ごく気にしており、このイメージを払拭するために、唐突に所得
税の減税を打ち出してきたのではないかといわれています。
なぜ「増税メガネ」というニックネームが付いたかについて、
経済評論家の山崎元氏は次の趣旨のことをいっています。
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岸田首相は、人の目を見て話さない。いつも役人の書いた原稿
を読んでおり、目は下を向いています。本人の言葉ではないので
言葉に力がない。まるでしゃべる空き箱だ。表情にも顔にも注意
が向かない。したがって国民にはメガネしか印象にのこらないの
である。 ──「山崎元氏/経済快説」より
2023年10月25日発行「夕刊フジ」
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岸田内閣が発足したのは2021年10月4日のことです。翌
年の2月24日、ロシアはウクライナへの本格的な軍事侵攻を開
始します。これに伴い、2022年9月末、岸田政権は「安保関
連3文書」と呼ばれる防衛政策のよりどころを改定する作業を本
格化させます。
これによって自民、公明両党の与党協議が始まり、2022年
12月3日に文書改定を終え、来年度政府予算案とリンクさせる
作業に着手します。具体的には、2023年度から5年間の防衛
費を総額約43兆円にする計画です。デフレ脱却のための2%の
物価目標を目指して、最初から「規模ありき」です。
そして2023年2月3日、政府は防衛費増額に向けた財源確
保法案を国会に諮らず閣議決定してしまいます。そして2023
年6月16日、2023─27年度までの5年間に43兆円の防
衛予算を支出する計画を「骨太の方針」として公表します。これ
は、前の5年計画(2019─23年度)と比べ、1・6倍近く
に急増させる計画となっており、当然財源の手当てが大きな課題
になってきます。
政府はここで基本的には増税不可避と決めています。ただし、
その実施時期は2025年以降としているものの、増税を避ける
ことは困難です。それなのに、なぜ、ここにきて「減税」を打ち
出したのでしょうか。
岸田首相の立場に立った場合、それは総選挙対策に決まってい
ます。低迷し続ける支持率向上対策です。所得税を改正するには
所得税法などの改正が必要であり、その期間を調整すれば、減税
の実施は来年の夏頃になり、ボーナス時期に間に合うという計算
も成り立つと思われます。そこで圧勝すれば、2024年9月の
自民党総裁選は無投票でスルーできる──岸田首相はそれを狙っ
ていると思われます。
しかし、国民が求めているのは物価上昇対策であり、インフレ
対策です。ところが政府がやろうとしているのは、所得税の定額
減税です。「所得税3万円/住民税1万円」の年間計4万円を1
回ただけです。何かがおかしいです。国会での立憲民主党の代表
質問と岸田首相の答弁を読んでみてください。
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泉代表:「まず総理。『経済、経済、経済』と言うだけではなく
国民が望むのは今年中のインフレ手当の『給付、給付、給付』
じゃないですか。これを実行すべきだと」
岸田総理:「デフレ脱却を確実にするためには、賃上げが物価高
に追いつくまで、政府が支えることも重要だと。こうした観点
からの国民への還元について、その実施時期も含め、早急に具
体化してまいります」
泉代表:「物価上昇局面に過度の財政出動を行うと一層のインフ
レを招き、実質賃金が低下し、個人消費が落ち込む。規模あり
きではなく必要な方々への対策の重点化を図るべきだ」
──国会での代表質問
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本来の物価対策として効果があると考えられるのは「消費税の
税率を下げる」ことです。現在ほとんどのモノに対して10%の
税金がかかっており、物価を押し上げています。したがって、仮
に10%の税率を5%に下げれば、5%分モノは安く買えること
になります。だから、強力な物価対策になります。
ところが消費税減税の話になると、鈴木俊一財務相は、必ず次
のようにいって反対します。
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消費税は社会保障の重要な財源になっており、下げるとその代
替財源が必要になる。それに税率を下げるには、法改正が必要に
なり、その間にモノの買い控えが生じ、その結果消費が低迷する
ことによって、かえって不況になる。したがって、消費税を減税
するのは反対である。 ──鈴木財務相
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この反論は、一国の財務大臣の反論になっていないです。財務
省の役人に入れ知恵されたのでしょう。最近財務省は「ザイム真
理教」と呼ばれています。なお、鈴木財務相は岸田首相の「税収
増を還元する」という方針に対し、次のように反論しています。
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十分な財源的な裏付けがあるとは思っていない
──鈴木俊一財務相
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これはとんでもない発言です。なぜかというと、首相の予算編
成方針に対して、閣内から平然と異議を唱えているからです。ザ
イム真理教は首相や国民の上に立っているとでも思っているので
しょうか。首相に対してきわめて失礼な発言であるとは考えない
のでしょうか。消費税の捉え方にも問題があります。社会保障の
財源といいますが、本当にそうなっているのでしょうか。他国で
はコロナ禍のとき、消費税を下げて、さらに給付金も配っていま
す。 ──[物価と中央銀行の役割/046]
≪画像および関連情報≫
●年4万円の「定額減税」方針表明/岸田首相が政府与党
に具体化を指示
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岸田文雄首相は10月26日、首相官邸で開いた政府与党
政策懇談会で、税収増の還元策として、1人あたり年4万円
の所得税などの「定額減税」を行う方針を示し、具体的な制
度設計を進めるよう指示した。住民税の非課税世帯に7万円
の現金給付を実施することと合わせて政府の総合経済対策に
盛り込み、11月2日に決定する。
首相は自民、公明両党の幹事長や政調会長らを前に「賃金
上昇が物価高に追い付いていない国民の負担を緩和するには
可処分所得を直接的に下支えする所得税、個人住民税の減税
が最も望ましい」と説明した。
2021年度と22年度の2年間で増えた所得税と個人住
民税3・5兆円を「国民に税の形で直接還元する」と語り、
来年度に限り、1人あたり年4万円の定額減税を行う考えを
示した。所得減税3万円、住民減税1万円の計4万円で、扶
養家族も対象とし、来年6月から始める。所得制限への言及
はなかった。納税額が少なく、減税の恩恵を十分に受けられ
ない人への対応も検討するとした。
首相は、減税の対象にならない低所得者について、住民税
非課税世帯に1世帯あたり7万円を現金給付する考えも表明
した。物価高対策として今年3月に決めた3万円の支給に加
え、「合計10万円を目安に支援を行う」と述べた。政府は
住民税は課税されているが所得税が非課税の納税者にも10
万円の給付を検討する。
https://digital.asahi.com/articles/ASRBV6K8GRBVUTFK00F.html
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増税メガネ/岸田首相