ない動きをするのです。ちゃんと餌をやらないと死んでしまうし
つまり、何が起こるか分からない、どういう結果が生ずるかわか
らないという「生物タイプ」のゲームなのです。
 研究対象を“生物”とみなして考えるという傾向は、人工生命
の研究に結びついてきます。この研究は米国ニューメキシコ州に
あるサンタフェ研究所においておこなわれています。この研究に
おいて、興味あるシミュレーションがあるので、ご紹介します。
 その研究とは、クレイグ・レイノルズによっておこなわれたも
のであり、「鳥の群れの研究」と名付けられています。鳥は教え
たわけでもないのに、なぜあのように整然と群れて飛ぶことがで
きるのかを解明しようというわけです。
 結論を先にいうと、一羽一羽の鳥に次の3つの行動規則を与え
ておくだけで、これらの鳥はまるで集団としての意思があるかの
ように一定の秩序を持った群れを形成しているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  1.近くの鳥が数多くいる方向に向かって飛ぶこと。
  2.近くにいる鳥達と飛行の速さと方向を合わせる。
  3.近くの鳥や物体に近づき過ぎたら、離れること。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 このように、個が一定の規則に基づいて自発的に行動するだけ
で、全体が一定の秩序を形成するという特性を「創発性」と呼ん
でいるのです。
 先ほど、要素還元主義において「分析」という手法が限界に達
しているということをお話ししましたが、そもそもものごとを設
計、組立、制御、管理という手法でコントロールしようという発
想は、意識するしないにかかわらず、その対象を“機械”として
考えている証拠です。難しいことばで恐縮ですが、これを「機械
的世界観」と名付けています。これが従来の発想です。
 これに対して、これからは「生命的世界観」にもとづいて発想
するべきであるとして、複雑系が生まれたのです。この考え方に
もとづいて「創発性」という考え方が生じてきます。田坂広志氏
によると、「創発は、ボトムアップ的なプロセスとトップダウン
的なプロセスが同時に生ずる双方向的なものである」と述べてお
られます。
 このことは、自然界を例にとって考えるとわかりやすいと思い
ます。この地球には、個々の生物が集まって生態系を形成してい
ますね。ここで、個々の生物は「部分」であり生態系は「全体」
とあるということができます。
 生態系は当然ですが、個々の生物に大きな影響を与えています
が、逆に個々の生物も生態系に影響を与えているのです。これが
「全体が部分に影響を与えるとともに、部分も全体に対して影響
を与える双方向なもの」という意味です。これは、地球の上に誕
生した生物が、数十億年かけて地球そのものの環境を生物の生存
に適したものに変えていったという「地球生命圏ガイア」の理論
により理解することができます。
 これは、地球という生命圏(全体)と個々の生物(部分)が、
お互いに影響を与えながら変化し、進化していったことを意味し
ています。これを「共進化」というのです。
 「創発性」と「共進化」。難しいことばが続々と出てきました
が、このことを理解していないと、現在生じつつある新しい市場
「エレクトロニック・コマース」の本質を理解できないのです。
この市場は、従来の市場に比べて複雑系としての性質を色濃く有
しており、その市場で成立する経済法則や市場原理は、これまで
の経済学のテキストを塗り替えるものになることは、間違いない
からです。            −−[複雑系の話/02]
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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