催され、「プラス0・25%」の政策金利の引き上げが決定して
います。これについて、第一生命経済研究所・熊野英生氏は、次
のようにレポートしています。
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現状のインフレ率は、2022年6月に米消費者物価が前年比
9・1%という驚くべき高い伸びになっている。FRBは利上げ
でそれを下げて行こうとしている。その際には、まず、@物価上
昇率が勢いを止める、次に、A前年比が緩やかに2%に落ち着い
ていく、という2段階のプロセスを踏んでいくだろう。6・7月
に+0・75%もの大幅な利上げ幅になったのは、「勢いを止め
る」ことが目的だった。もしも、7・8月の米消費者物価の上昇
幅が大きければ、さらに+0・75%の大幅な利上げを、次回9
月の会合でも継続するだろう。パウエル議長は、今後の利上げは
「データ次第」と繰り返している。
https://toyokeizai.net/articles/-/472932?display=b
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今ではパウエルFRB議長が政策金利を利上げしても誰も驚き
ませんが、そのパウエル議長がコロナ危機が始まった当初、連続
して「金融緩和措置に動いた」ことを多くの人は忘れてしまって
います。今ではFRBのパウエル議長といえばあくまで「利上げ
のおじさん」であって、金融緩和策を連続してとった人とは思え
ないです。
2020年2月3日早朝、G7は緊急の財務相会議において持
続的な成長を実現するため、あらゆる政策手段を用いて、経済の
下方リスクに立ち向かう」という共同声明を発出しています。
FRBのパウエル議長は、臨時のFOMCを開催し、9・5%
の「利下げ」を決めています。FRBは立て続けに緩和措置を拡
大し、2020年3月13日にトランプ大統領が国家非常事態を
宣言した直後の15日には、FRBは日曜日にもかかわらず、再
びFOMCを開いて「1%の大幅利下げ」に踏み切っています。
これは事実上のゼロ金利政策の再開で、米国債を5千億ドル購入
する量的金融緩和も復活させているのです。その結果はどうなっ
たのでしょうか。
日本経済新聞社、金融・市場ユニット金融部長、河浪武史氏は
自著でパウエル議長が取った処置について、次のように記述して
います。
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それでも12日の米株式市場では、ダウ平均が1日2352ド
ル安と過去最大の下落幅を記録。FRBのゼロ金利・量的緩和で
も株安は止められず、16日にはさらに2997ドル安と、再び
史上最大の急落に見舞われることになる。
ダウ平均は、2月の過去最高値から3月下旬には1万8500
ドル台まで大きく落ち込んだ。コロナ禍による経済危機が深まる
につれて、金融緩和の土台も大きくなり、3月23日にFRBが
国債購入を「無制限」に切り替えて量的緩和を拡充すると、よう
やく株価は下げ止まった。
このとき、FRBが恐れていたのはデフレだった。コロナ危機
が企業の設備投資を大きく押えつけてしまえば、成長力そのもの
が落ちて経済は長期停滞に陥る。米国のインフレ率はリーマン・
ショック以降、ほぼ一貫して目標の2%を下回り続けていた。F
RB内には低物価と低成長が続く「日本化」を本気で警戒する声
があった。FRBはこのとき、日銀が16年から続けてきたイー
ルドカーブ・コントロール (YCC、長短金利操作)の発動ま
で検討している。20年3月にゼロ金利と量的緩和を復活させて
おり、追加金融緩和の手段はほとんどなくなっていた。
──河浪武史著『日本銀行虚像と実像検証25年緩和』
日本経済新聞出版
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つまり、米国は2020年3月13日のトランプ大統領による
国家非常事態宣言を宣言してから約1年間続けられたのです。し
かし、20年4〜6月期の実質国内総生産(GDP)成長率は、
前期比マイナス29・9%(年率)という大幅の落ち込みになり
戦後最悪の景気悪化を招いています。
なかでも失業率は、2月の3・5%、3月の4・4%、そして
4月には14・7%まで急上昇し、失業者が、街に溢れるまでに
なっています。そのため、米国政府は、中小企業に3500億ド
ルの補助金を用意し、家計にも1人最大1200ドルの現金を支
給するほか、家賃の支払いや、食材の購入などの支援をしていま
す。この過去最大の財政出動を支えたのは、FRBが政府の発行
する国債を無制限に買い入れたからです。このとき、長期金利は
大きく下落して、5月には史上最低の0・5%まで下落している
のです。これほどの財政出動をしても、金利が上昇しなかったの
は、FRBによる米国債の大量購入があったからです。同様のこ
とを日本を含むG7各国もやっていたことになります。日本は、
コロナ禍前からアベノミクスにおいて、異次元の金融緩和を続け
ていたのです。
それでは、なぜ、この異常ともいえる中央銀行による金融政策
が話題にならなかったのは、コロナがニュースの前面を占めてい
ていたからです。ところが、米国でインフレが目立ち始めたのは
コロナ危機が収束し始めてきた2021年の春だったのです。そ
れは、FRBがひそかに恐れたデフレではなく、想定外のインフ
レだったのです。
2021年にバイデン政権が発足するや、政権は1・9兆ドル
の新型コロナウイルス対策を発動すると、落ち込んでいた景気は
過熱懸念をはらんで復活し、コロナ後の労働者や消費者の行動変
容を起こすにまでになります。この一連のコロナ対策の積み上げ
が想定外のインフレを呼びこむ起爆剤となったのです。米FRB
パウエル議長は明らかに対策を間違えています。
──[物価と中央銀行の役割/014]
≪画像および関連情報≫
●「ミスター普通」のFRB新議長、「異端」トランプ氏と
どう向き合う
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白亜の大理石造りの建物の中は、厳粛な空気が張り詰めて
いた。階段を上がると、広々とした理事会室がある。30人
が座れる長いテーブルの中央のいすからは、右の壁に米国の
巨大な地図。左の壁にワシをあしらった。紋章がみえる。2
月4日に65歳の誕生日を迎えるジェローム・パウエルが、
前日に任期を終えるイエレンに代わって、FRB(連邦準備
制度理事会)の第16代議長としてこのいすの新たな「主」
になる。
「彼は幅広い民間での経験と実社会の見方をもたらしてく
れる。経済成長に何が必要か理解している」。昨年11月、
次期FRB議長発表の記者会見。トランプ大統領はパウエル
をそう評した。身ぶり手ぶりで話すトランプと、低い声で淡
々と話すパウエル。二人の対照的なスタイルが、印象的だっ
た。FRBの理事であるパウエルは、元々ウォール街での経
験が長い。ビジネスマンのトランプは、パウエルの民間での
経験を重視したとされる。前任のイエレンやバーナンキが著
名な経済学者だったのに対し、経済学の博士号を持たない議
長はおよそ40年ぶりだ。
「ミスター・オーディナリー(普通)」。米ウォールスト
リート・ジャーナル紙はパウエルをそう呼ぶ。現実的で、合
意形成を重視するとも評される。理事時代、反対票を投じた
ことは一度もない。「規制緩和を支持し、金融政策はさほど
引き締め派でもない。いいスーツを着て、議長らしい風格も
ある」。米政府関係者はそう話す。「地味な印象だが、トラ
ンプは評価している」。
https://globe.asahi.com/article/11529673
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トランプ前大統領とFRBパウエル議長