2023年07月20日

●「物価とは『生計費指数』である」(第5998号)

「物価とは何か」──始めに謎のような言葉を出して注意を喚
起し、それを少しずつ具体的なものに近づけて行く──これが、
渡辺努東京大学教授の話の進め方のようです。渡辺教授はさらに
物価の正体に迫っていきます。
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      @     物価とは「蚊柱」である。
      A物価を決めるのは貨幣の魅力である。
    → B    物価とは生計費指数である。
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 「生計費指数」とは何でしょうか。これを現在話題になってい
る「チャットGPT」に聞いてみると、あっという間に次の説明
が出てきました。字数を数えてみると、177字でした。
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質問:生計費指数とは何かについて、200字以内で教えて!
チャットGPT:生計費指数は、特定の地域の生活費の相対的な
 比較を示す指数で、物価や住宅費、食料費、交通費などを考慮
 して計算されます。基準地域との比較で表示され、指数が高け
 れば生活費が高く、低ければ低いことを意味します。移住や転
 勤の際に生活費の相対的な差を把握し、予算の計画や生活水準
 の決定に役立てられます。詳細な数値は地域や情報源によって
 異なるため、信頼性の高い情報源を参照することが重要です。
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 渡辺教授は、「生計費指数」の説明に、「お買い物ゲーム」を
もってきます。スーパーで、1万円の買い物をして、100とい
う効用を得たとします。「効用」とは何でしょうか。効用という
のは、商品を食べたり、使ったりして、それらをすべて消費する
ことで得られる満足感のことです。
 さらに「お買い物ゲーム」を続けます。次の日に同じスーパー
で、次の条件に従って、お買い物をしてもらいます。
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   @同じ100の効用が得られるように買い物をする
   A買い物総額を最小限に抑えるよう商品選びをする
─────────────────────────────
 この買い物で、同じものを買えば、100の効用が得られるか
というと、そうとは限らないのです。スーパーの商品の価格が変
化しているからです。結局、100という効用を得られるように
買い物をすると、価格が1万2000円になったとします。前回
よりも2000円高くなっています。
 ここで大事なことはなぜ2000円増えたかです。好きなもの
があったからでもなく、衝動買いをしたわけでないことは明らか
です。「買い物の総額を最小限度に抑える」という縛りがかかっ
ているからです。そうすると、価格が上がった原因は、物価が上
がったことになります。そこで、次の計算をします。
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    12000円 ÷ 10000円 = 1・2
─────────────────────────────
 1・2倍──これは物価の変化です。これについて、渡辺教授
は、次のように解説しています。
─────────────────────────────
 今日の1万2000円を昨日の一万円で割ると、1・2倍にな
ります。この1・2という数字を物価の変化とみなす──これが
現代の物価計測のもっとも基礎にある考え方です。商品の中には
昨日より価格が上がっているものも、下がっているものもありま
すが、それら全部をひっくるめて物価がどの程度変化しているか
を計測できているというところがこの計測のポイントです。
 「昨日と同じ効用を得ようとしたときに必要となる最小限の支
出」、実は、これこそがいま一般的に使われている物価の定義で
す。物価理論の研究者や物価統計を作成する政府の担当者は、こ
れを「生計費指数」とよんでいます。この生計費指数が上がるの
がインフレであり、その逆がデフレです。
  ──渡辺努著/『物価とは何か』/講談社選書メチェ758
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 ここで冒頭のAの「物価を決めるのは貨幣の魅力である」につ
いてもう一度考えてみます。渡辺教授によると、物価水準の上下
を決めるのは「貨幣の魅力」であるとしていますが、これには多
くの議論があるようです。伝統的な考え方としては、「決済サー
ビス」としての魅力とされてきていますが、信用の実態は政府に
あると渡辺教授はいっています。
 それでは、政府の最大のお宝は何かというと、渡辺教授は「徴
税権」を上げています。徴税権とは、政府が国民から税を取る権
利であり、国民から見たときの納税義務に対応するものです。政
府が先々徴収する税金は、政府のお宝そのものです。FTPLで
は、これが貨幣の裏づけになっています。すなわち、貨幣と国債
は、将来の税収が裏づけとなって発行されています。したがって
貨幣と国債は、将来の税収が裏付けとなっている点で似たもの同
士です。これについては、嘉悦大学教授の高橋洋一氏も同じこと
をいっています。
─────────────────────────────
 政府のバランスシートをバランスさせるのが、課税権、徴税権
である。課税権とは政府が税を課す権利であり、徴税権とは税を
徴収する権利である。この課税権と徴税権によって、現在、政府
に現金がなくても、将来にわたる税収が保証されることになり、
政府のバランスシートもバランスするのである。
 ただし、これには一定の条件がある。その基準となるのが、債
務残高の対GDP比である。なぜなら、国の支出が増えても、国
の経済が成長してGDPが上昇すれば、将来の税収は増えると考
えられるからである。       ──高橋洋一嘉悦大学教授
            http://kaihooo.com/balance-sheet/
─────────────────────────────
           ──[物価と中央銀行の役割/008]

≪画像および関連情報≫
 ●【こっそり学ぶ】街角経済学「物価について」/花房幸範氏
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   こんにちは。ビズサプリの花房です。皆さんは、牛丼はど
  このチェーンに行きますか?
   吉野家、松屋、すき家の中だと、私は松屋の牛丼が一番好
  きなのですが、松屋は、先日、牛丼の並盛を20円アップの
  400円に値上げしました。数年前は300円前後だったこ
  とを考えると、この5年間で3割ほど値上がりしたことにな
  ります。
   またこの1年ほどは、原油価格の上昇や円安を始めとする
  原料価格の上昇、物流費の増加、人件費の増加等の理由で、
  様々な飲食物や消費財と言った、生活に身近なものが総じて
  値上がりしてきたと感じていると思います。
   先日は首都圏の電車の初乗り運賃の一斉値上げ、電気代も
  2年前と比べると、1・5倍程度に値上がりしているようで
  す。また、多くの食品に使われる小麦は大半を輸入に頼って
  いますが、日本では価格安定と需給を調整するため、政府が
  一括して輸入し、売り渡し価格を半年ごとに変動しており、
  本来は輸入価格は13%程度上昇しているところ、消費者へ
  の影響を考慮して現行の価格から6%弱の値上げになるよう
  です(これによる国の負担は100億円だそうです)。小麦
  価格が値上がりすれば、パンやパスタをはじめ、多くの食品
  に更なる価格転嫁が予想されます。
         https://maonline.jp/articles/bizsupli0426
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スーパーでの買い物.jpg
スーパーでの買い物
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物価と中央銀行の役割 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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