2023年06月09日

●「スタグフレーションにどう対応するか」(第5970号)

 6月7日の朝日新聞には、「世銀見通し/金融不安を懸念」の
記事が出ています。世界インフレとも関係があるので、お知らせ
しておきます。
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◎24年の世界成長率「最悪なら0・3%」
 世界銀行は6日、最新の世界経済見通しを発表した。先進国の
金融不安が銀行の深刻な貸し出しの縮小(信用収縮)を招けば、
2024年の世界の経済成長率は、1・3%にとどまると推計し
た。こうした危機が世界中に拡大すれば、0・3%まで縮むとい
い、世銀は「世界経済は景気後退に陥る」と警告している。
 (中略)今年、米国では中堅銀3行が相次いで経営破綻し、欧
州では金融大手クレディ・スイス・グループが救済買収された。
世銀は「更なる無秩序な破綻の可能性」も否定しない。金融の機
能不全が世界中に拡散すれば、成長率は0%台になるおそれもあ
るとした。(ワシントン=榊原謙)
            ──2023年6月7日付、朝日新聞
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 問題は、インフレがなかなか収まらないことです。とくに日本
ではインフレが進行し、もし、賃金が上がらないとすると、何が
起きるでしょうか。日本人は、インフレについては少しずつ受け
入れつつありますが、賃金が上がるとは考えていないようです。
渡辺努教授のいう「物価・賃金ノルム」です。
 そうすると、物価が上がる一方で賃金が据え置かれることにな
ります。この状況が続くと、実質賃金が低下し、収入が減少して
きます。その結果、人々は節約をせざるを得なくなるので、消費
が減少し、GDPが下がってきます。そういう状況になれば、景
気が悪化し、不況になります。ここで、少し紛らわしい次の言葉
を覚えておく必要があります。
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      @ スタグネーション  stagnation
      Aスタグフレーション stagflation
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 「スタグネーション」とは、景気悪化という意味です。これに
インフレ(inflation) が、同時に進行するということになりま
す。景気悪化とインフレが同時に進行することを「スタグフレー
ション」といいます。不況なのに、物価が上がる──とくに日本
は、賃金が上がっていないのにインフレが進行しているのです。
まだ、スタグフレーションにはなっていませんが、もしなったら
最悪の状況になります。伊藤元重氏という東京大学名誉教授は、
スタグフレーションになったときのマクロ経済政策のむずかしさ
について、近著で次のように述べています。
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 スタグフレーションに直面した時、マクロ経済政策はどのよう
なスタンスを取るのが好ましいのか。インフレーションとスタグ
ネーションという2つの動きに対応するためには、少なくとも2
つの政策を準備する必要がある。政策目標が2つあれば、政策手
段も2つ必要となるという、ティンバーゲン=マンデルのポリシ
ーミックスの考え方だ。
 マクロ経済政策ということで言えば、金融政策と財政政策の組
み合わせをどうすべきか、ということになる。景気過熱による物
価上昇という通常のインフレーションであれば、話は簡単だ。景
気過熱を抑えることがインフレを抑制することにもつながる。財
政も金融も引き締めぎみにすればよい。
 しかし、インフレと不況の組み合わせということになると、財
政政策と金融政策の方向を逆にすることが必要となる。常識的に
考えれば、インフレを抑制するために金融は引き締め気味に、そ
して不況への対応として財政は景気刺激の方向に活用するという
ことだろう。インフレを抑えるために財政を引き締め、景気を刺
激するために金融を緩和するという組み合わせは考えにくい。問
題はこうしたポリシーミックスで、どこまでスタグフレーション
に対応できるのかということだ。       ──伊藤元重著
             『世界インフレと日本経済の未来/
   超円安時代を生き抜く経済学講義』/PHPビジネス新書
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 スタグフレーションとは、景気悪化とインフレが同時に進行す
ることです。その対処策としては、不況には財政出動と金融緩和
そしてインフレには、利上げと財政引き締めという正反対の政策
をミックスで対応する必要がある──これが伊藤元重東京大学名
誉教授の考え方です。
 現在、日本は経済的に非常に特異なポジションに置かれていま
す。現在起きている世界インフレに対して、世界中の中央銀行が
利上げで対応しているのに、日本銀行は、アベノミクス時代から
の金融緩和を続けています。現在、黒田総裁は退任し、植田和男
新総裁になっていますが、それでも黒田総裁時代の金融緩和政策
は維持されています。
 そのせいか、日本のインフレ率は他国に比べると比較的穏やか
で、このところ日経平均株価も3万円台を回復し、順調のように
見えます。アベノミクスについて、伊藤元重東京大学名誉教授も
次のように述べています。
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 ここで強調しておきたいことがある。財政・金融のポリシーミ
ックスは、アベノミクスからコロナまでの7年間、金融緩和・財
政引き締めで運用されてきたということだ。この時期に金融緩和
であったことは言うまでもないが、財政は引き締め方向に推移し
たと述べてよいだろう。アベノミクスの前年の2012年には財
政赤字はGDP比で7・6%だったが、コロナ前の19年には、
3・4%まで減少している。消費税率もこの間に5%から10%
に引き上げられている。   ────伊藤元重著の前掲書より
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          ──[世界インフレと日本経済/022]

≪画像および関連情報≫
 ●スタグフレーションで日本経済の暗雲広がる
  ───────────────────────────
   日本経済は2021年の秋から、スタグフレーションに突
  入した。それまで長い間続いてきたデフレが終わり、物価が
  上昇に転じたのである。コロナ禍が始まって1年半、世界中
  でインフレが亢進するなかで、日本だけ物価が上がらなかっ
  た。日本企業は、原材料費などのコストの上昇を価格に転嫁
  せずに耐えてきたからだ。しかし、その忍耐もついに限界に
  達した。
   こうして2022年に入ると、物価はさらに上がり、メデ
  ィアも「日本もインフレになった」と言うようになった。し
  かし、これはインフレではない。なぜなら、物価が上がって
  も、それに連動して給料が上がらないからだ。給料が上がら
  ないなか、一方的に物価が上がり、貯金、現金の価値が低下
  する。これはスタグフレーションであって、経済的には最悪
  の現象である。
   過去の日本でスタグフレーションが起こったのは、原油価
  格の高騰で物価が急騰した1970年代のオイルショックの
  ときだった。このスタグフレーションによって、それまで続
  いてきた、奇跡と言われた日本の高度経済成長”が終わり
  を告げている。
   インフレには2種類がある。「良いインフレ」と「悪いイ
  ンフレ」だ。良いインフレでは、物価の上昇とともに給料も
  上がる。    https://zuuonline.com/archives/252217
  ───────────────────────────
伊藤元重東京大学名誉教授.jpg
伊藤元重東京大学名誉教授
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 世界インフレと日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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