現状維持を決め、何の変化もなかったのです。これを受けて円は
対ドルで売りが強まり、一時「1ドル=148円台」を付け、円
安が進んでいます。この件については、改めて取り上げます。
今年もあと3カ月ちょっとで終わりです。ここにきて世界経済
にとって心配なのは、中国の経済です。不動産バブル崩壊といわ
れていますが、一体中国において何が起きているのでしょうか。
2023年7月25日付で、人民銀行(中央銀行)総裁が、易
鋼総裁に代わり潘功勝氏が就任しています。
雑誌「フォーブス」は、この人事について、次のように紹介し
ています。
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7月25日、中国の中央銀行である中国人民銀行の新総裁に潘
功勝が就任した。中国は、対米関係の緊張や世界2位の規模を持
つ経済の減速が懸念されている。潘はケンブリッジ大学とハーバ
ード大学で研究経験があり、豊富な国際人脈を活かした対外関係
改善への期待が高まっている。
潘は、中国政府の強い統制下にある同国の金融システムにおい
て数々の役職を歴任してきた。公式の経歴によると、彼はハーバ
ード大学のシニアリサーチフェローを務め、ケンブリッジ大学で
はポスドクとして研究を行っていたというが、詳細な時期は記載
されていない。
潘の総裁就任発表と同日に、中国外務省は同国で最も著名な外
交官の1人に関する謎めいた人事異動を発表した。外相を長く務
め、現在は共産党で外交政策を統括する王毅が、1カ月間表舞台
から姿を消している秦剛に代わって外相に復帰したのだ。交代の
理由に関する説明はなかった。
──2023年8月2日/「フォーブス」
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人物像としては、易鋼前総裁が国際派にして学究肌であるのに
対して、潘功勝新総裁(60)は、欧米で教育を受けた経験豊富
な実務家で、習近平国家主席に対してとても忠実であるとされて
います。現在、中国では、経済の先行きに見切りをつけて、逃げ
出そうとする外資が多く、中国当局はその繋ぎ止めに必死になっ
ているといわれます。
実は潘功勝氏は、2016年に国家外国為替管理局局長に就任
し、資本投資の抜け穴を封じてきた人物です。今年3月にアステ
ラス製薬北京オフィス幹部が「反スパイ法」違反の容疑で身柄が
拘束され、林外相(当時)が中国側に解放を要求しても、
いまだに拘束されたままになっていますが、潘功勝氏が外国為替
管理局局長のときの事件です。習主席は、この人物を、人民銀行
(中央銀行)総裁に抜擢したのです。
添付ファイルをご覧ください。これは2022年2月から23
年8月までの外資の対中証券投資と人民元の相場をグラフにした
ものです。9月21日発行の夕刊フジ「田村秀男/お金は知って
いる」に掲載されていたものです。
不動産バブルが進行するなか、22年3月から始まっていた外
資の対中証券投資の減少が読み取れます。同時並行で、人民元が
売られ、人民銀行はドル準備を取り崩して、人民元の防戦買い追
われているさまでよく読み取れると思います。
9月18日、人民銀行は北京で外資大手の代表を集めて、シン
ポジウムを開催しています。18日のロイターはこのことを次の
ように伝えています。
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[北京/18日=ロイター]中国人民銀行(中央銀行)と外為
規制当局が18日、外国の金融機関や企業との会合を開催した。
人民銀行の声明によると、JPモルガン、HSBC、ドイツ銀行
テスラなどが会合に出席した。潘功勝人民銀総裁は、政策を改善
し、市場志向で国際レベルのビジネス環境を構築すると表明。引
き続き金融サービスの質と効率の改善に取り組むと述べた。企業
側は、ビジネス環境の最適化を求めたとしている。
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このとき出席した企業は、正確には、JPモルガン・チェース
やHSBCホールディングス、ドイツ銀行、BNPパリバ、UB
Sグループ、テスラなどです。米ウォール街の面々です。
彼らだけではないのです。7月初旬にはイエレン財務長官が訪
中し、李強首相と会っているし、7月20日には、100歳にな
るキッシンジャー元米国務長官も訪中し、習主席と会談していま
す。続いて、米4大会計事務所の一角といえるKPMCが中国の
信託大手中植の財務監査を引き受けています。不良債権を査定し
投信家を納得させるためです。
中植は中国の信託大手、中融国際信託の主要株主であり、設定
・運用する信託商品は一部償還停止となっており、中植の経営問
題が信託商品の運用などに波及した可能性があります。中植は、
金融業などを営む非上場の民営複合企業で、2022年末時点で
中融国際信託の32・99%の株式を保有しています。
これだけではありません。8月14日には、米金融資本最大手
のJPモルガン・チェースが巨額の損失を抱え、急落が続く碧桂
園の株式を香港市場で買い増し、1億7100万株、株式の5%
以上を保有しています。JPモルガンのダイモンCEO(最高経
営責任者)はウォール街きっての親中派で、ことあるごとに米中
融和を呼びかけてきています。強欲に駆られる金融資本の対中融
和に西側世界がひきずられる恐れがあります。
しかるに中国では、反スパイ法を使って外資を締め付けていま
す。成り構わないという姿勢です。EJでは、中国の経済の現状
を伝えてきていますが、その実態は想像以上に深刻です。少なく
とも経済政策のセオリーがきちんと行われておらず、現状は悪化
の一途をたどっています。さらに悪化すると、国民の目をそらす
ため、台湾への侵攻があってもおかしくない状況です。
──[物価と中央銀行の役割/026]
≪画像および関連情報≫
●中国人民銀総裁に潘氏、周小川氏以来の「一人体制」に
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[北京/25日=ロイター]中国全国人民代表大会(全人
代、国会)常務委員会は25日、中国人民銀行(中央銀行)
の新総裁に人民銀の共産党委員会書記を務める潘功勝氏を充
てる人事を決めた。易綱現総裁は退任する。国営メディアが
報じた。
これにより、総裁と共産党幹部を同一の人物が務める「一
人体制」となる。一人体制は、周小川元総裁以来となる。潘
氏は2016年から中国国家外為管理局(SAFE)の局長
を務めている。今月、訪中したイエレン米財務長官とも会談
していた。
潘氏は、為替投機家に対して厳しい姿勢をとることで知ら
れ、国有銀行銀行改革や、不動産市場やフィンテック規制の
強化、暗号資産の禁止にも携わった。
ただ、人民銀行は、共産党の統括能力を強める今年の機構
改革で「中央金融委員会」の監督下に入ったため、前任の総
裁が進めた市場志向の改革を主導できるかは未知数だ。
https://onl.bz/Z3jbQvE
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外国の対中証券投資と人民元相場/田村秀男氏のコラム