です。しかし、欧州中央銀行(ECB)は、15日に開いた理事
会で、0・25%の利上げを決めています。8会合連続の利上げ
であり、はじめてのことです。かねてからECBでは、景気後退
が深刻なレベルに陥らない限り、金融引き締めの継続を求めるタ
カ派的意見が多いのです。
米FRBパウエル議長は、今回は利上げを停止したものの、困
惑の色を隠せないでいます。それが残り2回の利上げの示唆にあ
らわれています。実は、FRBの今回の利上げ停止は、多くの人
が予測していたものの、パウエル議長が次の発言をしたことには
サプライズとされています。
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目的地に近づくにつれて利上げを緩やかにするのは理にかなっ
ている。ほぼ全ての連邦公開市場委員会(FOMC)参加者が、
さらなる利上げは必要だと考えている。年末時点の政策金利(中
央値)については、今の水準から0・25%幅の利上げが2回分
となる5・6%を見込んでいる。 ──パウエル米FRB議長
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過去10回の利上げにより、5月の消費者物価指数(CPI)
は、前年同月比の上昇率は4・0%に下がっています。これは、
2年2カ月ぶりの低水準です。この延長線上に今回の利上げ停止
があります。そうであるのに、なぜ、さらなる2回の利上げを示
唆したのでしょうか。
利上げ停止を決断しながら、23年の年末に向けてさらなる利
上げを示唆する──このチグハグな対応は、パウエル議長の困惑
を象徴しているといえます。
問題は個人消費支出(PCE)コア物価指数の、エネルギーと
食品を除いたべースで前年同月比上昇率を見ると、この半年間で
4・5%を超えていることです。パウエル議長はこれに関してさ
らなる抑制が必要であると考えているようです。
これに関連するのは、新型コロナウイルス流行時の給付金支給
や、行動制限によって積み上がった余剰貯蓄が減少していること
です。この余剰貯蓄は、サンフランシスコ連銀の試算によると、
2021年夏のピーク時点で、約2・1兆ドル(約290兆円)
あったものが、現在は5000億ドルまでに減少し、これが消費
を支える効果は、2023年10月〜12月までになくなる可能
性が高いと予測されています。
今回のFOMCの決定に関して、2人の米エコノミストのコメ
ントを以下にまとめます。
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◎クリストファー・ラブキー氏
/フォワードボンズチーフエコノミスト
FRBは利上げを見送り、さらに追加利上げはないかもしれな
いと市場は見ていた。意外だったのは、FRBのパウエル議長が
CPIの減速よりも個人消費支出(PCE)コア物価指数の高止
まりに着目してインフレは鎮静化していないと判断したこと。
(中略)7月の次回会合に向け注目したいのは、新規失業保険
申請件数。申請件数が予想以上に増えれば、雇用情勢が本格的に
鈍化していることを裏付ける。
◎ジョシュア・シャピロ氏/MFRチーフエコノミスト
金利据え置きという政策判断と、経済・政策見通し(SEP)
は1つのパッケージだった。ブラックアウト期間に入る前に、F
RB高官の多くは、今回会合での利上げを示唆。実際は利上げせ
ず、投票は全会一致だった。利上げすべきだという参加者を納得
させるため、タカ派的な姿勢を取る必要があった。そのため今後
も利上げが続くというシナリオを示した。(中略)
銀行システムについて、パウエル議長は、軽く考えているよう
に映った。私は、商業用不動産(向け融資が焦げ付く可能性)は
非常に現実的なリスクと考える。パウエル議長は、「(融資のエ
クスポージャーは)分散している」と述べるにとどめた。今後利
上げを進めるにあたり、振り返れば「利上げしすぎた」となる事
態が起こり得ると思う。
──2023年6月16日付、日本経済新聞
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一方、2023年6月15日〜16日、日銀は日銀政策決定会
合を開き、次の決定──これまで通り異次元金融緩和政策の延長
を決めています。
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長期金利の変動幅 ・・ プラスマイナス0・5%程度
短期金利 ・・ マイナス0・1%
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6月の日銀政策決定会合についての速報については読売新聞オ
ンライン速報を次に示します。
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日銀は15、16日に開いた決定会合で大規模な金融緩和策を
継続することを全会一致で決めた。植田氏は、経済・物価動向に
ついて、「基調的に高まっていくが、来年度以降の賃上げなどの
不確実性は高い。企業収益や、雇用動向などを丁寧に見ていきた
い」と語った。
また、日銀が前回会合で決めた過去25年の金融政策を検証す
る「多角的レビュー」について、当時の金融政策が経済に与えた
影響や、1990年代以降のグローバル化や少子高齢化がもたら
した企業や家計への影響などを分析する方針を明らかにした。植
田氏は「多様な視点を取り入れる」と語り、外部識者を招いた作
業部会や結果に対する意見公募を行う考えも示した。日銀は来月
にも専用のホームページを作り、随時、情報発信するという。
──2023年6月16日/15:55
読売新聞オンライン
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──[世界インフレと日本経済/028]
≪画像および関連情報≫
●日銀金融政策決定会合前に予想する、植田日銀はいつ
金融政策正常化に動くのか/唐鎌大輔氏
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6月15日から16日にかけて開催される日銀金融政策決
定会合については、現状維持を予想する声が大勢だ。ただ、
一方で7月以降の政策変更の可能性について、金融機関から
質問を受ける機会が増えている。
「次の一手」として有力視されるイールドカーブコントロ
ール(YCC)の修正に関し、撤廃するのか、あるいは変動
幅の拡大なのかという議論はあるが、いずれ円安抑止策とし
てYCC撤廃を活用したいであろうことを踏まえれば、当面
この枠組みが温存される可能性が高いと筆者は考えている。
※イールドカーブ・コントロール(YCC):長短金利操
作。長期金利と短期金利の誘導目標を操作し、イールドカー
ブ(利回り曲線)を適切な水準に維持すること
裏を返せば、円安相場が収束したという判断があれば、7
月にでもYCC修正は可能という見方もあるが、米連邦準備
理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)の利上げ停止が
読み切れない中、円安相場の収束を判断するのは容易ではな
い。筆者はFRBやECBの利上げ停止が確実なものとなり
利下げ可能性の議論が浮上してくるであろう10〜12月期
後半、もしくは年明け1〜3月期までYCCは温存されると
考えている。ラフなイメージとして、今年の冬まではYCC
が温存されるという見立てである。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/75600
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利上げの到達点予測は上方修正の連続だった