してきています。これによって、日本の長期金利(10年物国債
金利)も上限に近づいてきています。10月22日付の日本経済
新聞の関連記事を掲載します。
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◎日銀、金利操作の再修正論/米引き締め長期化で
日銀で、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YC
C)の再修正論が浮上している。米金利上昇に伴い国内の長期金
利も上がり、7月の修正で決めた1%という事実上の上限に近づ
きつつあるためだ。月末に開く金融政策決定会合で議論する見通
しだが、日銀内には温度差がある。
──2023年10月22日付、日本経済新聞
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日本の長期金利は、7月の金融政策決定会合において、1%を
上限としていますが、10月20日には、一時「0・845%」
まで達しています。これは約10年ぶりの高水準です。そういう
わけで日銀は、今月の金融政策決定会合において、長短金利操作
の再修正論を議論するのではないかと見られています。
ところで、「アベノミクス」という日本経済を活性化させよう
とする経済政策において、故安倍首相と黒田日銀総裁は一体何を
狙っていたのでしょうか。
経済学というのは奥の深い学問です。しかし、生活に結びつい
ているので、素人でもある程度のことは理解できます。単純に考
えてみます。とにかく日本は何とかしてデフレから脱却する必要
があります。経済がまるで成長しないからです。
そのため日銀は、市中に流れるお金を増やす必要があります。
お金の量が増えれば物価が上がると考えられるからです。それに
は日銀は金融緩和を実施する必要があります。具体的には、日銀
が民間の銀行が保有している国債を買い、その代金を民間銀行が
日銀に保有する当座預金に振り込むのです。その結果、当然です
が、日銀当座預金の量は激増します。
事実日銀当座預金は、2013年から激増しています。4月末
には61・9兆円、2年後の2015年末には206・2兆円に
増加しています。しかし、その時点でも市中に流れるお金の量は
約100兆円レベルであって、増加していないのです。
ちなみに日銀当座預金にいくらお金が積み上がっても、銀行が
そのお金を引き出して民間銀行の預金に移さない限り、市中のお
金の量は増えないのです。この日銀当座預金のことを「マネター
ベース」といい、日銀券と銀行預金などの合計を「マネーストッ
ク」といいます。その肝心のマネーストックは一向に増えていな
いし、これでは物価も上がらないことになります。
しかし、そのマネーストックが、激増した年があります。20
20年〜21年です。コロナ禍により、政府が企業や個人に対し
緊急融資を行ったからです。マネーストックは急増しましたが、
物価は上がらなかったのです。この現象を「フィリップス・カー
ブの死」と呼ばれています。
アベノミクスにおけるここまでの一連の考察の結果、野口紀雄
教授は、日銀の「異次元緩和」の目的は、物価ではなく、別のも
のだったのではないかとして、次のように述べています。
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私は、異次元緩和が本当に行おうとしたのは、以下のようなこ
とだったのではないかと考えている。
1.国債の大量購入によって金利を引き下げる。
2.金利引き下げによって、財政資金の調達を容易にする。さ
らに外国との金利差を拡大し、円安を実現する。
3.円安によって大企業の利益を増大させる。
4.それによって株価を引き上げる。
このように考えれば、さまざまなことが整合的に理解できる。
株価が本当の目的として重視されていたことは、日本銀行がOE
CDの対日審査(2019年4月)で強い批判を受けながら、E
TFの購入という、中央銀行の政策としては大いに疑問のある政
策を採り続けたことからも窺える。
──野口悠紀雄著『日銀の責任/低金利日本からの脱却』
PHP新書め1353
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ちなみに「ETF」とは、取引所で取引される投資信託のこと
であり、「上場投資信託」と呼ばれます。ETFは投資信託の一
種ですが、一般的な投資信託とは違って取引所に上場しているた
め、個別の株式と同じように、証券会社を通じて取引所で売買す
ることができるという点が最大の特徴です。
「悪夢の民主党政権」──これは民主党から政権を奪取した故
安倍首相が国会答弁のときに使った言葉です。それは、株価にも
よくあらわれています。
鳩山政権、菅政権、野田政権──それぞれの退任時の日経平均
株価は、鳩山政権9537円、菅政権8950円、野田政権90
24円となっており、いずれも日経平均株価は、1万円を大きく
割り込んでいたのです。株価の下落は、どうしても世の中に暗い
イメージを与えるものです。
しかし、2012年11月16日に衆議院が解散され、12月
16日に実施された総選挙で民主党が大敗し、自公連立の安倍政
権が誕生すると同時に株価は上がり始めたのです。安倍政権に対
する期待から株価が上がったのです。
日経平均株価を上げても、それでデフレから脱却できるわけで
はありませんが、少なくとも国民は少し息が付けます。安心でき
ます。当時の民主党政権は、経済のことが分かる議員が少なく、
不安に感じていた国民も少なくなかったと思います。
そこで、安倍首相は黒田東彦氏を日銀総裁に任命し、株価を上
げるための一連の工作をしたことは十分考えられることです。そ
ういう観点から、アベノミクスを再検証する価値はあると思いま
す。 ──[物価と中央銀行の役割/044]
≪画像および関連情報≫
●アベノミクスとは何だったのか/安倍元首相が
日本経済に遺したもの
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デフレおよび円高という二重苦から抜け出せなかった日本
経済を転換させるきっかけとなったアベノミクス。だが、7
年8カ月に及んだ第2次安倍政権下でその中身は次第に変質
し、軌道修正が求められている。
「大きな政策の実行には時間がかかる。まずは目に見える
実績を積み重ね、政権を安定させる」。安倍氏が周囲に何度
も語っていた言葉だ。
1990年代のバブル崩壊以降、日本企業は産業構造の転
換や新規事業の創出に踏み出せずにいた。2001年発足の
小泉純一郎政権は、企業の成長を促す規制緩和や官から民へ
の権限移譲といった構造改革を政治主導で進め、産業の効率
化や新陳代謝を加速させようとした。
安倍元首相は小泉元首相の側近としてこうした構造改革の
重要性をよく理解していた。だが、構造改革の実行は時間を
要するだけに、安定した政権基盤がないと取り組めない。ま
ず「目に見える実績」を出し、国民の信頼を得るのが必要不
可欠だった。そこで安倍元首相が頼ったのが金融政策、財政
政策だった。これらと「成長戦略」と名を変えた構造改革を
組み合わせたのが「大胆な金融緩和(第1の矢)」「機動的
な財政出動(第2の矢)」「民間投資を促す成長戦略(第3
の矢)」を柱とするアベノミクスである。
https://onl.bz/ap5srP8
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長期金利上昇と円安の同時進行