2023年10月24日

●「インフレ/各国のMMTの結果である」(第6033号)

 10月19日、米長期金利(10年物国債金利)が遂に1・5
%に達しました。16年ぶりの高水準です。関連する日本経済新
聞の記事を掲載します。
─────────────────────────────
【ワシントン=高見浩輔】米連邦準備理事会(FRB)のパウエ
ル議長は19日の講演で、利上げがすでに終結したと読む一部の
市場の見方をけん制した。次回の米連邦公開市場委員会(FOM
C)では政策金利を据え置く姿勢だが、その後は追加利上げの可
能性があると強調した。
 ニューヨークでのイベントで、パウエル氏は今後の金融政策運
営について「不確実性とリスク、これまでの道のりを考えて注意
深く進めている」と発言した。10月31日〜11月1日に予定
される次回のFOMCについて、金利先物市場では9割が利上げ
の見送りを予想している。
        ──2023年10月19日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 なぜ、長期金利は15%まで上昇したのでしょうか。その原因
としては、次の3つがあります。
─────────────────────────────
         @政権の拡張的財政支出
         A米連邦議会下院の混乱
         B幅広い通貨のドル買い
─────────────────────────────
 @は「政権の拡張的財政支出」です。
  米バイデン政権は国債の増発を行い、拡張的財政支出が増え
  ている。米国債はほぼ無リスクであり、それで15%の金利
  が付くなら株を売って、国債を買う人が増える。
 Aは「米連邦議会下院の混乱」です。
  米連邦議会下院議長が解任され、議長不在の異常がそのまま
  であり、大きな不安要素になっている。
 Bは「幅広い通貨のドル買い」です。
  長期金利の上昇を受け、外国為替市場では幅広い通貨に対し
  てドル買いが進み、円相場は一時「1ドル=150円」台ま
  での円安ドル高が進んでいる。
─────────────────────────────
 今回のテーマは、渡辺努東京大学教授の所論をテキストにして
物価に対する中央銀行の役割、インフレとの関連を追及していま
す。これを難しい理屈はともかくとして、少し別な角度から考え
てみることにします。
 積極的な財政運営を可能にするための絶対的な要件とは「長期
金利が低い」ことです。そのため、アベノミクスをサポートした
当時の黒田日銀総裁の「異次元金融緩和」の真の狙いは、長期金
利を低いレベルに下げてそれを維持することにあったのです。
 これに関連して、MMT(現代貨幣理論)という経済学の理論
があります。自国通貨で国債を発行できる国は、決してデフォル
トに陥ることはないので、国は国債を発行し、それを財源にして
いくらでも財政支出ができるという理論です。ただし、その場合
長期金利は低いレベルに抑え込んでおく必要があります。
 MMTに関しては、EJでもテーマとして取り上げて検討して
います。そのさい多くの本を読んで研究しましたが、MMTは、
決していい加減な理論ではなく、納得できることはたくさんある
と考えます。ただし、この理論の提唱者は、一つだけ次の条件を
付けています。
─────────────────────────────
 MMTで注意すべきことといえば、インフレにならないよう注
意することである。     ──ステファニー・ケルトン教授
─────────────────────────────
 コロナ禍では、各国は膨大な財政支出を行い、そのほとんどは
国債で賄われ、中央銀行は大量の国債を購入しています。当初は
各国政府が思うようにいくらでも財政支出が行えるように思えた
ものです。これによって、MMTは正しいのかと最初は考えられ
るようになったのです。しかし、その結果起きたのがインフレで
す。今回のインフレをこのように考えることもできます。
 これについて、野口悠紀雄一橋大学名誉教授は、自著で次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 経済学の教科書には、MMTが主張するような財政運営を行な
えば、インフレーションが起きると書いてある。インフレが起き
ると人々の購買力が減少するから、インフレは税の一種だ。しか
も、所得の低い人に対して重い負担を課す過酷な税だ。そのとお
りであることが実証されたのだ。
 誰も負担をせずに、財政支出の利益だけを享受できるという魔
法が実現できるはずはない。打ち出の小槌などありえない。ごく
当たり前のことが実証されただけだと言える。MMTの主唱者で
あるニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授は「支
出を行なう際に、適切な措置が行なわれなかったからだ」と防戦
しているが、説得性に欠けることは否めない。
   ──野口悠紀雄著『日銀の責任/低金利日本からの脱却』
                   PHP新書め1353
─────────────────────────────
 野口教授は興味あることをいっています。それは「日本でもイ
ンフレは起きているが、それは米国のそれとは違う。米国では国
内で需要が増加し、また、賃金が上昇した結果、インフレになっ
ているが、日本はそれとは異なる」といっています。
 野口教授は、「日本の場合は、インフレは国内要因で起きたも
のではなく、輸入されたものだ。つまり、原油価格も、小麦価格
も海外要因によって上昇したのだ。輸入価格の高騰によって、国
内物価が受動的に上昇したからである」。しかし、日銀は利上げ
できない状態にある」と。
           ──[物価と中央銀行の役割/043]

≪画像および関連情報≫
 ●日本のインフレを巡る不確実性:機動的な金融政策の
  必要性が浮き彫りに
  ───────────────────────────
   日本の総合、インフレ率は、金融・財政政策による下支え
  と観光業の急増を背景に景気回復が続いたため、2月に40
  年ぶりの高水準に達した。ここ数か月はエネルギー価格の下
  落によってインフレ率が減速したものの、生鮮食品とエネル
  ギーを除くコア価格の基調的な動向は勢いを増しており、4
  月には4・1%と40年ぶりの高水準を付けた。
   急激な物価上昇が望ましいとされることはあまりないが、
  日本は1980年代後半から1990年代初頭以降デフレを
  繰り返してきたため、例外と言えよう。世界第3位の経済大
  国が転換点に立ち、日本銀行がようやく物価を2%の目標付
  近で維持できる可能性があるという希望が見えてきた。その
  理由は3つある。
  ・インフレは当初、基調的な需要が底堅かったことからでは
   なく、世界的なエネルギーと、サプライチェーンの危機に
   よって引き起こされたが、価格圧力がより広範で、より持
   続的である兆候がますます見られるようになってきた。
  ・労働組合と大手企業間で、毎年行われる交渉「春闘」は物
   価上昇と一致するように予想以上の賃上げで合意する兆し
   である。
  ・企業調査は、インフレ期待が上昇し続けることを示してお
   り、これが企業の価格設定に影響すると考えられる。
   しかし、こうした要素にはインフレを維持することが困難
  になる注意事項も伴う。労働者の70%以上を雇用する中小
  企業は利益率が低く、十分な賃上げを行う余裕がないため、
  十分な賃上げができない可能性がある。
                     ──国際通貨基金
  ───────────────────────────
「次回利上げは見送り」/パウエル議長.jpg
「次回利上げは見送り」/パウエル議長
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物価と中央銀行の役割 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。