2023年09月22日

●「金融緩和からの脱出の可能性はあるか」(第6015号)

 9月19日〜20日に開かれたFOMCで、FRBは利上げを
せず、政策金利を据え置く決定をしています。しかし、年内の利
上げをあと1回想定しているといわれます。9月20日のロイタ
ーは次のように伝えています。
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 [ワシントン20日=ロイター]米連邦準備理事会(FRB)
は9月19〜20日に開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で
フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を、5・25─5・
50%で据え置いた。ただタカ派的なスタンスを強め、年内の追
加利上げを想定。金融政策は2024年を通して従来の予想より
大幅に引き締まった水準にとどまるとの見方を示した。(中略)
 パウエルFRB議長は、FOMC後の記者会見で「われわれは
入手されるデータのほか、進展する見通しとリスクを見極めなが
ら慎重に政策を進める立場にある」とし、FRBの選択肢はオー
プンとの姿勢を表明。同時に「適切なら一段の利上げを実施する
用意がある。
 インフレ率が目標に向かって持続的に低下していると確信でき
るまで、政策金利を制約的な水準に維持する」とも述べた。
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 米国に続いて日銀は、21日〜22日の2日間、金融政策決定
会合を開きます。実は真偽のほどはまだ不明であるものの、植田
日銀総裁がこの会合で、金融緩和の修正を行うのではないかとい
う噂があります。それをする良い条件が揃っているからです。
 米FRBが今回利上げしないことは予想されていたことですが
その通りになり、これを機に植田日銀総裁は、金融緩和の修正に
踏み切る可能性があるというのです。
 20日の外国為替市場では円が下落し、一時「1ドル=148
円台」まで円安になっています。これは、2022年11月以来
10カ月ぶりの安値です。原油価格の上昇で、米国のインフレが
長引くという警戒感があり、FRBが金融引き締めをより長く続
けるという見方がドル相場を押し上げています。これでは、円が
どんどん下落してしまいます。植田日銀総裁としては、何とかこ
れを阻止する責任があります。
 植田日銀総裁は、これに対して9月9日の読売新聞社とのイン
タビューにおいて、年末までにマイナス金利を解除する可能性に
言及しています。日銀総裁が年限を切ってマイナス金利解除の可
能性を口にしたことは大きいことです。植田日銀総裁は、ちゃん
と市場とコミュニケーションをとっています。この発言を受けて
円は145円台まで上昇しています。
 実はもうひとつ重要な発言があります。西村経産相の10日の
閣議後の次の発言です。
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記者:先ほど大臣がおっしゃった、やがて来るであろう金利高と
 いうことに関して、そういう状況が来たときに企業体制がきち
 んとできていることが重要という発言があったのですが、イン
 フレがずっと続いているわけですけど、金利はもう上がってい
 く方向にあるというふうに見ていらっしゃるのかというところ
 と、それから、そうなったときに企業や家計などに対してどの
 ような具体的なインパクトというか影響があるというふうに考
 えていらっしゃるのかお願いします。
西村:これは安倍政権が政権奪回した後、アベノミクスを実施し
 たときから私も甘利大臣の下で副大臣として関わり、日銀の金
 融決定会合にも十数回出席して議論をしてきています。
  金融政策は、日本銀行が独立した立場で判断しますので、そ
 の政策について私がコメントはしませんが、あのときから言っ
 ているように、この金融緩和は時間を買う政策で、この間に成
 長戦略、構造改革を進めて成長軌道に乗せていくというその思
 いは、私は今も持っています。残念ながら、コロナもあり、ロ
 シアのウクライナ侵略もあり、いろいろなことがこの間ありま
 したので、日銀は金融緩和を継続して続けているわけですが、
 世界的に物価が上がってくる状況になってきていますし、時間
 を買う政策もどこかで終了し、平常化していくわけです。
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 金融緩和は、アベノミクスの基本となる政策です。西村経産相
は「この政策をどこかで終了し、平常化していく」といっていま
す、自民党内最大派閥の安倍派の中核の発言です。これは、日銀
にとって、緩和修正の絶好のチャンスといえます。
 もうひとつ重要なことがあります。日銀の次回の日銀政策決定
会合は10月30〜31日です。現在、この時期は衆院解散総選
挙が行われるという噂が流れています。総選挙の時期に金融引き
締めは最悪であり、植田日銀総裁としては、この時期に解除は困
難と考えられます。
 しかも、植田日銀総裁は、マイナス金利の解除の可能性を明確
に口にしています。これは金融緩和解除の第1ステップですが、
「年末までに」と時期まで述べています。それでも「金融政策の
変更はない」という考え方が支配的です。
 もし、やるとしたら、今日と明日(21〜22日)の日銀政策
決定会合しかないという考え方もあります。これについて、金融
ジャーナリストの森岡英樹氏はつぎのように述べています。
─────────────────────────────
 確かに今週の日銀会合は緩和修正の環境が整っており、好機と
言えます。逆に先送りすれば、動きにくくなる。今回、動くとす
ればマイナス金利の解除と長期金利の上限撤廃を同時に踏み切る
大胆な措置も否定できない。中銀がマイナス金利と長期金利をコ
ントロールするのは特異なこと。この2つを同時にやめることで
一気に正常化を図るわけです。金融政策にサプライズはつきもの
ですよ。         ──金融ジャーナリスト森岡英樹氏
       2023年9月20日発行「日刊ゲンダイ」より
─────────────────────────────
           ──[物価と中央銀行の役割/025]

≪画像および関連情報≫
 ●マイナス金利解除「物価上昇に確信持てれば選択肢」
  /植田総裁インタビュー
  ───────────────────────────
   日本銀行の植田和男総裁は、読売新聞の単独インタビュー
  に応じた。賃金上昇を伴う持続的な物価上昇に確信が持てた
  段階になれば、大規模な金融緩和策の柱である「マイナス金
  利政策」の解除を含め「いろいろなオプション(選択肢)が
  ある」と語った。現状は緩和的な金融環境を維持しつつも、
  年内にも判断できる材料が出そろう可能性があることも示唆
  した。植田氏が今年4月に就任して以来、報道機関の単独イ
  ンタビューに応じるのは初めて。現状、「物価目標の実現に
  はまだ距離がある。粘り強い金融緩和を続ける」との立場は
  維持した。
   植田氏は、短期金利をマイナス0・1%とするマイナス金
  利政策の解除のタイミングについて、「経済・物価情勢が上
  振れした場合、いろいろな手段について選択肢はある」と回
  答。さらに、「マイナス金利の解除後も物価目標の達成が可
  能と判断すれば、(解除を)やる」と述べた。
   具体的な時期は、現状では「到底決め打ちできる段階では
  ない」とした。来春の賃上げ動向を含め、「年末までに十分
  な情報やデータがそろう可能性はゼロではない」とした。
   日銀は7月の金融政策決定会合で、長期金利を0%程度に
  操作する金融緩和策「イールドカーブ・コントロール(YC
  C)」の上限を事実上1・0%にした。植田氏は長期金利が
  面は届かないだろう水準に設定したことを「リスクマネジメ
  ント(危機管理)」と表現。「経済・物価見通しが上振れし
  た時に、日銀がYCCを意図しない形で放棄するようなこと
  に追い込まれるリスクもゼロではなかった」と説明した。
  https://www.yomiuri.co.jp/economy/20230908-OYT1T50416/
  ───────────────────────────
植田日銀総裁.jpg
植田日銀総裁
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物価と中央銀行の役割 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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