で続けてきたYCC(イールドカーブ・コントロール/長短金利
操作)の修正を決めています。どこが変わったのでしょうか。
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◎これまでのYCC
長期金利の「上限」を1・0%とし、長期金利がこれを超え
ようとすると、国債を無制限に買い入れて、上限を守る。
◎これからのYCC
長期金利の「上限」の1・0%を「めど」に緩和し、厳格に
抑え込むことをやめる。しかし、投機筋が動いていると判断し
たときは、機動的な国債買い入れなどで対応する。
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どうしてこういう事態になったのでしょうか。
メディアは、いろいろと解説していますが、米国の長期金利の
上昇ペースが日銀の予想を上回り、それにつられて日本の長期金
利も上昇してしまったからです。日銀は7月にもともと「0・5
%」だった上限を「1・0%」に引き上げています。
しかし、米国の長期金利の上昇ペースはさらに予想以上で、日
本の長期金利も上昇し、30日には「0・890%」31日には
一時「0・955%」になるなど、抑え込むのが困難であるとの
判断からであると思われます。
1%を「上限」にしておくと、それを超えないよう国債を大量
に買い入れて「上限」を守らなければならず、日銀の保有する国
債がさらに増えることになり、好ましくないからです。「めど」
であれば、そこにいくらかの余裕ができることになります。
これに伴い、日銀は、物価上昇率の見直しも、次のように公表
しています。
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◎物価上昇率の見通し
2023年度 ・・・ 2・8%
2024年度 ・・・ 2・8%
2025年度 ・・・ 1・7%
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数字だけを見ると、これまで日銀の掲げてきた物価上昇率2%
は達成されることになりますが、植田日銀総裁は、現在の物価上
昇は輸入物価の上昇による価格転換が主因であるとする従来の主
張を繰り返しています。要するに、賃金の上昇に伴う物価上昇で
はないというのです。したがって、粘り強く金融緩和を続けると
植田総裁はいっています。
実は、2022年秋から冬にかけて。債券市場では異変が起き
ていたのです。植田総裁の就任前の黒田前総裁のときの話です。
日本において何が起きたかというと、地方債の発行利回りが急速
に上昇し始めたのです。それが日銀が設定する国債の利回りより
も高くなったのです。なぜなら、これらの地方債は、日銀が設定
する国債の購入対象ではないため、市場原理に基づく利回りが成
立するからです。
これについて、野口悠紀雄一橋大学名誉教授は、自著で、次の
ように説明しています。
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地方債は、国債に比べれば信用度が低いとされているので、地
方債と国債の間には、もともと利回りの差(スプレッド)があっ
た。だから、10年物地方債の利回りが10年物国債より高くな
ること自体は異常ではない。
しかし、このときのスプレッドは、それでは説明できないほど
開いた。地方公共団体の財政が急激に悪化したわけではないのに
スプレッドが急拡大したのだ。こうしたことが生じたのは、マー
ケットが要求する10年物国債の利回りが、0・23%上昇した
ためだと解釈できる。「日銀のイールドカーブ・コントロールで
抑え込まれた10年物国債の利回りは、経済の実態からかけ離れ
て低すぎる」と投資家が判断したのだ。つまり、投資家は、10
年物国債の利回りを「信頼できない」と見たのである。そうだと
すれば、10年債の「実態的な」金利は、0・25+0・23=
0・48%ということになる。日銀が設定する0・25%は、本
来あるべき水準に比べて低すぎる。つまり、10年物国債の価格
は、本来あるべき水準よりも高すぎる。 ──野口悠紀雄著
『日銀の責任/低金利日本からの脱却』/PHP新書1353
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実は、2022年の秋から冬にかけて、国債市場で起こっては
ならないことがいくつも起きていたのです。こういう情報は専門
家の間ではあっても、メディアは報道しないのです。日米の金融
政策の違いから諸物価物価が高騰し、黒田前総裁が国会に呼び出
され、野党議員から質問攻めにされていたときのことです。
2022年10月のことです。そのときの長期金利は、日銀が
上限とする0・25%の上限に張り付いていて、取引が減少して
いたのです。10月11日の10年物国債の業者間取引、6日、
7日に続いて成立しなかったのです。このように3営業日連続で
売買不成立になることは、初めてのことです。
なぜ、売買が成立しなかったのでしょうか。
それは、将来の金利が現在よりも高くなるという予想のためで
す。つまり、現在の金利は低すぎて、いつまでも続けられないの
で、いつかは正常に戻ると考えられたからです。これは国債の価
格が将来下がることを意味します。したがって、高い価格で購入
すると損をするので、買い手がつかなかったのです。
日銀が設定している10年物国債の利回りの上限が低すぎるの
が原因で、買い手は日銀しかいなくなってしまったのです。これ
では日本の国債市場は機能しなくなってしまいます。このとき日
銀は「YCCの歪みの修正」と称して、何らかの措置を施してい
ます。このように既に多くの問題点が起きていたのです。しかし
「めど」ではどのようにでも解釈できてしまいます。
──[物価と中央銀行の役割/051]
≪画像および関連情報≫
●日銀会見 長期金利上限「1%をめど」ねらいは
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植田総裁は、2%の物価安定目標について「消費者物価の
基調的な上昇率は見通し期間の終盤にかけて物価安定の目標
に向けて徐々に高まっていくと見ているが、こうした見通し
の不確実性は極めて高く、現時点では物価安定目標の持続的
・安定的な実現を十分な確度を持って見通せるような状況に
はまだ至っていない。このため、長短金利操作=イールドカ
ーブコントロールのもとで粘り強く金融緩和を継続すること
で、経済活動を支え賃金が上昇しやすい環境を整えていく方
針だ」と述べました。
植田総裁は、今回の運用の柔軟化は、想定外の金利上昇を
受けた追加的な措置なのか、という質問に対し、「私どもの
物価見通しが上ぶれてきたこと、それからこちらの方が背景
として大きいかもしれないが、米国の金利上昇が非常に大幅
で、それが我が国の金利にも及んできたということも今回の
措置の背景にある」と述べました。
植田総裁は、今回の展望レポートで物価の見通しが上ぶれ
た理由について、「第1の力は輸入物価の上昇が国内の物価
に及でいることで、第2の力は国内の賃金と物価が好循環で
回っていくことを意味する。今回の見通しが上ぶれた主因は
第1の力が長引いていることや、このところの原油価格の上
昇だと判断している」と述べました。 ──NHKより
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野口悠紀雄一橋大学名誉教授