紙上では金利の話が多くなり、話が難しくなります。中央銀行の
出番であり、インフレ抑制に動き出します。ここまでの分析によ
ると、インフレの原因は「コロナ禍」とされています。
その一方で日本はインフレなのかデフレなのかわからない表現
が使われます。「デフレでない状況」とか、「デフレから脱却し
つつある」という表現です。しかし、日本の中央銀行である日銀
は、デフレからの脱却のために現在も金融緩和を継続しており、
欧米とは明らかに異なる金融政策をとっています。その結果とし
て、円安が止まらないでいます。
日本も間違いなくインフレです。その証拠に幅広い商品に物価
高が起きており、政府はその物価高対策として、所得税の定額減
税を打ち出しています。そして、10月28日の日本経済新聞に
次の記事が掲載されています。
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日銀の物価観にようやく変化の芽が出てきた。31日(今日)
公表する消費者物価指数(CPI)上昇率の見通しは2022〜
24年度まで3年連続で前年度比2%以上になる公算が大きい。
きっかけは輸入物価の上昇という外的圧力だったが、日銀の想定
以上に価格転嫁が長引いており、物価目標達成に向けて条件は整
いつつある。(中略)
日銀が重視する物価の基調指標も2%目標への接近を示す。変
動が大きい品目の影響を除いて算出する3指標は、「動かぬ物価
指標」とされてきた加重中央値も含めて、9月にすべて2%以上
になった。幅広い品目の値上げを示す。
──2023年10月28日付、日本経済新聞より
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問題はここにきて日経平均株価が下がってきていることです。
10月26日の日経平均株価の終値と、その年初来高値を以下に
比較してみることにします。
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10月26日/日経平均株価 ・・ 3万0601円78銭
6月19日/日経平均株価 ・・ 3万3772円89銭
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日経平均株価は大幅に下落し、かろうじて3万円台をキープし
ている状態です。なぜ、このようなことになったかですが、原因
としては、次の2つが考えられます。
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@利上げにより金融引き締め効果が出始めてきている
Aウクライナとガザでの紛争で、地政学リスク高まる
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日銀は、2016年から長期金利(10年物国債利回り)をゼ
ロ%前後に抑える「イールド・カーブ・コントロール/YCC」
を敷いています。長期金利をなぜ低く抑えるのかというと、日銀
が国債を大量に買い入れる必要があるからです。
YCCについては、これまで何度も出てきていますが、ここで
もう一度説明をしておきます。これが分かると、日経の金利関連
記事の意味が理解できると思うからです。
そもそも中央銀行がコントロールできるのは、銀行間取引市場
での短期金利だけだとされていたのです。長期金利を抑え込むに
は長期金利を大量に買い入れなければならず、やり過ぎると財政
規律の緩みにつながり、いわゆる「禁じ手」に近い策になってし
まうからです。
安倍政権の要請を受けて、黒田前日銀総裁は年50兆円の国債
の積み増しを政策目標としましたが、2014年にはそれを80
兆円に大きく増やしてしまっています。そこで国債保有量ではな
く、長期金利を政策目標にしようと考えて導入したのがYCCで
す。これを黒田総裁に提言したのは、当時副総裁をしていた雨宮
正佳氏だったのです。
中央銀行による長期金利のコントロールの歴史的事例は、19
33年にフランクリン・ルーズベルトに対して、経済学者のジョ
ン・メイナード・ケインズが次のようなアドバイスしています。
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FRBが長期債を購入して短期債を売却するだけで、長期国債
の金利は、2・5%かそれ以下に低下し、かつそれが債券市場に
好ましい効果を及ぼすのであるから、私にはあなたがそれを行わ
ない理由が分からない。 ──河浪武史著
『日本銀行虚像と実像/検証25年緩和』
日本経済新聞出版
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しかし、2022年になると、世界金利の上昇によって、日本
国債市場にも圧力がかかり、日銀は再び国債を大量に購入せざる
を得なくなったからです。日銀の国債の買い入れ量は、2022
年には、111兆円に達し、前年の1・5倍の規模にまでなって
いたのです。もはや限界です。
経済評論家の斎藤満氏は、植田新総裁に代わった日銀の政策に
ついて、次のように述べています。
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日本銀行は西側諸国で唯一、金融緩和をつづけてきたが、そろ
そろ限界に近づいています。長期金利の“上限”を1%に設定し
ていますが、マーケットは日銀を試すように1%の天井を突き破
ろうとしている。金利は0・86%まで上昇しています。もし日
銀が上限1%を死守しようとすると国債を買いつづける必要があ
るが、日銀はホンネではこれ以上国債を買いたくないはずです。
上限1%をギブアップするのも近いのではないか。この10年、
日本の株価は日銀の金融緩和に下支えされてきただけに、下支え
が終了すれば株価は下落してしまうでしょう」(斎藤満氏)
2023年10月27日発行/日刊ゲンダイ
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──[物価と中央銀行の役割/047]
≪画像および関連情報≫
●イールドカーブ・コントロール(YCC)の見直しは
なぜ必要か
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植田総裁のもとでも、日本銀行は直ぐには政策を見直さな
いとの見方が金融市場で強まっている。それが、為替市場で
円安圧力を生み、株価の押し上げにも大いに寄与している。
国債市場で政策金利(短期金利)の先行きの見通しを反映す
る傾向が強い2年国債の利回りは、昨年12月に日本銀行が
イールドカーブ・コントロール(YCC)の変動幅引き上げ
を突如発表したことを受けて急上昇し、年末時点では0%を
上回った。政策金利(短期金利)の早期引き上げの可能性を
織り込んだのである。
2年国債の利回りは、年末から年初のピークで+0・04
%まで上昇したが、足元では−0・07%程度と昨年10月
頃の水準まで低下している。早期のマイナス金利解除への期
待は萎んでしまったのである。
マイナス金利解除など、日本銀行が過去10年続いた異次
元緩和の「枠組みの見直し」に本格的に着手するのは、まだ
先のことだろう。筆者は早くても来年後半以降と現時点では
考えている。
ただし、多くの問題を抱えるYCCについては、本格的な
「金融緩和の枠組み見直し」とは別枠で、昨年12月の柔軟
化措置の延長、との名目で変動幅の再拡大や変動幅の撤廃年
内にも実施する可能性が見込まれる。その結果、長期国債利
回りが小幅に上昇する可能性がある。
https://onl.bz/MLu7TUu
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雨宮正佳前日銀副総裁