融会議「ECBフォーラム」が、ポルトガルの歴史的観光地シン
トラで開催されました。その最終日には、主要中銀のトップであ
る次の4人によるパネル討議が行われたのです。
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パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長
ラガルドECB総裁
ベイリー英イングランド銀行総裁
日銀植田和男総裁
米CNBCキャスター/サラ・アイゼン氏
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ただの4人ではない。世界経済を動かしている4人なのです。
ここで日銀総裁が下手な発言をすると、円売り注文を発動しかね
ない。そういうこともあって、前任の黒田総裁は、フォーラム出
席を辞退することもあったようです。
何しろ、米国、欧州、英国は、利上げによる金融引き締めを実
施しているなかで、日本だけが金融緩和をやっているのにインフ
レはそんなにひどくなっていない──当然質問は植田総裁に集中
してきます。
まして、前日27日には円安が「1ドル=144円」まで進行
していたのです。植田総裁はどう対応したのでしょうか。実際に
パネル討議で、どういうやりとりが行われたかについての情報は
ありませんが、おおよそ次のようなやりとりがあったものと思わ
れます。植田総裁の英語は、日本人特有の訛りがなく、きわめて
流暢であったそうです。
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司会:日本株が30年ぶりの高値をつけているが?(日本の株高
が国際的な話題になっている)
植田:一般論として株価は金利と経済情勢を映すものである。
司会:円安が進行しているが?
植田:それは、本日、この壇上にご出席の3銀行の方々の影響で
ある。(会場が爆笑)
司会:金融政策の違いについて
植田:私は20年以上前に日銀審議委員を務めたが、そのときの
金利は、20から30ベーシス(1ベーシスは0・01%)で
あった。それが今はマイナス10ベーシス。金融政策が効果を
発揮するのには25年はかかるのではないか。(瞬間的に会場
は拍手を交え笑いの渦と化した)
司会:(4総裁に対して)最近ストレスを感じていることはない
か?(欧米の中銀総裁たちは毅然とした表情で「自分に与えら
れた仕事だ。やるべきことをやる」という模範解答をしたのに
対して)
植田:中央銀行総裁になると、こんなに出張や記者会見が多いと
は思わなかった。(会場爆笑)
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「こんな面白い日銀総裁はいない」──植田総裁は大変な評判
です。肝心なことは、ストレートに答えないし、都合の悪い質問
をさせないように巧みに伏線を張ったりしています。それだけ英
語が流暢なのです。この植田日銀総裁の国際会議初デビューにつ
いて、朝鮮日報は次のように報道しています。
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植田総裁の世界デビューに対しては、典型的な学者スタイルで
沈着冷静だった黒田東彦前総裁とは全く異なる印象と評されてい
る。読売新聞は「各国の報道関係者が待機するプレスセンターで
も、植田総裁が発言するたびにどよめきが起き、これまでの日銀
総裁とは違うという印象を与えたようだ」と伝えた。日本経済新
聞は「黒田前総裁も英語には堪能であったが、植田総裁の英語は
発音も日本人特有の訛(なま)りが少なく、語彙も豊富だ」と評
価した。
植田総裁は1974年に東大理学部を卒業し、米マサチューセ
ッツ工科大(MIT)で博士号を取得。93年から東大経済学部
教授を歴任し、98年から2005年まで日銀政策委員会審議委
員を務めた。今年4月に、経済学者出身としては初めて日銀総裁
に就任した。 ──「朝鮮日報」/キム・ドンヒョン記者
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しかし、現在起きている円安傾向はいささか問題があります。
はっきりしていることは、「現在の円安はドル高ではない」とい
うことです。現在、幅広い通貨に対するドルの強さを示す「ドル
指数」が下落しているのに、依然として円安ドル高になっている
からです。
黒田前日銀総裁による異次元金融緩和で、円高修正が進んだと
いっても「1ドル=100円〜110円」のレンジに回帰してい
たのです。しかし、今や110円どころか130円になっており
120円が遠くなっています。明らかに昨今の円安は、国力の低
下によるものという見方をする専門家が多くなっています。
BISが算出する通貨の購買力を示す「実質実効為替レート」
によると、円は95年に付けたピーク比の下落率が62%、先進
国では極めて異例です。
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ピーク比下落率 最高値
アルゼンチン ▲82・5% 2001年10月
セルビア ▲78・4% 2000年11月
インドネシア ▲68・1% 1997年02月
トルコ ▲62・0% 2008年08月
日本 ▲62・0% 1995年04月
アルジェリア ▲54・8% 1994年03月
註:実質実効為替レートのピーク比下落率上位
──2023年7月3日付、日本経済新聞
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──[世界インフレと日本経済/041]
≪画像および関連情報≫
●ドル円はまだまだ急落地合い/若林栄四氏
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ドル円は、昨年の10月21日に151・95円で天井を
つけ、その後87日間下落し、今年の1月16日に127・
23円というドルの安値を記録しました。つまり、151・
95円から24・72円下落したということです。この下落
は6・18円(1単位)の4倍に相当します。
相場は下落があれば必ず戻るという原則があります。現在
の相場は139・50円程度で推移しており、これは24・
72円の半分、すなわち12・36円の上昇となり、これは
半値戻しの位置に相当します。
最近の相場は140円台を試みましたが、苦戦しており、
現在の落ち着きどころは、139・50〜60円付近と見ら
れ、これは半値戻しの位置であり、どちらかというとサポー
トではなくてレジスタンスになりつつあるんではないかなと
思います。
月足の分析からは、72度線が重要な角度となっており、
139・33円がこの線によって抑えられていました。この
72度線は急落の傾向を示しており、この傾向が続くと、1
ヶ月に約1・55円ずつ下落することになります。6月末に
は138・04円、7月末には136・49円となる見込み
です。全体的に見ればまだ急速な下落局面の中にあると解釈
できます。メディアの報道に惑わされることなく、大局的な
視点で市場状況を判断することが重要だと考えます。
https://www.gaitame.com/media/entry/2023/06/06/140905
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国際会議初デビューの植田日銀総裁