2023年07月25日

●「東大日次物価指数というものがある」(第6001号)

 「東大日次物価指数」というものがありますが、ご存知でしょ
うか。「日経POS(販売時点情報管理)情報」から取得する全
国約300店のスーパーの食料品、日用雑貨など約200品目の
価格情報をもとにして毎日算出されています。なお、200品目
には、家電やサービスや生鮮食料品などは、含まないことになっ
ています。
 「東大日次物価指数」は、渡辺努東京大学大学院経済学研究科
教授の研究テーマとして「長期デフレの原因に関する研究」を取
り上げ、2013年5月より「東大日次物価指数」を日々作成し
プロジェクトのHP上で公開すると同時に、ロイター、ブルーム
バーグ、QUICKなどの情報ベンダーに配信しています。
 具体的には、日本経済新聞社の提供するスキャナーデータを用
いて、トルンクビスト指数を日次で、しかもラグ2日間というス
ピードで計算し公開しています。なお、現在では、この作業は東
大から株式会社ナウキャストに移管し、「日経CPINow」と
しいう名称で配信されています。
 重要なのは、東大日次物価指数が、ミクロ価格データを元にし
て「長期デフレの謎」を解くことを目的としているということで
す。これに関連して「総務省指数」というものがあります。一般
的に、消費者物価指数は、消費者が購入するモノやサービスなど
の物価の動きを把握するための統計指標で、総務省から毎月発表
されています。これを「総務省指数」というのです。
 それでは、「東大日次指数」と「総務省指数」は、どのような
関係にあるのでしょうか。この両者の関係を比較すると、次のよ
うになります。
─────────────────────────────
      総務省指数 ・・ 月次/食料品と日用雑貨
               ─→ ラスパイレス指数
   東大日次物価指数 ・・ 日次/食料品と日用雑貨
               ─→    生計費指数
     註:東大指数と総務省指数の商品は比較のため同一化
─────────────────────────────
 昨日のEJで「JANコード」について説明しましたが、この
JANコードで商品を識別すれば、それぞれの指定された商品が
あるスーパーにおいて、ある日にいくらで何個売れたかを記録し
たデータをとることができます。ある商品の今日の価格と1年前
の今日の価格を比較することで、その商品の価格が1年間に何倍
になったかについても計算して知ることができます。
 それとその商品の販売シェアを今日と1年前の今日の2時点で
計算し、その平均値をとります。そして、この販売シェアを重み
として、価格の変化を平均すると、トリンクビスト指数が求めら
れます。これが東大日次物価指数の正体です。
 添付ファイルをご覧ください。これは、渡辺努教授の本に出て
いたものですが、1990年4月から2020年4月まで、東大
指数と総務省指数を比較したものです。両方とも線が黒色なので
見分けにくいかもしれません。それに総務省指数は「月次」であ
るのに対して、東大指数は「日次」の違いもあります。しかし、
全体的には、両者は非常に似ています。
 ところで、総務省指数は、ラスパイレス指数で計算されている
という違いもあります。つまり、ラスパイレス指数とは、次のよ
うな指数です。
─────────────────────────────
◎ラスパイレス指数とは何か
 物価などの指数を算出する際の計算手法のひとつ。ドイツの経
済学者エティエンヌ・ラスパイレス氏が考案したことが名前の由
来。ある基準となる年を設定し、現在の価格で基準年と同じ物を
同じ数量購入したら費用はどれだけ変化するかを基準年を100
として示す。日本の消費者物価指数などは、この方法で計算され
ている。  https://www.daiwa.jp/glossary/YST2868.html
─────────────────────────────
 総務省指数は、繰り返しますが、ラスパイレス指数で計算され
ています。よく見ていただくとわかるように、東大指数はほとん
どすべての時期で、総務省指数を下回っています。東大指数は、
生計費指数に一番近い数字がわかる指数です。
 それは、ラスパイレス指数が消費者の今月時点での節約行動が
反映されないので、その分、東大指数(生計費指数)よりも高め
に出ることが原因です。これは、総務省指数の誤差といってよい
と思います。それは、ラスパイレス指数は、昨日を基準にして、
今月を評価するものであるからです。しかし、ラスパイレス指数
は、19世紀に提唱され、日本をはじめ多くの国で採用されてい
る物価指数です。
 ついでにもうひとつの指数である「パーシェ指数」についても
ふれておくことにします。「ラスパイレス指数」と「パーシェ指
数」の違いは理解する必要があります。これについて、渡辺努東
大教授は次のように説明しています。
─────────────────────────────
 パーシェ指数は、ラスパイレス指数と並ぶ代表的な物価指数で
基本的な考え方はよく似ています。ただし、ラスパイレス指数が
昨日を基準に今日を評価するものだったのに対して、こちらは今
日を基準に昨日を評価するもので、時間の方向が正反対になって
いるというのが大事な違いです。
  ──渡辺努著/『物価とは何か』/講談社選書メチェ758
─────────────────────────────
 ラスパイレス指数、パーシェ指数、トリンクビスト指数など、
難しい話が続いていますが、一般の国民にとって身近な問題であ
るはずの「物価」の問題について、どうやって計算しているのか
を含めて、ほとんど何も知らないことが多いと思います。
 総務省指数と東大指数──これによるグラフには、指数の違い
では説明できない乖離があると渡辺教授はいっています。
           ──[物価と中央銀行の役割/011]

≪画像および関連情報≫
 ●QS世界大学ランキング 東大は昨年と同じく世界23位
  国際性で低評価変わらず
  ───────────────────────────
   東大の「総合評価」は85・3点(100点満点、以下同
  様)で、昨年比0・9点減。六つの評価項目のうち「学術評
  価」では昨年に引き続き満点、「企業評価」は、99・7点
  (同0・1点増)、「学生1人当たりの教員数」も91・9
  点(同0・5点減)と安定して高評価を維持した。また研究
  力の指標となる「教員1人当たりの論文被引用数」は73・
  3点(同5・7点減)となった。
   一方、国際性の指標では「外国人教員数」は、10・4点
  (同7・1点増)と前々回以前の数年と同程度の評価を受け
  たが、それでも上位50校の中で最低。「外国人学生数」も
  27・8点(同0・7点減)という低評価を受け、東大の総
  合評点を著しく下げる結果に。他の大学と比較して東大が依
  然国際性に課題を抱えていることが浮き彫りとなった。
   東大の他に国内で上位100校に選ばれたのは、京都大学
  (36位)、東京工業大学(55位)、大阪大学(68位)
  東北大学(79位)の4校だった。
   全体では、米マサチューセッツ工科大学が11年連続で1
  位。上位10校の顔触れは昨年と変わらず、9位のチューリ
  ッヒ工科大学を除き、米英の大学が占めた。アジアでは、シ
  ンガポール国立大学が5年連続で11位だった。
   https://www.todaishimbun.org/ranking_20220618/
  ───────────────────────────
東大物価指数と総務省指数.jpg
東大物価指数と総務省指数
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物価と中央銀行の役割 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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