2023年10月06日

●「減税経済対策は果たして成功するか」(第6023号)

 岸田内閣の支持率が上がらないでいます。何をしても支持と不
支持が逆転のままですが、それは当然のことです。なぜかという
と、岸田首相は日本の防衛力強化のため、当初「増税」を主張し
ていたはずですが、それが突然「減税」に変わっています。これ
では、国民が戸惑うのは当然のことです。
 2022年度の国の一般会計の税収は約71兆円です。物価高
の影響で、消費税収が増えたことに加えて、企業の好業績や賃上
げにより法人税と所得税も上向いたことで、3年連続で過去最高
を更新し、史上空前の税収になっています。
 経済成長による成果というよりも、インフレによる物価高が主
因の税収増ではありますが、それを「適切に国民に還元する」こ
とは、良い心がけであると思います。今や多くの国民が物価高に
苦しんでいるからです。
 しかし、首相が「減税」として胸を張って打ち出した経済対策
は、企業、それも大企業への補助金ばかりであって、国民にとっ
て減税らしいものは一つとしてないのです。メインは「賃上げ税
制の減税制度強化」や、「国内投資促進や特許などの所得に対す
る減税制度」など、企業への優遇措置ばかり。インフレによる物
価高にあえいでいる国民への直接減税を完全に無視しています。
 もともと岸田首相は「直接国民に何かを配る」のが好きではな
いようです。2020年の安倍政権で、コロナ禍対応の現金給付
を実施するさい、当時政調会長の岸田氏は国民全員配布ではなく
一定所得以下の人に30万円配る案を安倍首相に提案し、一度は
了承されています。しかし、公明党に強く反対され、全員給付に
戻しています。おそらく岸田氏は、全員にお金を配ることは「バ
ラマキ」であると思っているのだと思います。
 今回の岸田首相の「減税案」について、経済ジャーナリストで
ある萩原博子氏は次のように岸田首相を批判しています。
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 物価高に賃上げが追いつかず、実質賃金が16カ月連続マイナ
スという状況です。にもかかわらず、岸田政権が打ち出す経済対
策は企業への補助金ばかり。ガソリン価格や電気・ガス代の高騰
に対して、企業への助成を通じて抑制しようとしたのがいい例で
す。本気で「減税」して国民に「還元」する気があるなら、逆進
性の高い消費税の減税や廃止を訴えるべきでしょう。総選挙が近
いから「減税」というフレーズを持ち出して、人気を集めようと
しているとしか思えません。──経済ジャーナリスト萩原博子氏
          2023年10月04日発行「夕刊フジ」
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 このような「偽減税ではないか」という国民の批判に対して、
与党幹部はその対応に追われています。10月2日、茂木幹事長
と世耕参院幹事長は、「減税」について、次のようにそれぞれ見
解を述べています。
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◎税収増分をダイレクトに、減税措置などによって、国民に還元
することも十分あり得る。増えた税収を最大限に活用し、国民に
適切に還元していくことは当然のことである。
                 ──茂木敏光自民党幹事長
◎岸田首相が「税の増収を還元する」といっている。税の基本は
法人税と所得税なので、当然、減税の検討対象になってくる。
              ──世耕弘成自民党参議院幹事長
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 しかし、かねてから「財務省寄り」「増税派」のイメージの消
えない岸田首相が、表現上とはいえ、経済対策の基本姿勢を増税
姿勢から減税姿勢に変更したことは、岸田内閣にとって大きな前
進であるといえます。とくに、「コストカット型経済からの30
年ぶりの転機」というスローガンは秀逸であり、これを成し遂げ
ることによって「新しい資本主義」に移行するという流れができ
るといえます。
 しかし、岸田政権は、このスローガンを本当に実現できるので
しょうか。補正予算の規模の問題があります。これには、自民党
内の積極財政派と緊縮財政派の意見は完全に割れています。
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◎責任ある積極財政を推進する議員連盟
 現在の失業率の水準から計算すれば最低でも10兆円。日本経
済の潜在能力から推測すると、最大20兆円不足している。した
がって、20兆円規模の経済対策が必要である。消費の低迷が著
しいからである。
◎財務省および財政緊縮派
 経済対策は「規模ありき」ではない。政府の集計では、総需要
不足は解消している。4〜6月期の「受給ギャップ」が3年9カ
月ぶりにプラスに転じている。
─────────────────────────────
 この3年間の税収の予想からの上振れは平均して約4兆円であ
るといわれます。これを消費税に換算すれば、2%分に該当しま
す。したがって、本来であれば、日本経済の現状は個人消費の低
迷が問題化しているので、減税をやるなら、時限的に消費税の減
税を行うべきですが、岸田政権は絶対にやらないでしょう。財政
緊縮派によると、消費減税を行うと法律改正に時間がかかり、買
い控えが起きて、かえって税収が減ると主張するのです。
 ここに岸田首相がなぜ減税を行わず、企業への補助金にこだわ
る理由があります。補助金の場合は、すぐ戻せますが、法律の場
合は一度やってしまうと、簡単には戻せないからです。しかし、
消費減税に野党は反対しないし、協力すると思われるので、法律
改正はそんなに時間はかからないはずです。本音は岸田政権とし
ては、消費減税だけはやりたくないのでしょう。
 なお、解散が取り沙汰されていますが、10月22日に衆参の
2つの補選があり、その状況があまり芳しくなく、解散は難しい
と考えられているからです。
           ──[物価と中央銀行の役割/033]

≪画像および関連情報≫
 ●減税が焦点となってきた経済対策:税収の上振れ分を
  減税で国民に返すべきなのか?
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   岸田首相は9月25日に、5本の柱からなる経済対策の方
  針を示した。対策の中核を成すのは、国民が高い関心を持っ
  ているガソリン及び電気・ガス料金の補助金制度延長などの
  物価高対策である。
   さらに経済対策の狙いについて岸田首相は、「経済成長の
  成果である税収増などを国民に適切に還元すべく対策を実施
  したい」とし、減税措置を検討する考えを示唆している。
   具体的には企業の生産・販売量に応じた法人税の税額控除
  制度の創設、特許など知的財産から得られる所得の税優遇措
  置、税優遇の対象となるストックオプション(株式購入権)
  の拡充を通じた外部人材確保の促進などが検討されている。
   さらに2023年度末までの既存の賃上げ税制を延長した
  うえ、赤字で税額控除を受けられない中小企業に新たに控除
  の繰り越しを認めることも検討されている。
   岸田首相は「税収増を国民に還元」と説明しているが、実
  際に検討されているのは個人ではなく企業に対する減税措置
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  であり、さらに税率引き下げなどの直接的な減税措置ではな
  く、税控除拡大などの間接的な措置である。しかし、岸田首
  相の「税収増を国民に還元」、「減税」という発言が、自民
  党内に減税議論を一気に巻き起こしており、減税が経済対策
  の大きな焦点となってきた感がある。
                 https://onl.bz/eENSRQV
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経済対策の骨子を説明する岸田首相.jpg
経済対策の骨子を説明する岸田首相
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物価と中央銀行の役割 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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