2023年05月23日

●「日本経済は本当に回復するのか」(第5957号)

 5月17日のことです。日経平均株価が3万円台を回復し、2
021年9月28日以来の高水準となっています。しかも、株価
は7日間連続で、前日の終値を上回っての3万円台回復です。
─────────────────────────────
◎過去7日間の騰落(5月11日〜19日)
 11日 12日 15日 16日 17日 18日 19 日
   ○   ○   ○   ○   ○   ○    ○
─────────────────────────────
 欧米のインフレが収まらず、とくに米国の景気後退の懸念があ
るなかでの3万円台回復は、米国がくしゃみをすると日本が風邪
を引くといわれた今までとは違う何かを感じさせます。
 なぜ、3万円台を回復できたかというと、企業の好業績や資本
効率の改善期待に加え、ドル建てでみた日本株の値ごろ感などか
ら海外投資家の買いが集まったからであるといわれます。
 2023年5月20付の日本経済新聞には、日本のバブル期で
ある1990年8月と、33年後の2023年5月と比較した次
の数値が掲載されています。
─────────────────────────────
        1990年8月    2023年5月
   時価総額   416兆円      773兆円
  名目GDP   468兆円      570兆円
    ROE   7・70%      8・55%
    PBR   3・20倍      1・28倍
  予想PER  39・09倍     14・40倍
   ドル/円 144円50銭    137円50銭
      ──2023年5月20付の日本経済新聞(朝刊)
─────────────────────────────
 詳しい説明は避けますが、ここにきて日本企業がいい意味にお
いて変わってきているのです。カバナンスの改革が進み、経営効
率を示す自己資本利益率(ROE)が10%に届くレベルにきて
いることや、株主還元や政策保有株の売却による低PBR(株価
純資産倍率)などの指標の改善があり、改革が進むという期待感
が出てきています。そして、何より、日本株を評価する米著名投
資家、ウォーレン・バフェット氏の日本株に対する強気姿勢が、
今回の3万円台回復をもたらしたといえます。
 この話はさておき、昨日のEJの続きです。渡辺努東京大学大
学院教授は「フィリップス曲線が役に立っていない」ことを指摘
していますが、同じことをニッセイ基礎研究所の経済研究部主任
研究員の米山武士氏がネットで発表しています。
─────────────────────────────
             「世界のインフレはどうなるのか」
    米山武士氏/ニッセイ基礎研究所経済研究部主任研究員
                  https://bit.ly/3Wl5JSJ
─────────────────────────────
 なお、昨日のEJでご紹介した「米国のフィリップス曲線」が
米山武士氏の論文にも掲載されています。こちらの方がカラーで
もあるし、分かりやすいと思われるので、添付ファイルにしてあ
ります。データとしては同じものです。
 しかし、米山武士氏は、コロナ禍後の景気回復時期におけるフ
ィリップス曲線の異常について、多くの中央銀行はあくまで、そ
れを「一時的傾向」とする一方で、労働者の価値観の変化が起き
ているとする渡辺教授の主張の可能性もあるとして、次のように
述べています。
─────────────────────────────
 中銀は、浅く短い景気後退を経験するものの、現在の失業率と
インフレ率のトレードオフは「一時的」だと考えていると思われ
る(米FRBの12月時点の見通し中央値は、約2年かけてコロ
ナ禍前と同じ傾向線上に戻ると見ている、青色の◆点)。市場は
年末年始にはより早期のインフレ圧力低下を予想していた。
 ただし、労働者の価値観が変わり、失業率(景気)と物価のト
レードオフがコロナ禍以降に変化した可能性もある。景気が底堅
い状況では物価が(2%目標まで)低下しない、あるいはインフ
レ抑制を実現しようとすれば、深い景気後退(高い失業率)を余
儀なくされる、といったことも考えられる。リスクシナリオとし
てこうした状況も視野に入れておく必要がある。
     ──米山武士氏/ニッセイ基礎研究所の前掲論文より
─────────────────────────────
 なお、米山武士氏は、上記の論文において、「インフレを取り
巻く環境」として、次の3つの要因を上げています。
─────────────────────────────
            @ 需要要因
            A 供給要因
            B構造的要因
─────────────────────────────
 第1は「需要要因」です。
 「需要要因」のキーワードとしては「巣ごもり消費」と、積極
財政により増加した家計の「過剰貯蓄」の2つを上げていますが
これらは時間とともに解消していくとしています。
 第2は「供給要因」です。
 「供給要因」のキーワードには「供給制約」と「人手不足」が
あります。社会活動が制限されたので、モノの生産・輸送・保管
能力が需要に追い付かなくなり、「供給制約」が起きています。
そして「労働者不足」も深刻化しています。人手不足のなかには
職場に戻ってこない永続的なものもあるので、これは、中長期に
及ぶ可能性もあります。人手不足で賃金上昇圧力が高まれば、イ
ンフレは持続的になります。
 第3は「構造的要因」です。
 「構造的要因」のキーワードとして、ロシアのウクライナ侵攻
は「経済安全保障」の観点から、供給網を見直す大きな契機にな
るとしています。  ──[世界インフレと日本経済/009]

≪画像および関連情報≫
 ●「5月に売れ」に逆行、日経平均3万円台回復の理由
  ───────────────────────────
   株式市場には、「Sell in May and go away (5月に売り
  逃げろ)」「こいのぼりの季節が過ぎたら株は売り」という
  格言がある。株価は夏から秋にかけて下がりやすいので、夏
  前に保有株を利益確定しておくのがよいというものだ。決算
  期を迎えるヘッジファンドが多い、夏休みシーズンに入る前
  に投資家がポジション整理に入るなど、これには様々な説が
  ある。季節的に下がりやすい地合いを迎えるということだろ
  う。だが23年はそれが当てはまらないようだ。
   5月18日の東京株式市場では、日経平均株価が終値で前
  日比480円高の3万0573円と、17日に続き2日連続
  で1年8カ月ぶりの3万円台となった。22年末比では17
  %高と米欧の主要指数の伸びを上回る。日経平均に採用され
  ている主要銘柄だけではない。16日には東証株価指数(T
  OPIX)も33年ぶりの高値をつけている。
                  https://bit.ly/3WtaaLp
  ───────────────────────────
米国のフィリップス曲線/2.jpg
米国のフィリップス曲線/2
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 世界インフレと日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。