景を10年前に見たような気がします。安倍晋三政権による20
12年〜13年の株高です。このときは、大型ヘッジファンドを
先頭に、円売り・株買いを組み合わせて一斉に買い上がっていっ
ていましたが、今回海外勢は「買い忘れた日本株」の視線であり
全員買いではないといわれます。国内投資家に評価が広がってい
ないのです。
しかし、著名な投資家のウォーレン・バフェット氏の日本株の
積極買いが、海外勢の日本株買いに寄与したことは事実です。バ
フェット氏は、それまで大量に保有していたTSMC株をすべて
手放して日本株を買っているといわれます。そのさい、バフェッ
ト氏は、次のようにいったそうです。これはまさに日本にとって
チャンスであるといえます。
─────────────────────────────
日本は地政学的に有利なポジションを占めている
──ウォーレン・バフェット氏
─────────────────────────────
確かに、現在日本では、半導体の本格的ファウンドリを目指す
株式会社ラピダスの新設をはじめ、熊本へTSMCの新工場を誘
致するなど、今までにない動きが起きています。バフェット氏は
今後の経済安全保障の観点から、日本は有利なポジションを占め
ていると判断しているといわれます。
さて、世界インフレに話しを戻します。インフレには、その原
因から考えて、次の2つがあります。
─────────────────────────────
@需要要因によるインフレ
A供給要因によるインフレ
─────────────────────────────
まず、「需要要因によるインフレ」とは何でしょうか。
このインフレは、経済全体の需要が供給を大きく上まわること
によって起きます。このインフレについては、原因が需要の過剰
によって起きるので、中央銀行が利上げをして、需要を弱めれば
インフレを抑えることができます。利上げをすれば、企業や家計
が銀行から借り入れをするさいの利払いが増加するので、企業が
工場を建設したり、機械を買い入れたり、家計が住宅を建てる活
動が抑制され、その結果として、インフレが収まるのです。
次に、「供給要因によるインフレ」とは何でしょうか。
このインフレは、文字通り供給が不足することによって起きる
ものですが、中央銀行による処方箋がないのです。極端にいうと
供給不足を原因とするインフレに対しては、中央銀行は無力であ
るといえます。しかし、何もしないわけにはいかないので、この
インフレに対しても、利上げによって需要要因を抑えることで対
応しつつあります。しかし、何度利上げを繰り返しても、今回の
インフレは収まっていません。
ところで、供給不足というとき、本当に供給が足りない場合と
供給はそれなりにあるのに需要が強すぎる場合とがあります。後
者は利上げで対応できますが、前者の場合の対応は中央銀行とし
ては打つ手がないのです。
これについて、渡辺努東京大学大学院教授は、自著で次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
供給が足りないことが原因のインフレに利上げで対処しょうと
すると、どんなことが起こるでしょうか。利上げをすれば住宅な
どに対する需要が減少します。この利上げりを繰り返し行えば、
少なすぎる供給とちょうど見合うところまで需要を落とすことが
でき、それによって需要と供給のアンバランスを解消できます。
つまり、米欧の中央銀行は、「少ない供給」という根本的な問
題はいったん棚上げにして、それと平仄(ひょうそく)がとれる
ように、利上げにより「少ない需要」へと誘導しようとしている
のです。「少ない供給」への対処が「少ない需要」というのは一
見もっともらしいですが、よく考えるとこれは縮小均衡に向かう
ということにほかならず、決して歓迎できる話ではありません。
──渡辺努著/講談社現代新書/2679
『世界インフレの謎』
─────────────────────────────
現在、世界で起きているインフレは、これから述べていくよう
に、供給不足が原因で起きています。このインフレに対して、中
央銀行は無力であることについて、渡辺教授は世界の中央銀行関
係者の意見を次のように紹介しています。
─────────────────────────────
◎BIS(国際決済銀行)アグスティン・カーステンス総支配人
中央銀行のエコノミストは、需要サイドについては知見の蓄
積が豊富だ。しかし、供給サイドについては知見の蓄積がなく
いまだにブラックボックスのままである。
◎米国FRBジェローム・パウエル議長
現在起こっているのは、経済の供給サイドの崩壊だが、フィ
リップス曲線に大きく依拠する現代の経済モデルは供給サイド
が欠落している。
◎IMF(国際通貨基金)ギータ・ゴビナート局長
経済モデルの供給サイドの改善が急務である。
──渡辺努著/講談社現代新書の前掲書より
─────────────────────────────
いずれにせよ、現在起きている世界インフレは、「供給要因に
よるインフレ」であり、中央銀行としてその対処が非常に難しい
インフレです。したがって、まだ収束されていません。
原因は、新型コロナウイルスに起因する人々の行動変容にある
ことは確かですが、具体的にどのような変化が起きているのかに
ついて探る必要があります。これについては、来週のEJでさら
に掘り下げることにします。
──[世界インフレと日本経済/012]
≪画像および関連情報≫
●日本では物価もインフレもさほど重要ではない
/小幡績慶應義塾大学教授
───────────────────────────
物価が熱い。
2年前、いったい誰が「インフレが最大の経済政策上の関
心事になる」と予想したであろうか。しかし、いまやアメリ
カは40年ぶりのインフレ率であり、欧州も同様だ。一方、
世界中で日本だけは、なぜか他国に比べて消費者物価が上が
らない。インフレ、物価、これらには謎がいっぱいだ。物価
とは、いったいどうなっているのか。
これを解明する「世界で唯一の本」が近頃出版された。渡
辺努東京大学教授の『物価とは何か』(講談社選書メチエ)
である。渡辺教授は、私が最も尊敬する経済学者の1人であ
り、物価の理論家としては間違いなく現在世界一である。こ
のコラムでも「なぜ日銀は無謀なインフレ政策をとるのか」
や「日本でも今後『ひどいインフレ』がやって来るのか」で
言及した。何よりも、理論と実証という経済学の研究者とい
うだけでなく、物価と格闘する人類最高の知性であり、現実
と正面から向き合っているのである。
その彼が、真正面からぶつかった本が『物価とは何か』で
ある。しかも、学者向けではなく一般の読者へ向けなのだ。
物価と向き合うのは、経営者、消費者である。学者ではない
人々であり、物価を決めるのも彼らであるから、その彼らに
学問における物価の理解を知ってもらう必要があると彼は考
えた。そして、物価の現場の彼らに理論をぶつけ、挑戦した
本なのである。今回は、学者としてではなく、一般の消費者
として、渡辺努教授に挑みたいと思う。
https://toyokeizai.net/articles/-/512971
───────────────────────────
ウォーレン・バフェット氏


