げているのは、2023年度の日本経済は、一応「好調である」
というレベルにあり、ウォッチングする価値があるからです。と
いうわけで、内閣府が8月15日に発表した4〜6月期のGDP
の速報値に基づいて解説を書いたところ、なんと書き終わった直
後に「改定値」が出たのです。これによると、年率換算6・0%
が4・8%に下方修正されたのです。
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◎2023年4〜6月期GDP増減率内訳
実質成長率 名目成長率 改定値
GDP 1・5% 2・9% 1・2%
年率換算 6・0% 12・0% 4・8%
個人消費 ▲0・5% ▲0・2% ▲0・6%
設備投資 0・0% 0・8% ▲1・0%
民間在庫 ▲0・2% 0・0% ▲0・2%
政府消費 0・1% ▲0・0% 0・0%
公共投資 1・2% 2・0% 0・2%
輸出 3・2% 4・0% 3・1%
輸入 ▲4・3% ▲7・4% ▲4・4%
註:▲はマイナス
「民間在庫」はGDPへの寄与度
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以下、解説は「年率換算6・0%」で書いていますので、一応
お読みいただき、その後、9月8日に発表された改定値に基づく
修正の解説を付け加えることにします。
年率換算6・0%といってもピンとこないと思うので実額でい
うと「560・7兆円」──これまでの最高値である2019年
7月〜9月期の「557・4兆円」を超えるものです。これは名
目額で「約590兆円」にまで拡大しています。これはインフレ
の影響もあります。
しかし、これらは見かけ上のもので、手放しでは喜べないので
す。最大の問題点は、日本のGDPの過半を占める個人消費が、
伸びていないことです。
2022年から23年4月〜6月までの個人消費を四半期別の
数値で対前年比で比較して見ると、2023年は、次のようにマ
イナス0・5%になっています。
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2022年 2023年
1〜 3月期 ▲1・1% 0・6%
4〜 6月期 1・8% ▲0・5%
7〜 9月期 ▲0・0%
10〜12月期 0・2% 註:▲はマイナス
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はっきりしていることは、「輸出」が増加して「輸入」が減少
していることです。輸出は前年比3・2%と好調ですが、これは
半導体の供給制約が緩和された自動車の増加がけん引しており、
インバウンド(訪日外国人)の回復もプラスに寄与しています。
外国人が来日してモノを買うインバウンド消費は、計算上は輸出
に分類されるのです。
これに対して輸出は4・3%減で、マイナス幅は1〜3月期の
2・3%より拡大しています。原油など鉱物性燃料やコロナワク
チンなどの医薬品、携帯電話の減少が全体を下押ししています。
ちょっと考えると、輸入というのは、海外への支払いであり、
国内のお金の総量であるGDPから見ると、マイナスに働くよう
に考えますが、実は輸入が減るということはGDPにはプラスに
貢献します。一種の統計のマジックです。
さて、ここからが「改定値」に基づく解説です。GDP6・0
%はなぜ、4・8%増に下方修正されたかです。企業の設備投資
が速報値から下振れし、前期比でマイナスに転じたからです。マ
イナスは2四半期ぶりです。財務省による4〜6月期の法人企業
統計によると、金融・保険業をのぞく設備投資が、季節調整済み
の前期比で1・2%減だったのです。
設備投資は製造業は堅調だったのですが、非製造業が減少に転
じています。ただ、前年の水準は上回っており、今回の下振れは
一時的な動きの可能性もあります。
個人消費は、速報値の前期比0・0%減から、さらに0・6%
減に下方修正となっていますが、宿泊などのサービス消費が前年
比0・3%増が0・1%増に縮小したことが原因です。
さて、改定値では、今期の最大の特色である「輸出」が増加し
て「輸入」が減少するパターンはどうなっているでしょうか。
「輸出」は前期比3・2%増から3・1%増に縮小、「輸入」
は前期比3・2%増から3・1%増に下方修正されているので、
そのパターンは変わっていないといえます。この4〜6月期のG
DP(速報値)について、田中秀臣上武大学ビジネス情報学部教
授は、次のように述べています。
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◎上武大学ビジネス情報学部教授
これからさらにおカネの不足が深刻化する可能性がある。ガソ
リン代への補助金がまもなく打ち切られる。そのままだと国民の
購買力を大きく低下させる。車に依存する地方経済はとくに苦し
くなり、また経済活性化の基礎である物流のコストも上がるだろ
う。だが、いまのところ、岸田文雄政権からは継続する発言が聞
こえない。さらにいえば、おカネの不足を解消するには、減税や
給付金の拡大が必要になる。最近話題になっているブライダルな
ど業界団体への補助金には意欲的だが、他方で国民が広く恩恵を
得る消費税などの減税には、岸田政権はきわめて消極的だ。
──「ニュースの裏」/2023年8月21日発行
『「好調」GDPの裏表』
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──[物価と中央銀行の役割/020]
≪画像および関連情報≫
●実質賃金7月2・5%減/16カ月連続マイナス
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厚生労働省が8日発表した7月の毎月勤労統計調査(速報
従業員5人以上の事業所)によると、1人当たりの賃金は物
価を考慮した実質で前年同月比2・5%減った。マイナスは
16カ月連続。物価高の勢いに賃金の伸びが追いつかず、減
少幅は6月の1・6%から拡大した。
名目賃金に相当する1人当たりの現金給与総額は、前年同
月比1・3%増の38万656円だった。このうちボーナス
など特別に支払われた給与は10万8536円で、0・6%
増えた。ここ数カ月はボーナスが伸び、特別給与の増加率は
5月が35・9%、6月は3・5%だった。増加傾向が、弱
まったことが7月の実質賃金を押し下げた。
現金給与総額を就業形態別にみると、正社員ら一般労働者
は50万8283円、パートタイム労働者は10万7704
円でいずれも1・7%伸びた。残業などによる所定外給与は
一般労働者が1・1%増の2万6640円だったが、パート
労働者は1・2%減の2830円と差が広がった。
名目賃金のうち基本給に当たる所定内給与は1・6%増で
5月以降1%台の増加が続く。厚労省は「春季労使交渉によ
る賃上げ効果を反映している」とみる。
──2023年9月8日付、日本経済新聞/夕刊
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田中秀臣氏