2022年6月には前年同月比9・1%まで上昇し、ピークを
つけた消費者物価指数(CPI)は、2023年6月には3・0
%まで順調に低下しています。パウエルFRB議長の目指す「2
%以下」のインフレ目標が視野に入ってきています。
パウエル議長は、2022年1月に、「ソフトランディング」
ではなく、「ソフティッシュ・ランディング」という言葉を使っ
て、次ののようにスピーチしています。
─────────────────────────────
さて、私は、ソフトランディング、あるいはソフティッシュ・
ランディング、あるいはそのような結果を得るチャンスが十分に
あると思います。理由はいくつかあります。1つは、家計と企業
の財務状況が非常に良好なことです。バランスシート上の貯蓄は
以前のトレンドよりも大幅に増えている、という意味で、過剰に
なっています。企業の財務状態も良好です。労働市場も、先ほど
申し上げたように非常に強い。ですから、景気後退にはほど遠い
状態のようです。 https://q-leap.co.jp/financial-english12
─────────────────────────────
「ソフトランディング」とは「軟着陸」の意味であり、「労働
市場を堅調に保ちながら、インフレ率を2%にすること」です。
しかし、労働市場は堅調であるものの、2%にすることは至難の
業といえます。それは、2020年から22年にかけて、様々な
供給制約の出来事があるからです。
パンデミック、ロックダウン、侵略戦争、物流混乱、半導体不
足、気候変動、パニック的買占めなどによってできるカオスがま
だ完全に消えていないのです。そして、これにインフレのカギを
握るのは、エネルギー価格です。パウエル議長は、こうした情勢
を鑑みて、現況を「ソフトランディング」ではなく、「ソフティ
ッシュ・ランディング」という言葉を使ったものと思われます。
整理すると、次のようになります。
─────────────────────────────
ソフトランディング ・・ Soft landing
軟着陸
ソフティッシュ・ランディング ・・ softish landing
軟着陸らしきもの
─────────────────────────────
米国の経済には、もうひとつ懸念されていることがあります。
それは「逆イールド(長短金利差の逆転)」の存在です。逆イー
ルドについては、既にEJで取り上げていますが、期間の短い政
策金利が10年物国債の金利よりも高くなる現象のことです。通
常債券は期間が長いほど金利が高くなりますが、それが逆転する
現象のことをいいます。
米FRBは、インフレを退治するため、政策金利(短期金利)
を何回も利上げしているので、それが10年物国債の金利との逆
転現象を生んでいるのです。
なぜ、逆イールドが問題かというと、金利を上げて金融の引き
締めを行うと、一定の確率で1年か1年半後には景気後退が起き
る確率が高いからです。つまり、逆イールドは、「景気後退の予
兆」といわれているのです。
現在、米国では、3年債と10年債、2年債と10年債の逆転
がありますが、2年債と10年債が、2022年7月以降ずっと
2年債利回りがずっと逆転していることです。
今年の7月3日の米国債市場で、この2年債と10債の「逆イ
ールド」がさらに拡大し、一時1981年以来42年ぶりの大き
さになっていることがわかったのです。そのため、景気後退(リ
セッション)の予兆とされる逆イールドに再び注目が集まってい
るのです。
そのため、パウエルFRB議長は、年内にあと2回の利上げは
あり得るといっています。この米当局の利上げによって通貨安が
進むのが中国と日本です。しかし、日本の場合、中国と違い円安
が深刻な局面に陥ることはないといえます。この日本と中国の違
いについて、9月9日の日本経済新聞は、次のように解説してい
るので、ご紹介します。
─────────────────────────────
円安と人民元安は構図が似通う。日銀は世界の主要国で唯一マ
イナス金利政策を続け、中国は景況感の悪化から事実上の政策金
利である最優遇貸出金利(LPR、ローンプライムレート)を引
き下げるなど金融緩和姿勢が鮮明となっている。欧米が2024
年も高い政策金利を維持する可能性が高まる中、円と人民元はと
もに売られやすい地合いとなっている。
──2023年9月9日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
中国の習近平国家主席がG20を欠席したのは、インドとの確
執もあるかもしれませんが、人民元暴落不安があったのでしない
かという説があります。
中国の不動産バブルは今に始まったことではなく、これまで何
回も起きています。しかし、これまでは、それが金融危機を発生
するのを阻止してきています。しかし、根本的な解決策を図らな
いことによってバブルがだんだん大きくなり、その負債額の規模
はとんでもない規模に達しているのです。
バイデン米大統領は、中国のことを「爆発するのを待っている
時限爆弾」とまでいっています。このままなら、外貨は中国市場
から逃げ出し、中国人の資産家は香港経由で資産を外国に移動さ
せています。その結果は人民元の対ドル相場に反映し、元安が一
段と進んでいるのです。添付ファイルのグラフは、産経新聞特別
記者・田村秀男氏のコラム(夕刊「フジ」)に出ていたものを転
載しています。
なお、12日と13日は、オンラインでの仕事がありますので
休刊にし、13日と14日の2日間を休刊とし、15日から再開
します. ──[物価と中央銀行の役割/021]
≪画像および関連情報≫
●米国の逆イールドは42年ぶりの大きさとなる
−1・06%まで拡大!
───────────────────────────
米国の逆イールドは、6月30日に、1・06%まで拡大
した。米国債の2年物と10年物の金利差は、通常は10年
物の金利が2年物の金利を上回るという「順イールド」にな
る。しかし、その反対の現象である「逆イールド」が起き、
金利差が−1・0%を超えるレベルが6月下旬から定着して
いるのだ。
2年債の利回りが10年債を上回る逆イールドが発生した
のは2022年3月29日だ。2019年の夏以来となる約
2年半ぶりの出来事だった。あれから1年3ヶ月が経過した
今、逆イールドはますます大きくなっている。6月30日時
点の逆ザヤの−1・06%は、今回の逆イールドで最大レベ
ルであり、1981年以来42年ぶりの大きさとなる。
通常、債券の利回りは年限が長くなるほど返済リスクを踏
まえて金利は高くなる。将来の経済や物価が不確実で見通せ
ない分、投資家は高い利回りを求めるからだ。そのため1年
債よりも3年債、3年債よりも10年債、10年債よりも、
20年債の方が利回りは高くなる。当たり前の話だ。今起き
ている2年債の利回りが10年債の利回りを大きく上回る現
象は普通は考えられない。どうしてこのようなことが起きて
いるのだろうか?
https://diamond.jp/zai/articles/-/1018679
───────────────────────────
人民元決済と人民元の対ドル相場