とがあります。「なぜ、林外相を外し、上川陽子元法相を抜擢し
たか」です。私は、以前から林芳正氏のテレビでの発言を多く聞
いていますが、国際的な諸問題についてそれぞれ立派な見識を持
つ人物であると思っています。
それに、米国留学が長いことと、最終学歴がハーバード大学卒
であることを考えても、その語学力は抜群です。自民党の一部の
保守派からは中国寄りとの批判はありますが、外相は林氏にとっ
て、ふさわしいポストであると思っていますし、将来の有力な首
相候補でもあります。
それに外交は継続性が重要であり、ミスもないのに交代させる
ことは国益に反します。この9月9日、林芳正外相は、ウクライ
ナでゼレンスキー大統領と会談し、同国に対する安全の保証を巡
る協議開始や経済復興での協力について話し合い、合意している
のです。それを突然交代とは・・・・。交代の理由として考えら
れるのは、次の3つです。
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@林芳正氏は岸田首相と同じ派閥「宏池会」の次期首相候補
で、その存在感があまり高くなることを恐れた。
A岸田首相は、自身が長く外相をやっているので、最も外相
が総理大臣に近いポストであるとわかっている。
B岸田首相は常日頃から林外相が国際舞台で目立つことを恐
れ、その存在感を気にしていたといわれている。
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とはいっても、上川陽子氏が外相にふさわしくないというつも
りはありません。上川氏は3回も法相を務めているので、法曹界
の人物と思われがちですが、東京大学を出て、三菱総合研究所に
事務職として勤務しています。
1985年に制定された男女雇用機会均等法をチャンスとして
とらえて研究職に転身し、政治行政学を学ぶため、ハーバード大
学に留学し、シンクタンクに勤めながら、時代の大きな流れのな
かで、情報化時代を先取りするアメリカを勉強しています。
アメリカでは上院議員の政策立案スタッフを務め、大統領選の
選挙運動にも参加したり、日本に帰国すると「外から見た日本を
思い、政治のリーダーシップが必要だと痛感し、日本の将来を考
えた時に政治の中に身を置いてやっていきたい」と政治家を志し
たといわれています。立派な政治家です。
しかし、とくにミスのない外相を1年10カ月で突然交代させ
のは乱暴な人事です。その目的が岸田首相自身の総裁選勝利のた
めであるとしたら、その動機は不純です。本当は、茂木幹事長も
外したかったのでしょうが、派閥の力学上できなかったので、自
派閥の林外相を切ったのでしょう。
今回の内閣改造について、政治アナリストの伊藤敦夫は次のよ
うに酷評しています。
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すべてが総裁選のため、各派閥の推薦準備を丸のみにしただけ
で、何ら新味もない。内向きの論理で動いているとしか思えませ
ん。日本社会が抱える課題に対して、政権としてどう取り組むの
か。まったく考えていないのではないか。
あらためてこんな内閣が軍拡を推し進め、中国とのパイプもな
く、保身のためにますますま米国にすり寄るのだから、恐怖だろ
う。この改悪も国の転機になるかもしれない。
──政治アナリスト/伊藤敦夫氏
日刊ゲンダイ/2023年9月14日発行
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一番の問題は中国との関係です。現在、日本と中国の間にはさ
まざまな懸案問題が存在します。今年の3月に起きたアステラス
製薬の幹部である西山寛氏に対する反スパイ法による中国国家安
全局による不当拘束の問題が依然として未解決です。
それに加えて、8月24日の福島第一原発の処理水の海への放
出に反発する中国による日本産の水産物の輸入を全面的に停止し
た問題が加わっています。確かに林外相はこの問題を解決できて
いませんが、こういうときにいかに上川氏が優秀な人材であると
はいえ、外相未経験の人物を外相に変更するのは、きわめてリス
キーであるといえます。
現在、中国では習近平国家主席の3期目政権以降、不可解なこ
とが連発しています。秦剛前外相や人民解放軍幹部らが突然交代
する事態が相次いでいます。そして、習近平主席のG20のはじ
めての欠席があります。明らかに、現在中国では、深刻なことが
起きていることは確かです。
9月12日のテレビ東京の「WBS」を見ていたとき、一番最
後のシーンで、解説者の滝田洋一氏は次のようにいったのです。
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中国の国防相が動静不明になっている。異常なことです。中国
で何かが起きている。 ──滝田洋一氏
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この情報は、9月12日付の日本経済新聞に次のように報道さ
れています。
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中国の李尚福国防相の動静が2週間伝えられておらず、国内外
で憶測を呼んでいる。(中略)李氏は昨年10月に中央軍事委員
会員になり、今年3月に国防相に就任した。8月29日北京で開
いた「中国アフリカ平和安全フォーラム」での演説が発表されて
以降、動静が途絶えている。(中略)
米国のエマニュエル駐日大使はX(旧ツイッター)への8日の
投稿で「習政権の閣僚陣は、今やアガサ・クリスティの小説『そ
して誰もいなくなった』の登場人物のようになっている」と書き
込んだ。 ──2023年9月12日付、日本経済新聞
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──[物価と中央銀行の役割/022]
≪画像および関連情報≫
●中国経済“予想外”の息切れ 今何が起きているの?
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2023年6月15日に発表された5月の経済統計では、
工業生産が新型コロナの影響で打撃を受けた去年の同じ月か
らプラス3・5%と低い伸びにとどまりました。前年5月が
上海市を中心に厳しい外出制限がとられていた時期だったの
で、力強さに欠けた数字といえるでしょう。
また、1月から5月までの不動産の開発投資は、マイナス
7・2%と主要産業である不動産業の低迷も続いています。
6月9日に発表された5月の消費者物価指数は去年の同じ月
と比べて0・2%の上昇。4月は0・1%でかろうじてプラ
スを保っているものの、デフレ懸念が浮上しています。
さらに5月の16歳から24歳までの若い世代の失業率は
20・8%と過去最悪の水準を更新。若い世代を中心に雇用
への不安も広がっています。
こうした状況に6月20日には事実上の政策金利を引き下
げられる追加の金融緩和が行われると見込まれるなど、警戒
感を強める中国当局による景気対策が打ち出されるとみられ
ています。中国経済に今、何が起きているのか。
中国経済が専門で上海に駐在するみずほ銀行(中国)の伊
藤秀樹主任エコノミストに聞きました。「ゼロコロナ」政策
の終了後、3月くらいまではリバウンドで回復したが、4月
からはかなりゆっくりしたペースになっていて、予想より悪
い。「足踏みに近い」状態だ。 https://onl.bz/ky2Cwfb
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外相交代