ミックなのでしょうか。もし、そうであるならば、昨日のEJで
述べたように、生産を支える「資本」「労働」「技術」の3要素
は、パンデミックによって何ら棄損されておらず、パンデミック
が収束されれば、経済活動は元に戻るはずです。インフレも当然
収まるはずです。
しかし、パンデミックは、世界中でほとんどの制限が解除され
収束しつつありますが、インフレの方は収まっているとは思えな
い状況にあります。米FRBは、依然として利上げを続けている
状況です。その原点は何でしょうか。
この現況について、『世界インフレの謎』の著者、渡辺努東京
大学大学院教授と、編集担当の青山游氏との対談の一部をご覧く
ださい。対談は2022年10月20日に行われています。
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青山:素人には、「パンデミックでインフレ」というのはイメー
ジしがたいところがあります。
渡辺:パンデミック自体は抑えられてそろそろ終わりつつある。
経済活動への影響も、日本ではまだ少し残っていますが、海外
ではほとんどないに等しく見えます。そんな中で、なんでパン
デミックの影響が出てくるんだ、というね。
青山:そこが“謎”ですよね。
渡辺:パンデミックには、ある種の後遺症があるのだろうと私た
ちは考えています。後遺症は時間をおいても出てくるし、これ
から完全にパンデミックが終わっても続く可能性がある。その
後遺症が、「行動変容」なんです。
青山:「行動変容」は本書のキーワードになっていますが、具体
的に教えてください。
渡辺:一つには、私たちは労働者ですけれども、工場やオフィス
に出かけていって働くということがかなり減りました。在宅勤
務に慣れてきた中で、もうオフィスに戻りたくないと考えてい
る方が多い。アメリカでもヨーロッパでも非常に色濃く残って
いますが、今後も残るだろうと。もう一つは、私たち消費者の
問題です。その消費の仕方もパンデミックの期間に大きく変化
して、それがなかなか元に戻らない。ひと言で言えば、サービ
スを買う消費ではなく物を買う形での消費に切り替わって、そ
れが元に戻っていない。サービスより物のほうに需要が集中し
てしまっています。そうすると物の価格が上がる。そこから、
インフレが起こるのです。
新型コロナウイルスが怖いので、それを避けるために少しだ
け自分の行動をアジャストする。それは少しなんだけれども、
みんなが同じ「少し」をやるので、結果的にものすごく大きな
ムーブメントになってしまい、社会経済を突然悪くしたり、良
くしたりという大きな振り幅を生んでいるんだということをこ
の本で伝えられたらと思っています。https://bit.ly/434cQky
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渡辺教授のいう「行動変容」とは何でしょうか。
それは、ウイルスとの戦いにおいて、世界中の人々が、同じ行
動をとってきたことと関係があると渡辺教授はいいます。その典
型が「ステイホーム」です。
新型コロナウイルスの蔓延を防ぐために、各国のトップが主導
して、「ステイホーム」を呼び掛けています。それぞれの国民の
ほとんどがウイルスと戦うためにそれに従っています。世界中の
誰もが同じ行動をとったということで、これを「同期」と呼んで
います。この状態が2年間続いたのです。
渡辺教授は、この「同期」という現象が、経済再開の局面にお
いて、労働者や消費者に見られる「行動変容」を生んだといって
います。そして、その労働者や消費者の行動変容について、自著
で次のように述べています。
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通常、人々の経済行動は同期しません。たとえば、誰かがレス
トランに行かなくなったとすれば、その分レストランには空席が
できます。もしかすると、店員の接客が丁寧になるかもしれませ
ん。そうなれば、誰か別の人がそのレストランに行ってみようか
と考えるでしょう。このように、通常であれば、「捨てる神あれ
ば拾う神」で、誰かが何かの行動をとれば、それとは真逆の行動
を別の誰かがとることになります。こうしたメカニズムによって
経済は全体としては安定が確保されるのです。
株式の売買などでも同じことが言えます。この銘柄は先が暗い
と思った誰かは売るでしょうが、別の誰かは今こそ買いだと考え
ます。その二人が出会うことで取引が成立します。そのようにし
て、意見の違う多様な人たちが株式の売買に参加することで、市
場の安定が保たれます。もし、すべての人がその銘柄は売りだと
考え、個々人の売りが完全に「同期」すれば大暴落が起こってし
まいます。 ──渡辺努著/講談社現代新書/2679
『世界インフレの謎』
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コロナ禍前と後で大きく変わったことがあります。それは、タ
クシーが捕まらなくなったことです。昼の東京都内などでは、ま
だ流しは捕まりますが、私の家の最寄り駅──私鉄で急行も停ま
る比較的大きな駅ですが、コロナ禍後は、駅で待機しているタク
シーは一台もありません。待っていても来ません。タクシー運転
手の不足によるものだそうです。もともと減少傾向だったのです
が、コロナ禍後、さらに大幅に減少したということです。
現在起きているインフレは、経済全体の「需要」が「供給」を
大きく上回っているという不均衡によるものということがいえま
す。パンデミックを境に世界経済は、低インフレ下の需要不足か
ら、供給不足というまったくの逆モードになってしまっているの
です。こういうインフレ対して、中央銀行は無力です。来週から
は、この問題をさらに詳しく分析します。
──[世界インフレと日本経済/007]
≪画像および関連情報≫
●世界中でインフレが起きている5つの理由/扶桑社
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各国がロシアからの資源輸入の禁止になかなか踏み切れな
いのは、そもそも各国がロシアの資源を必要としているから
ですが、もう一つの大きな理由としては各国の強いインフレ
圧力が挙げられます。たとえばユーロ圏は2022年3月と
その1年前とを比べると既に7・4%の物価上昇が起こって
います。1年前に100ユーロで買えたものが、現在は10
7・4ユーロでないと買えない状況です。
このような状況でロシアに対して資源輸出を禁じると、さ
らに資源価格が高騰し、より強いインフレ圧力が発生してし
まいます。ゆえに各国はロシアに対して制裁を科したいもの
の、資源関連に関してはどうしても思い切った措置をとるこ
とができずにいます。
前述の通り、今年に入ってからカザフスタン、スリランカ
トルコ、ペルーなどでは資源価格の高騰を通じた物価の上昇
が要因のデモが発生しています。日本のインフレ圧力は海外
と比べて相対的に低く抑えられていますが、特に輸入品の値
上げなどは既に現実となりつつあります。そもそも、なぜ今
これほどまでに、世界中でインフレ圧力が高まっているので
しょうか? https://bit.ly/3pRpTrh
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「ステイホーム」