2007年08月02日

●米国経済に影響を与える国内事情(EJ第2135号)

 リチャード・クー氏による『バランスシート不況論/「陰」と
「陽」の経済学』の理論を通してここまで43回にわたって分析
してきた今回のテーマ「日本経済生還の謎」はあと2回で終了し
ます。そこでまとめとして、いくつか述べたいと思います。
 経済というものはその中心が人間の行動ですから、理論といっ
ても数学のようにきちんと説明できないものが残るのは仕方がな
いと思います。そのため経済現象を説明するためいくつもの説が
あるのは当然のことです。
 しかし、世界の経済学界にはノーベル賞受賞者を中心とするあ
る特定の学派の考え方−−反ケインズ主義−−が中心となりつつ
あり、それがかつての「資本主義か共産主義か」というかたちの
イデオロギー化して対立している−−そう感じます。
 これは大変危険なことであると思います。なぜなら、それは新
しい経済学の発達にブレーキをかけることになるからです。もと
もとはっきりしない人間の行動を対象とする学問にはいろいろな
考え方が共存すべきであるし、それを受け入れることによって経
済学は発達するからです。
 しかし、現在の経済学界は新しい理論を嫌い、受け入れようと
はしないのです。すべてを自分たちが信奉する理論によって説明
しようとします。それで説明し切れないことが出てくると、別な
理由をつけて整合性をとろうとします。
 その格好のテーマが過去15年間にわたる日本の長期不況だっ
たのです。この不況に関して従来の経済学をベースとして組まれ
実践された数多くの処方箋はまったく無力だったのです。そうす
ると、現在の経済学を牛耳る経済学者たちは、「日本は特殊であ
る」という日本特殊論で片付けようとしています。
 それは学問というよりも一種の信仰に近い思想であり、そうい
う思想によって世界は社会的なマインドコントロールされている
という学者もいるほどです。
 しかし、リチャード・クー氏のバランスシート不況論は、ここ
までご説明してきたように、ほぼ完全に日本の長期不況の原因を
解明し切っています。だからといって、バランスシート不況論の
すべてが正しいというわけではありませんが、ひとつの興味ある
考え方として従来の経済学に取り入れたらよいと思うのです。そ
のひとつの提案が『「陰」と「陽」の経済学』なのです。
 しかし、経済学界はこのクー氏の考え方をまったく認めようと
はしていないのです。クー氏の今回の本を読めばわかるように、
内外の経済学者はこぞってこの説に反対のようです。その反対の
根拠についても書いてありますが、素人としてはまったく納得性
のない論拠のように思えます。
 クー氏にいわせると、現在の主流の経済学による経済政策は、
「陽」の局面において有効な政策であって、「陰」の局面には効
かないといっているからです。おそらく金融政策に自信過剰な経
済学者たちはこれを認めることはできないでしょう。しかし、前
回のEJで述べたように、現在日米独の経済大国はすべて「陰」
の局面にあり、少しでも早く「陰」から「陽」への転換が求めら
れているのです。
 それはさておき、このテーマの終りに当たって世界経済の鍵を
握る米国経済について簡単に分析をしておきます。
 現在の米国経済は、元気な企業部門を中心にして活況を呈して
いますが、次の3つの重要な国内事情を抱えています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      1.GDPの7%に達する貿易赤字
      2.インフレが加速しつつあること
      3.住宅バブルが崩壊していること
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第1の問題は、対GDP比で7%を超えている貿易赤字の存在
です。しかし、貿易赤字を減らすにはドル安が不可欠であって、
その実施には特に慎重に対応する必要があります。
 第2の問題は、インフレが加速しつつあることです。インフレ
懸念は2006年春から数値的にはかなり顕著になってきており
米国金融当局としては警戒感を強めているのです。
 第3の問題は、住宅バブルの崩壊です。現在、米国では新築住
宅の売れ残り在庫が過去最高に達しています。また低信用力の個
人向け住宅融資の焦げ付きも問題になっています。
 米国経済が抱えるこれら3つの問題はいずれも非常に対応が難
しいのです。貿易赤字を解決するにはドル安は不可欠ですし、イ
ンフレにはドル高や金利高がいいのです。ところが、住宅バブル
の崩壊には低金利の方がソフトランディングに持っていきやすい
のです。あちらを立てればこちらが立たずという状況であり、解
決の順番がきわめて難しいのです。
 米国はインフレ対策から手をつける方針のようです。そのため
には金利は高い方がいいし、ドルも安くならない方がベストであ
ると考えています。したがって、米国は2OO6年4月末のIM
FやG7発言以来ドルに関しては何もいっていないのです。
 住宅問題については、確かに深刻なものがあります。しかし、
幸いなことに米国の企業はすこぶる元気であり、この4〜6月期
の米実質国内総生産(GDP)の伸び率は前期比年率3.4%と
なり、極めて高水準です。設備投資や輸出といった企業部門の回
復に支えられて、足元の経済は持ち直しているのです。
 現時点での米国当局の判断は、住宅市況は急ピッチで落ちてい
るが、企業部門がしっかりしているので、米国経済が底割れする
ことはないと考えているようです。それどころか、住宅需要があ
る程度減速に向かわないと、インフレも収まらないし、インフレ
が収まらないと、経済全体も軟着陸できない−−そう考えている
と思われます。
 それだけに、信用力の低い個人向け住宅融資−−サブプライム
ローンの焦げ付き問題で株価が動揺している現状には頭を痛めて
いるようです。これによって、市場は不安の連鎖に陥る恐れがあ
るからです。        −−[日本経済回復の謎/45]


≪画像および関連情報≫
 ・サブプライムローンとは何か
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  サブプライムローンは、アメリカの住宅ローンのうち優良顧
  客向け(プライム層)向けでないものをいう。このローンは
  近年拡大した。ところでこのローンに限らず、アメリカの住
  宅ローンについて返済方式が、当初数年間の金利を抑えるも
  のとか、当初数年間金利だけ払うといった当初負担を軽減し
  たものが近年普及し、そのため返済する側が自分の返済能力
  を無視した借入を行う傾向があった。しかし返済の破綻はこ
  れまでは必ずしも表面化しなかった。それは所得の上昇がな
  く生活費が上昇して返済に行き詰まる状況になっても、住宅
  価格が上がりさえすれば、借入れる側は担保評価を超える値
  上がり分を担保に新たな借入を受けるホームエクイティロー
  ンを受けることができ、破綻を先延ばしするだけでなく消費
  を拡大することもできたからである。 −−ウィキペディア
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

}?Zs.jpg

posted by 平野 浩 at 04:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本経済回復の謎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。