2023年05月30日

●「コロナ後遺症で職場に戻らぬ労働者」(第5962号)

 2000年代に入って、IT技術の発達にしたがい、モノ産業
からサービス産業へのシフトが進んでいます。これによって、モ
ノ産業は少しずつ需要が減少し、生産に必要な労働と機械設備な
どの資本が減っていきます。とくに労働の面では、サービス産業
に就職する新卒が増加し、モノ産業で働いていた労働者がサービ
ス産業に転職する現象が起きています。「デューダ(doda)」、
「ビズリーチ」のCMで代表される今や一大転職の時代でもある
のです。大手企業も暦年一括採用から、中途入社をメインにしつ
つあります。
 また、サービス産業に変化する製造業もあります。例えば、タ
イヤを生産して売るメーカーが、IоT技術を使って、安全を売
るサービス業に変身するケースもあります。顧客は、タイヤ自体
を求めているのではなく、「安全に快適に車で走行する」ことを
求めているので、それに対応する動きです。
 モノ産業からサービス産業へ──コロナ禍になる前は、そのた
めの労働と資本の産業間の移動が、長い時間をかけてゆっくりと
進行していたのです。そういう状況において、パンデミックが世
界を突然襲い、需要の逆シフトが起きます。いや、そうせざるを
得ない状況に陥ったのです。
 しかし、急にモノ産業の需要が増えても、モノ産業では、労働
者や資本は既に減少してきており、急増した需要に対応できなく
なります。これにより、需要が供給を上回る事態が生じ、当然モ
ノの価格は上昇し、インフレになります。
 グーグルがスマホの位置情報を分析したデータによると、米国
では、パンデミック後は「職場」にある台数が19%減少してい
るそうです。同様のことが英国でもカナダでも起きています。と
くにカナダでは職場でのスマホが25%も減少しています。これ
は、労働者がWFH(Work From Home/在宅勤務)をせざるを
得なくなったからと考えられます。
 しかし、パンデミックの期間はせいぜい2〜3年のことであり
とくに欧米では経済復興が早かったので、2年くらいの間であっ
て、労働者の行動変容は元に戻るはずです。まして今回のパンデ
ミックは、100年前に起きたスペイン風邪のときと事情が大き
く異なります。スペイン風邪の死者は世界人口の2%に達してい
るのに対し、新型コロナウイルスの死者は、2020年5月の時
点で、世界人口の0・005%でしかないのです。しかも、死者
は高齢者が中心で、働き盛りの世代が犠牲になったスペイン風邪
のときと比較になりません。
 しかし、労働者は容易には職場に戻っていないし、そのまま離
職してしまうケースも多くなっています。このまま事態が進むと
「大離職/Great Resignation」 にならざるを得なくなります。
 それにしても、コロナ禍が、なぜこのような大変化になってし
まったのでしょうか。
 それは、労働者(消費者)の行動変容が、「突然」起こり、ど
この国も、サービスからモノへ「同期」して起きたからです。こ
のように、労働者が行動変容させると、消費者としての行動変容
に波及します。渡辺努東京大学大学院教授は、これについて自著
で次のように述べています。
─────────────────────────────
 理由が何であれ、労働者がオフィスや工場に行かなくなれば、
たとえば、昼食を職場近くのレストランでとるということもなく
なり、自宅近くのスーパーで食材を買って家で調理する機会が増
えることでしょう。そうなれば、サービスからモノへの需要のシ
フトに拍車がかかることになります。このように、労働者の行動
変容と消費者の行動変容は密接に関連していると見るべきです。
          ──渡辺努著/講談社現代新書/2679
                   『世界インフレの謎』
─────────────────────────────
 新型コロナウイルスにかかった人と、かからなかった人のコロ
ナに対する考え方の差は大きいといわれます。なぜなら、コロナ
罹患者にはかなりの割合で後遺症が残るからです。こういう後遺
症に苦しんでいる人のことを「ロングCOVID」というそうで
すが、こういうことは感染拡大中の防御の姿勢──例えば、ソー
シャルディスタンスの姿勢を今も崩さないのです。
 シカゴ大学のWFH(在宅勤務)研究チームは、「パンデミッ
クが収束したら、あなたのソーシャルディスタンスはどうなりま
すか」というアンケート調査を行っていますが、その結果は次の
ようになっています。
─────────────────────────────
   @コロナ前に戻る       ・・ 41・3%
   Aほとんどコロナ前に戻る   ・・ 30・0%
   B部分的にコロナ前に戻る   ・・ 16・0%
   Cコロナ前には決して戻らない ・・ 12・7%
         ──渡辺努著/講談社現代新書の前掲書より
─────────────────────────────
 シカゴ大学のPTは、Cの「コロナ前には決して戻らない」と
回答した人の内訳についてさらに調査したところ、次のような結
果になったのです。
─────────────────────────────
    就業者 ・・・・・・・・・・・ 10・4%
    失業中(職探し) ・・・・・・ 17・7%
    失業中(復職待ち) ・・・・・ 17・8%
    就職も職探しもしていない ・・ 23・0%
         ──渡辺努著/講談社現代新書の前掲書より
─────────────────────────────
 これによると、「コロナ前には決して戻らない」と回答した人
の4分の1は就業していないし、職探しもしていないのです。つ
まり、非労働力人口なのです。こういう人たちの存在が供給不足
に拍車をかけており、インフレを誘発させているのです。
          ──[世界インフレと日本経済/014]

≪画像および関連情報≫
 ●労働者に起こった見えない変化、コロナが収束しても
  昔の職場には戻らない理由/加谷珪一氏
  ───────────────────────────
   内閣府が、2023年1月5日に発表した昨年(2022
  年)12月の消費動向調査によると、消費者心理を示す消費
  者態度指数は前月比1・7ポイントと、4カ月ぶりの上昇と
  なった。年末年始は行動制限がなかったことから、各地は多
  くの人手で賑わい、道路も混雑している様子だった。
   昨年の年末からは、都内を中心にタクシーがつかまりにく
  い状況が続いている。タクシーの実車動向は、街角で景気を
  見定める有力指標とも言われており、一部の人はこうした状
  況から景気は上向きつつあると判断している。
   諸外国がコロナ後に向けて動き始めたこともあり、日本に
  おいても消費者心理が改善しているのは間違いないだろう。
  しかしながら、タクシーがつかまりにくいことや混雑の背後
  には、なかなか人材が獲得できないという供給制限要因があ
  ることを忘れてはならない。日本はもともと人手不足が深刻
  だったが、今回のコロナ危機をきっかけに、人手不足はより
  本質的な問題に進化した可能性があり、今後の経済動向に大
  きな影響を与えることになるかもしれない。このところ顕著
  となっているタクシーのつかまりにくさというのは、実は景
  気が拡大していることが最大の要因ではない。タクシーの供
  給台数が大幅に減少しており、供給が制限されている要因が
  大きい。  https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/73617
  ───────────────────────────
在宅勤務(WFH)の拡大.jpg
在宅勤務(WFH)の拡大
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 世界インフレと日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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