2023年10月11日

●「景気後退軟着陸に挑む米FRB」(第6025号)

 ジェローム・パウエル米FRB議長の苦闘が続いています。2
020年3月13日のトランプ大統領によるコロナウイルスへの
対応のための国家非常対宣言以来、パウエル議長は大車輪の活躍
を続けています。当初は、世界的なパンデミックに対応するため
金融緩和を実施することであり、2021年3月からは世界イン
フレへの対応策です。そして、2022年2月24日にロシアに
よるウクライナへの侵攻が起きます。
 パウエル氏がFRB議長に就任したのは、2018年のことで
す。トランプ大統領は、リベラル色の強い前任のジャネット・イ
エレン氏を嫌っていて、ゴールドマン・サックス出身のゲーリー
・コーン米国家経済会議委員長(当時)への交代が、ほとんど決
まっていたのです。
 しかし、トランプ大統領がネオナチなどを含む白人至上主義者
を擁護するような発言するのを聞いて、コーン氏は辞退し、パウ
ェル氏がFRB議長に選ばれたのです。パウエル氏は、ウォール
街の投資ファンドで活躍していた法律の専門家で目立たない人物
であり、理事としてFRBに務めた6年間に、一度も反対票を投
じたことがなかったことでも知られています。そのためか、そう
いうパウエルに対して「ミスター普通」のニックネームが付けら
れたのです
 そのパウエル議長がここまで何をやってきたかについては、こ
の後振り返りますが、米国に関しては、少なくとも、2023年
7月には、パウエル議長による景気後退を回避する軟着陸のシナ
リオが現実性を増してきていることは確かなことです。
 2023年7月までの経済状況については、7月20日付の日
本経済新聞会員限定記事に次のように書かれています。
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 7月19日午前の米株式市場でダウ工業株30種平均は8日続
伸し、1年3カ月ぶりの高値で推移する。投資家心理を支えるの
がインフレの減速だ。この日発表の経済指標は予想に届かなかっ
たが、「インフレ鈍化には好都合」との楽観論が先行する。12
日発表の6月の消費者物価指数(CPI)では前年同月比の上昇
率が3・0%と2年3カ月ぶりに4%を割れた。米モルガン・ス
タンレーのチーフ・グローバルエコノミスト、セス・カーペンタ
ー氏は「インフレを巡る議論の転換点となりうる」と強調した。
 モノの価格急騰は収束がはっきりしてきた。新型コロナウイル
ス禍では世界でサプライチェーン(供給網)が寸断され、深刻な
モノ不足となった。一方、サービスからモノへの需要のシフトを
伴いつつ、各国政府による巨額の財政出動が消費意欲を強く刺激
した。ここにきて供給網の正常化による供給制約の解消に加え、
米連邦準備理事会(FRB)の急激な利上げや中国などの景気停
滞を背景に、需要面も落ち着きつつある。
 サービス価格も、高止まりしてきた家賃がようやくピークアウ
トしてきた。民間の先行指標は減速が鮮明だったが、CPIの統
計上、利上げの効果が遅れて出てきた。残る焦点である「家賃を
除くサービス」も伸びが縮小しつつある。労働市場の逼迫を受け
て賃金に上昇圧力がかかり、値段を押し上げてきたが、賃金指標
にも減速する兆しがみえ始めている。https://onl.bz/3jgGVTm
──2023年7月20日付、日本経済新聞/有料会員限定記事
─────────────────────────────
 このまま行けば、2024年には利下げも視野に入り、景気後
退の軟着陸も視野に入る──このように思われていてましたが、
10月に入って予想外の長期金利の上昇が起きて、シナリオに大
きな狂いが出つつあります。
 これについて、10月8日の日曜日の日本経済新聞は、3面に
次の見出しを付けた記事を載せて、インフレによる景気後退の軟
着陸の難しさを伝えています。
─────────────────────────────
 ◎米長期金利/迫る5%/経済軟着陸に試練
  雇用大幅増、利上げ長期化の見方/財政信認低下も背景
 【ニューヨーク=三島大地】 米長期金利が5%の大台に迫って
きた。6日発表の9月の米雇用統計で、就業者数が市場予想を大
幅に上回り、米連邦準備理事会(FRB)の利上げが長期化する
との見方が広がったためだ。足元の急激な金利上昇の根底には米
財政への信認低下もある。
         ──2023年10月8日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 米国における長期金利の上昇については、10日のEJでも取
り上げていますが、なぜ問題なのかについては、改めて詳しく説
明することにします。
 2020年3月3日早朝、G7は緊急の財務相会議を開き、次
の共同声明を出しています。
─────────────────────────────
 持続的な成長を実現するため、あらゆる政策手段を用いて、経
済の下方リスクに立ち向かう。  ──G7財務相会議共同声明
─────────────────────────────
 この日、FRBも臨時のFOMCを開き、0・5%の緊急利下
げを決めています。米FRBは、G7中トップでこれをやってい
ます。先手必勝は、通貨防衛の鉄則だからです。ちなみに、FR
Bが臨時FOMCを開いて、利下げをするのは、リーマンショッ
ク以来11年半ぶりのことです。
 FRBはその後も立て続けに緩和措置を連発しています。トラ
ンプ大統領の非常事態宣言後の15日には、日曜日にもかからわ
ず、再び臨時のFOMCを開いて1%の大幅利下げを行っていま
す。事実上のゼロ金利政策の再開であり、FRBは米国債を50
00億ドル購入する量的緩和も復活させています。
 それにもかかわらず12日の米株式市場では、ダウ平均が1日
で、2352ドル安と過去最大の下落幅を記録しています。しか
し、16日にはさらに2997ドル安に見舞われます。
           ──[物価と中央銀行の役割/035]

≪画像および関連情報≫
 ●新型コロナウイルスの感染拡大で米FRBが緊急声明を
  発表追加利下げの可能性高まる
  ───────────────────────────
   ジェローム・パウエル米国連邦準備制度理事会(FRB)
  議長は2月28日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた
  緊急声明文を発表した。FRBは「新型コロナウイルスの動
  向と経済見通しに与える影響を注意深く監視」し、「経済を
  支えるために、われわれの政策ツールを使い、適切に行動す
  る」とした。
   市場では今回の声明文発表を受けて、次回3月17、18
  日に予定されている米国連邦公開市場委員会(FOMC)に
  おいて、FRBは最大0・5ポイントの追加利下げを決定す
  るのではないかとの見方が広がりつつある。例えばシカゴ・
  マーカンタイル取引所(CME)のデータによると、3月2
  日時点において市場が織り込む次回3月会合における0・5
  ポイント利下げの確率は100%となっている。
   これに加えて、声明文では「米国経済の基盤は引き続き力
  強い」ものの、「新型コロナウイルスは経済活動にリスクを
  もたらしている」とし、経済の下押しリスクに対する強い警
  戒感も示された。企業の購買担当者に対するアンケート調査
  結果をみると、既に景況感の悪化が確認され、2月の米国の
  IHSマークイット製造業購買担当者指数(PMI)(2月
  21日発表)は、前月(53・3)から3・7ポイント減の
  49・6となった。拡大局面を示すベースラインの50を下
  回るのは、政府機関の一部閉鎖があった2013年10月以
  来、6年4カ月ぶりとなる。       ──JETRO
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posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物価と中央銀行の役割 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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