2023年06月05日

●「インフレの犯人は企業の便乗値上げ」(第5966号)

 インフレが起きると、欧米の企業はためらいなく製品や商品に
価格転嫁するといいます。トルコのエコノミスト、エミン・ユル
マズ氏にいわせると、平気でインフレ率以上の価格転嫁をして利
益を増やしているそうです。
 日本経済新聞の米駐在コメンテーターである西村博之氏による
と、現在米国市内では「SALE」を行う店舗が拡大し、値下げ
競争が起きています。こういう状況を踏まえて西村博之氏は、6
月1日付、日本経済新聞の「ディープ・インサイト」で、次のよ
うに書いています。
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 この動きが気になった理由は2つある。第1に、値引きの広が
りはインフレ収束の兆しととれる。第2に、値上げが想定外に利
益を増やしたなら、逆に企業の利益拡大がインフレを生んだ可能
性もある。
 なぜなら、今のインフレの起点とされるのは、新型コロナウイ
ルス禍による供給難と需給バランスの崩れだ。果敢な財政支援も
拍車をかけた。ロシアのウクライナ侵攻による資源高、人手不足
による賃金上昇を価格転嫁する動きも指摘される。そこに「企業
の利益拡大→インフレ」というメカニズムは登場しない。
          ──2023年6月1日付、日本経済新聞
     「ディープ・インサイト/インフレに新犯人か」より
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 このレポートのなかで西村博之氏が取り上げているのは、米カ
ンザスシティ連銀の研究者らが記述した『空前の企業利益は最近
のインフレにどれほど貢献したか』という論文です。この論文に
ついて、西村氏は次のようにコメントしています。
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 インフレは企業からみれば値上げだ。その裏ではコストか利潤
もしくは両方が増えている。経営者らは、「コスト高で値上げす
る」と説明するから利潤も減ったと思いがちだが、値上げ幅がコ
スト増を上回れば利潤は増し、それ自体がインフレを促す。これ
がまさに起きたと研究者らは指摘した。
 コロナ禍に先立つ10年間、米公開企業の利幅(売上高と費用
の差)は、年平均0・4%増とほぼ横ばいだったが、2021年
は3・4%に跳ねた。物価全体の動きを示す個人消費支出(PC
E)物価指数の伸びの6割近い。企業の利幅拡大はインフレに寄
与したどころか「主因だった」との結論だ。
          ──2023年6月1日付、日本経済新聞
     「ディープ・インサイト/インフレに新犯人か」より
─────────────────────────────
 要するに、インフレの主犯はコロナ禍による供給制約という現
象を逆手に取って、企業が必要以上に値上げすることであるとい
うのです。このことを「excuseflation/言い訳フレーション」
というそうです。
 赤城乳業という企業があります。「ガリガリ君」というアイス
キャンデーの発売元です。2016年に赤城乳業はガリガリ君を
値上げしましたが、同社の社長や社員が揃って顧客に謝罪するテ
レビCMを流して話題になりました。そのときのCMの動画があ
ります。時間は3分間です。
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  ◎ガリガリ君/値上げに謝罪/CM
   https://www.youtube.com/watch?v=xpltiHWtvXA
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 これはきわめて異様なCMです。もちろん狙いは、ジョークで
あって、このユーチューブ動画は、200万回を上回る回数が再
生され、かえって売り上げは増加したそうです。しかし、これは
欧米から見ると、異様に映ったようです。なぜなら、アイスキャ
ンデー原材料費が上がっているのに、なぜ、それを価格に上乗せ
するのが悪いのか、欧米では理解できないのです。
 そういうわけで、2016年5月19日付のニューヨーク・タ
イムズ紙はこの問題を取り上げたのです。これについては、添付
ファイルをご覧ください。このニューヨーク・タイムズ紙の記事
についてのコメントです。
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 「景気低迷によって、日本ではここ20年間、殆どの商品の価
格が上昇していない。多くの値上げはヘッドライン(重大ニュー
ス)になる」と、日本における物価状況を説明した。
 デフレ脱却のために、アベノミクスは、2%の物価上昇率の達
成を目標とした。しかし、消費者物価指数は、2016年3月は
前年同期比でマイナス0・1%とゼロを割り込み、目標とは開き
がある。記事はガリガリ君の値上げは「活気に満ちた経済や強力
な消費活動を反映するものではない」と分析。「企業は、コスト
高による減益に直面している。デフレ傾向が依然として続いてい
る。また、コスト高に直面する企業は賃金を上げないため、ほと
んどの日本人の購買力は一世代前と比べて減少している」と述べ
た。               https://onl.sc/jrHDuZD
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 このニューヨーク・タイムズ紙の記事は、値上げを嫌い、価格
を据え置こうとする日本のソーシャル・ノルムが、欧米では、き
わめて異様に映ることを表しています。
 この日本のノルムは、今から考えると、1997年の山一證券
の破綻をはじめとする多くの金融機関が次々と経営難に陥ったと
き以来のものであるといえます。このすさまじい経験によって、
人々は生活を切り詰めるようになり、それを反映して企業も値上
げを控えるようになったといえます。
 それ以来26年間、日本では、ずっとデフレの状態が続いてい
ます。つまり、経営者は守りの姿勢に入り、賃金が上がらなくな
り、それで当たり前であるという感覚に陥っています。しかし、
今回の世界インフレは、日本が変化する機会になる可能性があり
ます。       ──[世界インフレと日本経済/018]

≪画像および関連情報≫
 ●世界の中で日本だけ賃金も物価も上がらない理由
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   スーパーで値札の脇の文字に目がとまった。「この商品は
  9月×日にメーカーが値上げします」。保存が効くものだか
  ら、と思わず2つとってカゴに入れた。値上げ、値上げ、値
  上げ──。
   エネルギー価格の高騰に円安があいまって原材料コストが
  上昇し、食品をはじめとして値上げが広がっている。日本は
  長年、インフレ率(消費者物価指数の前年同月比)がプラス
  マイナス1%程度の間で推移してきたが、2022年4月か
  ら2%台が続いている。
   物価が上がっても賃金が上がらなければ、「安いうちに買
  う」では済まなくなる。日本は賃金も長らく停滞してきた。
  物価が上がれば賃金も上がる、とは到底楽観できない。では
  日本だけがなぜ、賃金も物価も上がらない状態が続いてきた
  のだろうか。
  https://toyokeizai.net/articles/-/616244
  ───────────────────────────
ガリガリ君値上げ謝罪/ニューヨーク・タイムズ.jpg
ガリガリ君値上げ謝罪/ニューヨーク・タイムズ
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 世界インフレと日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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