2023年09月29日

●「岸田内閣の減税は本物か偽物か」(第6019号)

 どうしてこうなんだろう──これは、私が現在、岸田内閣に抱
く思いです。「この人は『減税』を口にしないことで知られてい
ましたが、ここまでひどい」とは知らなかったからです。
 その岸田首相が「減税」を口にして、選挙戦を有利に運ぼうと
しています。「減税」──首相から「減税」という言葉を聞くの
はかつてないことですが、これについて、元厚労相である立憲民
主党の長妻昭政調会長は、次のように切り捨てています。
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 岸田首相が示した減税策は、企業・業界にお金を入れ、最終的
に国民に渡すという発想だ。国民目線ではない。これでは「中抜
き」で結局、格差が拡大する。選挙を念頭にした組織対策の一環
にしか見えない。
 ただ、「税収増を国民に還元する」として示された検討案は、
国民が期待する「所得税減税」や「消費税減税」「ガソリン税減
税(トリガー条項発動)」ではなく、「賃上げ企業への減税策」
「特許所得などへの減税制度」「ストックオプション(自社株購
入権)の減税措置」だった。 ──立憲民主党の長妻昭政調会長
           2023年9月28日発行「夕刊フジ」
─────────────────────────────
 つまり、岸田首相の「減税策」は、いったん企業・団体にお金
を入れ、それを通じてその恩恵が国民に及ぶようにする──つま
り、あの「トリクルダウン」の理論の発想と同じではないか。現
に経団連の戸倉雅和会長は、次のように述べています。
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 経団連(十倉雅和会長)は11日、2024年度税制改正に関
する提言を発表し、少子化対策を含めた社会保障制度の維持のた
めの財源として、将来の消費税の引き上げが中長期的に「有力な
選択肢の一つ」と主張した。一方で、法人税については減税を訴
えており、識者は「自分たちのことしか考えていないのか」と批
判する。             ──経団連の戸倉雅和会長
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 要するに、賃上げをして欲しいのなら、法人税を減税してもら
いたいといっているのです。それにより税収が減るというのであ
れば、消費税を上げればよいじゃないかといっているのです。
 「ガソリンのトリガー条項」でもそうです。現在、この法律が
想定している事態が起きているのに、この法律を適用せず、原油
元受会社会社に補助金を出すというわかりにくいことをやってい
るのです。「この法律は現在凍結されている」というますが、そ
れなら、凍結を解除すべきであるだけの話です。しかもトリガー
条項は税金の二重課税になっており、この機会に正しいかたちに
戻すべきです。
 トリクルダウン──この理論は既に否定されているのです。こ
の問題について、経済・不平等問題の専門家であるルカ・シャン
セル、トマ・ピケティ、エマニュエル・サエズ、ガブリエル・ズ
ックマンが中心となり、4年の歳月をかけて作成された「世界不
平等レポート/2022」は、富がどのように分配されているか
について、これまでにないデータを提供しています。著者たちは
「世界には極めて大きなレベルの所得や富の不平等が存在する」
と書いており、それは次の3つにまとめられています。
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 @経済全体に不平等があることは周知の事実だが、このほど発
  表された大規模な調査に基づくレポートで、その不平等の大
  きさが明らかになった。
 A富裕層への減税により「トリクルダウン」が起きるという神話
  は、「世界不平等レポート2022」で否定された。
 B世界人口のうち資産額が下位50%の層は、世界の富のわず
  か2%しか保有していないのに対し、上位10%の富裕層は
  76%を保有している。
       https://www.businessinsider.jp/post-247566
─────────────────────────────
 このレポートによって示されたデータによって「トリクルダウ
ン」という経済理論は完全に否定されています。トリクルダウン
とは、富裕層への減税によって、富がしずく(トリクル)となっ
て下層の人々にも流れ落ち、最終的にはすべての人に利益をもた
らすという考え方をいいます。
 アメリカではこれまで、ロナルド・レーガン元大統領の減税に
代表されるトリクルダウン理論に基づく政策が行われてきていま
す。50年にわたる減税によって富裕層が優遇され、不平等を悪
化させることがさまざまな研究で明らかになっているにもかかわ
らず、この理論は未だに生き残っており、岸田内閣はそれに近い
政策をやっているのです。
 「消費税を下げる」という選択肢はないのでしょうか。これに
対して自民党や公明党は、減税を求める国民多数の声に対し「消
費税は社会保障財源になっている」といって拒否しています。
 2022年6月19日放送のNHK「日曜討論」では、自民党
の高市早苗政調会長(当時)が「消費税の使途というのは、年金
・医療・介護・子育て、こういった社会保障に限定されている」
「法人税の引き下げに流用されているかのようなデタラメを公共
の電波でいうのはやめていただきたい」などと発言。これについ
て共産党の「しんぶん赤旗」は、次のように反論しています。
─────────────────────────────
 税財政の実態からみればこの発言こそデタラメです。確かに消
費税法第1条には消費税収について「年金、医療及び介護の社会
保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充て
る」とあります。しかし、この規定は消費税が導入されたときに
はありませんでした。消費税導入から20年以上たった2012
年、消費税率を5%から10%に段階的に引き上げる法律を決め
たときに増税の言い訳として持ち込まれたものです。
─────────────────────────────
           ──[物価と中央銀行の役割/029]

≪画像および関連情報≫
 ●「増税メガネのごまかし」発動! 岸田首相「企業減税」
  「低所得者向け給付」聞く耳傾けぬ経済対策に不満炸裂
  ───────────────────────────
   9月27日、岸田文雄首相は、首相官邸で「新しい資本主
  義実現会議」を開催し、賃上げ促進や国内投資の拡大に向け
  た減税措置などを議論した。税制措置では、企業減税が柱と
  なる。首相は会議で「持続的賃上げについて、賃上げ税制の
  減税措置の強化を図る」と強調。また、国内投資の促進へ、
  「成長力強化に資する減税の実施を図る」とした。
   首相は25日、経済対策について「成長の成果である税収
  増を国民に適切に還元する」と強調。3つの減税政策を表明
  していた。@「賃上げ税制の減税制度の強化」、A「国内投
  資の促進や、特許所得に対する減税制度の創設」、B「スト
  ックオプションの減税措置の充実」
   この3つは、経団連が9月11日に発表した「2024年
  度税制改正に関する提言」に含まれているものだ。27日の
  会議で、企業向けの減税措置を打ち出す一方、個人向けの減
  税措置は議論されなかったことに、SNSでは批判的な声が
  多く上がった。《減税やる気あるらしいけど企業減税だって
  よ・・。費税や所得税どうした?賃上しても物価上がってん
  から可処分所得増えてねーし》
                  ──「ヤフーニュース」
  ───────────────────────────
消費税、法人3税、所得税、住民税の推移.jpg
消費税、法人3税、所得税、住民税の推移
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物価と中央銀行の役割 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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