る「円安亡国論」花盛りであったといえます。『週刊ダイヤモン
ド』の2022年5月21日号では、次のタイトルの大特集を組
んでおり、次のリード文が書かれています。
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◎ニッポンの「国力」低下危機「円安の善と悪」
急激な円安が日本経済を激しく揺さぶっている。円が急落した
背景には、日本と米国の金利差拡大や資源高による経常収支の悪
化という構造的な要因がある。これまで円安は日本経済への恩恵
が大きいとされてきたが、足元では「悪い円安」が強く意識され
ている。円安は善なのか、悪なのか。大転換期にある「通貨」地
政学を徹底検証する。
──『週刊ダイヤモンド』/2022年5月21日号
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とにかくこの記事を読むと、日本は本当に大丈夫なのかと思え
るほど、日本にとって暗い内容です。しかし、現在はどうでしょ
うか。「悪い円安論」はほぼ完全に鳴りを潜めています。とくに
今年に入って4月以降は、ドル・円は、139円30銭〜40銭
(6月9日現在)と、依然円安は続いているにもかかわらず、誰
も何もいいません。この落差は異常です。
なぜ、「悪い円安論」が鳴りを潜めたかについては、株価が上
がったことが契機になったと考えられます。これについて、元内
閣参事官で、喜悦大学教授の高橋洋一氏は、2023年6月9日
発行の夕刊フジのコラム『「日本」の解き方』で次のように述べ
ています。
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日経新聞など国内メディアの多くは、円安による輸出増が見ら
れないことから、円安による輸入価格アップによるデメリットの
ほうが大きいと考え、悪い円安論を展開したようだ。古今東西あ
る近隣窮乏化理論に無謀にも挑んだわけだが、最近の株高を目の
当たりにすると、さすがに悪い円安論は言いにくくなったとみら
れる。株価指数を構成している企業は、円安メリットを享受しや
すい輸出関連・対外投資関連企業が多いからだ。
──高橋洋一著/『「日本」の解き方』/3266
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「近隣窮乏化理論」とは何でしょうか。
「近隣窮乏化理論」とは、英国の経済学者ジョーン・ロビンソ
ンが名づけたもので,自国の経済状態を改善するために他国の経
済状態を悪化させるような経済政策をとることをいいます。
例えば、政府が為替相場に介入し、通貨安へと誘導することに
よって、国内産業の国際競争力を強化し、輸出を増大させたとし
ます。さらに、国内経済においても国産品が競争力を持ち、その
結果、国内産業が育成され、それによって国民所得は増加し、国
内の失業は減少します。
その一方において、貿易の相手国では、通貨高による国際競争
の低下、輸入の増大と輸出の減少、雇用の減少などが次々と起こ
ります。多くの場合、相手国も対抗措置として為替介入を行い、
自国通貨を安値に誘導しようとし、さらにそれに対して相手国が
対抗措置をとる──こういった政策のことを「失業の輸出」とい
い、さらに関税引き上げ、輸入制限強化などの保護貿易政策が伴
うと、国際貿易高は漸次減少していき、やがて世界的な経済地盤
沈下を惹起することになります。
高橋洋一氏は、近隣窮乏化理論は自国通貨安が国内総生産(G
DP)増につながると主張し、GDP動向と株価には一定の相関
があるとして、次のように述べています。
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円安の最大の利益享受者は、純資産が100兆円以上もある日
本政府だ。いうまでもなく外国為替資金特別会計(外為特会)で
ある。評価益のみならず円貨換算の運用益も大きくなる。なので
円安で苦しむ企業への対策は容易なはずだが、なぜかメディアは
悪い円安論一辺倒で、日本政府が最大の利益享受者として容易に
対策財源を捻出できることを言わなかった。
悪い円安論が出るたびに、筆者の意見を含めて日本政府が円安
で最も儲けていることが、テレビやネットでしばしば流れた。筆
者の邪推だが、それを政府が嫌い、忖度したマスコミが悪い円安
論をあまり言わなくなった可能性もあるのではないか。外為特会
は、いわゆる「埋蔵金」なので、とりわけ財務省は隠したがるも
のだ。もっとも、「為替は国力であり、円安は国力低下だ」とい
う経済学的には意味不明の意見もいまだに少なくない。為替は長
い目で見れば、単に2国間の金融政策の差で決まるものであって
国力の差を表すものでない。
──高橋洋一著/『「日本」の解き方』/3266
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また、難しい言葉が出てきています。「外国為替資金特別会計
(外為特会)」とは何でしょうか。
「外国為替資金特別会計」とは、政府が外貨取引をするさいに
使われる「特別会計」の1つで、外国為替市場に介入するさいの
資金の供給源です。市場介入の決定権は財務相(財務省)が握っ
ており、その指示で日本銀行が実務を行うことになっています。
わが国の外貨準備高は、1兆2275億ドル(約162兆円/
2022年末現在)であり、円安ドル高のときは、日本政府は大
儲けができることになります。だから、「埋蔵金」といわれてい
るのです。
日本では、30年デフレなので、インフレを知らない国です。
1970年代に深刻なインフレを経験していますが、当時の日本
は、経済全体が高成長を続けていたので、国民もそれなりの生活
を維持することができたのです。したがって、今回のインフレは
ほとんどの国民にとって、はじめての体験であり、政府もインフ
レに対して効果的な対策を立てられないでいます。
──[世界インフレと日本経済/025]
≪画像および関連情報≫
●米国の行き過ぎたインフレは株にマイナス/窪田真之氏
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今日のレポートでは、2023年の日本のインフレ見通し
と、インフレ・ヘッジとしての日本株の価値について、お話
しします。最初に結論(筆者意見)です。
日本のインフレ率はやっと3・7%まで上昇(2022年
10月時点)したところですが、楽天証券経済研究所では、
2023年後半に1・6%まで低下すると予想しています。
市場のコンセンサス予想(主要エコノミストの予想平均値)
も同じです。来年後半に日本のインフレ率は1%台に低下す
ると予想されています。
インフレは国民生活にマイナスだが、企業業績・株価には
プラス。来年も3%台のインフレが続けば日本株に追い風。
ところが、来年はインフレ率低下の見通し。デフレ逆戻りな
ら消費者にプラスでも日本株にはマイナス。
以上が結論です。結論(2)を説明するために、「なぜイ
ンフレが起こるのか?」「インフレで損をするのは誰で、得
をするのは誰か?」などの論点についても解説します。
インフレは、景気や株価にプラスでしょうか、マイナスで
しょうか?一言で言えば、「適度なインフレはプラスだが、
過度なインフレはマイナス」です。今年は、世界中で深刻な
インフレが起こり、インフレが世界経済にとって重大なリス
クとして意識されています。
https://media.rakuten-sec.net/articles/-/39952?page=2
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高橋洋一氏高橋洋一氏