田総理は、「年内に解散はしない」という自らの意思を自民党幹
部に伝えたといわれています。
岸田首相は、「人の話を誰よりも熱心に聴く」ということを自
らいい、人から話を聞くとき小さなノートを出して、メモをとっ
ています。しかし、案外岸田総理は、人の意見は聴くものの、本
当にやりたいことは自分の意志で決めています。それは、かなり
頑固であり、一徹そのものです。
どうしてこうなってしまうのでしょうか──それは、首相ご本
人が経済というものがわかっていないからです。首相は「国民一
人当たり4万円の所得税の定額減税」、住民税未払い世帯には、
「世帯当たり7万円給付」を自分の口で説明しています。このプ
ランは、木原前官房副長官が首相にアドバイスしたものとされて
いますが、きっと岸田首相は増税批判が激しくなっていたときで
もあり、「これはいける」と考えたのでしょう。
さっそく実現に向けて政策化の指示を行ったのです。所得税減
税は、「1回で終わりか、恒久減税か」が議論されるものなので
す。橋本政権においでも同様のことが起きています。橋本減税に
ついては、11月3日付の東京新聞の次の記事があります。
─────────────────────────────
岸田文雄内閣と同じ定額減税を行ったのは橋本龍太郎内閣だ。
アジア通貨危機や山一証券などの破綻で金融不安が広まった97
年12月、橋本氏は急きょ減税を表明し、翌年2月からスピード
実施した。だが、98年の参院選で減税の恒久化を巡り、発言が
迷走し、自民党は惨敗し。退陣に追い込まれた。当時を知る与党
の税制調査会関係者は「表明2カ月で減税は快挙だったが、その
後の発言が首を絞めた」と振り返る。
──2023年11月3日付、東京新聞より
─────────────────────────────
所得税の定額減税には、このような大失敗があったのです。そ
の後、どうなったかというと、橋本氏の後を継いだ小渕恵三首相
は「恒久的な減税」として、定率減税(20%)に変更し、20
05年に小泉純一郎首相が全廃を決定。それでも07年まで続い
ています。
岸田首相としては、当然そのことを知っていたはずであるし、
もっと慎重に行うべきであったといえます。鈴木財務相、宮沢税
調会長が「減税は1回限り」を繰り返し、主張するのは、この橋
本政権の失敗があったからであると思われます。それでは、岸田
政権は、どうすべきだったのかです。
EJでは、たびたび取り上げていますが、産経新聞特別記者で
ある田村秀男氏の夕刊フジのコラム「田村秀男/お金は知ってい
る」を参考にして述べることにします。
「エンゲル係数」をご存知ですか。
「エンゲル係数」は、経済的なゆとりを示すものといわれてい
ます。エンゲル係数は、家計の消費支出にしめる食料費の比率の
ことです。添付ファイルの上のグラフを参照してください。
日本のエンゲル係数は、1950年代はじめの50%台から下
がり続け、1970年代には30%、90年代には25%を切っ
ています。しかし、2015年あたりから少しずつ上がり始め、
コロナ禍の22年は26%を超え、2013年に入ると、31%
に達しています。これは、円安によるコストプッシュインフレが
原因です。
棒グラフは、家計の消費支出を表しています。2023年は実
質賃金が前年より大きく落ち込んでおり、物価の値上がりに賃上
げが追いつかず、消費を減らさざるを得ない状況がよく読み取れ
ると思います。棒グラフのうち、色の薄い棒は、食料消費の割合
を表していますが、その上昇は激しく、4月以降は8%台、9月
には、9%に達しています。しかし、食料品は、たとえ価格が上
がっても、食べ物を減らすことはきわめて困難です。
添付ファイルの下のグラフをご覧ください。この折れ線グラフ
は、円相場と消費者物価の関係を示しています。青い折れ線グラ
フは消費者物価指数、赤い折れ線グラフは、食料品価格を示して
います。これによると、日本の物価の上昇率はせいぜい4%程度
であるものの、食料の値上がりは急速であり、9月には9%に達
しています。国民が求めているのは、この値上げを何とかしてく
れということです。それなら、消費税の軽減税率(食料品などは
8%)を暫定的にでもゼロにするのがいいのです。
食料品であれば、財務省のいう買い控えは起きないし、税法改
正に多少時間がかかっても実質的な可処分所得の増加につながる
ので、国民は歓迎するはずです。そのうえで、非住民税世帯には
世帯当たり一定の給付金を支給すれば、個人消費は上昇するはず
てす。しかし、財務省はそれがわかっていてもやろうとしないの
です。一番良いと思われる方法があるにも関わらず、ザイム真理
教化しているからです。田村秀男氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
現実に、自民党の若手議員らによる「責任ある積極財政を推進
する議員連盟」は10月早々にまとめた消費税減税案で食料品課
税ゼロを盛り込んだが、岸田政権は一蹴した。背景には近い将来
の消費税増税をもくろんでいる財務省の思惑がある。政府の政策
が的外れだと、問題をさらにこじらせる。(中略)
今の円安は米の高金利と日本の超低金利の格差が広がっている
からだとは、だれもが知る。外国の投資ファンドを中心とする投
機勢力はあやふやな日銀政策につけ込んで、国債と外国為替市場
を席巻している。投機に対抗するなら、マイナス金利の解消や、
大幅な長期金利上昇を容認するしかないが、住宅ローン金利の大
幅上昇、さらに企業の設備投資意欲を減退させる。脱デフレの芽
は潰れてしまう。その場しのぎの日銀政策の修正では円安阻止も
脱デフレも不可能なのが現実なのだ。 ──田村秀男氏
─────────────────────────────
──[物価と中央銀行の役割/054]
≪画像および関連情報≫
●消費税減税「できない理由」総崩れ
───────────────────────────
自民党や公明党は消費税減税を求める国民多数の声に対し
「消費税は社会保障財源になっている」などといって拒否し
ています。19日放送のNHK「日曜討論」では自民党の高
市早苗政調会長が「消費税の使途というのは、年金・医療・
介護・子育て、こういった社会保障に限定されている」「法
人税の引き下げに流用されているかのようなデタラメを公共
の電波でいうのはやめていただきたい」などと発言。
税財政の実態からみればこの発言こそデタラメです。たし
かに消費税法第1条には消費税収について「年金、医療及び
介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要
する経費に充てる」とあります。しかし、この規定は、消費
税が導入されたときにはありませんでした。消費税導入から
20年以上たった2012年、消費税率を5%から10%に
段階的に引き上げる法律を決めたときに増税の言い訳として
持ち込まれたものです。 ──「しんぶん赤旗」
───────────────────────────
「円相場と消費者物価/エンゲル係数」