2023年05月17日

●「FRBの方針転換とSVB破綻」(第5953号)

 欧米を中心とする世界インフレ──その初期の段階でパウエル
FRB議長は、2つのミスを冒したことを自ら認めています。そ
のミスとは次の2つです。
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    @インフレは一過性のものであると認識したこと
    A利上げをするタイミングが約4カ月遅れたこと
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 インフレの兆候は、2021年6月頃から顕著になっていたと
いえます。そのとき、FRBは、2020年からのコロナ禍に備
えて、量的緩和政策を続けていたのです。物価は6月には2・6
%を超え、9月には3・1%を超えていましたが、パウエル議長
は、2021年7月の議会証言において、「足元のインフレは一
過性のものである」という見解を示し、金融緩和政策を継続して
います。これが第1のミスです。
 しかし、2021年の暮れになって、パウエル議長は、「一過
性」の判断を撤回し、本格的インフレを認めています。そのとき
のパウエル議長の議会証言について、ロイター通信は、次のよう
に報道しています。
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 現在確認されているインフレの高まりがおおむね新型コロナの
パンデミック(世界的大流行)や経済活動の再開に起因すると見
られる需給の不均衡と関連しているとしつつも、「物価上昇がよ
り広範囲に拡大し、インフレ高進リスクが高まった」という見解
を示した。
 さらに、インフレの高まりが「一過性」という表現について、
現在の高水準にあるインフレ率を説明する上でもはや正確でない
とし、「一過性という文言の使用をやめる適切な時期の可能性が
ある」と述べた。
 堅調な経済動向に加え、高インフレが来年半ばまで続くという
見通しを踏まえ、次回のFOMCで、量的緩和の縮小(テーパリ
ング)ペース加速を巡り討議する公算が大きいとと述べた。パウ
エル議長は「現時点で経済は極めて堅調に推移し、インフレ圧力
も高まっており、11月会合で発表したテーパリングの完了時期
を数カ月早める可能性を検討することが適切」という考えを示し
た。      ──2022年12月1日/──ロイター通信
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 しかし、パウエル議長が初めて政策金利を0・25%引き上げ
たのは、2022年3月になってからであり、利上げをするタイ
ミングが遅れたのです。これが、これが第2のミスです。
 問題は、その間にシリコンバレーバンク(SVB)に何が起き
ていたのかです。
 コロナ禍が始まる前の2019年末のSVBの預金量は、利息
の付かない決済用の当座預金を含めて、約646億ドルだったの
です。ところが、2020年末にはそれが約1071億ドル、2
021年末には約1947億ドルになっていたのです。わずか2
年の間に預金量が3倍になったのです。
 なぜ、預金量が3倍に膨れ上がったのかについて、5月7日付
の「現代ビジネス」は次のように解説しています。
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 問題は、何故SVBに短期間にこれだけ大量の預金が集まった
かである。その背景にあるのがコロナによる経済活動停滞に対応
するために2020年に打ち出された総額約2兆ドル、米国GD
Pの約10%にも及ぶ過去最大規模の経済対策である。さらにこ
の経済対策と同時にFRBの資金供給能力も4兆ドル増額された
結果、経済対策の規模は総額6兆ドルにまで膨らんでいた。
                  https://bit.ly/3BsEYlD
─────────────────────────────
 600億ドル規模の銀行に3倍もの預金が集まると、そのリス
ク管理が大きく違ってきます。銀行のリスク管理は、銀行の規模
によって違ってくるからです。
 2021年末、FRBは「インフレは一過性ではない」と認め
たものの、金融緩和政策は継続されていたのです。そこでSVB
は、ほぼ0%に近い預金で集めた資金を10年物国債で運用する
ことを考えて実行してます。そのとき、10年物国債の金利は、
1・5%台であり、SVBは1・5%程度の利ザヤを稼ぐことが
可能であったからです。SVBのこの判断は、間違っていないと
いえます。
 しかし、FRBは、2022年3月に政策金利を0・25%引
き上げています。そして2月には、ロシアによるウクライナ侵攻
が始まっています。
 FRBは、2022年5月に0・5%、6月に0・75%と、
どんどん金利を引き上げていったのです。このFRBの方針転換
によって、短期金利は、2022年末には4・5%にまで引き上
げられ、それに伴い10年物国債の利回りも大幅に上昇し、20
22年10月には4%を超えるところまで上昇しています。
 国債の利回りが上昇するということは、国債の価格が下がるこ
とを意味します。SVBは、ゼロ金利下の1・5%という低い利
回り(高い価格)のときに国債を買っているので、10年物国債
の価格が下落すると、その結果、大きな含み損を抱えることにな
ります。
 しかし、国債投資によって含み損を抱えたからといって、銀行
がすぐ破綻するわけではなく、そのまま国債を保有していれば必
ず償還され、国債の額面分は戻ってくるので、含み損は致命傷に
はならないのです。
 しかし、SVBの場合、償還前に国債の売却をせざるを得ない
状況に陥ったのです。それは、急速に預金が引き出される取り付
け騒ぎが起こり、預金引き出しに備える現金の確保のために保有
国債を売却せざるを得なくなったからです。こうして含み損は、
実現損に代わり、SVBは結局は破綻してしまったのです。
          ──[世界インフレと日本経済/005]

≪画像および関連情報≫
 ●シリコンバレー銀行の経営破綻が残したトラウマと、露呈
  した“醜い現実”
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   米国で16番目に大きな銀行であるシリコンバレーバンク
  (シリコンバレー銀行、SVB)の経営破綻は、一見すると
  ありふれた金融騒動のようにも見える。ベンチャーキャピタ
  ルからの潤沢な資金をもつ顧客が数十億ドルの現金をSVB
  に預け入れるという幸運に思える状況において、SVBの経
  営幹部は誤った選択をしたのだ。
   SVBの経営陣は、金利の上昇と、インフレのリスクを見
  誤った。そこにテック分野の景気減速が加わり、SVBの財
  政状態が赤字に転じ始めた。SVBの危機的状況の噂が広ま
  ると、パニックに陥った顧客が預金を引き出した。こうして
  SVBは政府の管理下に置かれた後、すべての人の預金は全
  額が保護されたのである。
   誰も預金を失ったわけではない。それでも今回の騒動は、
  今後数カ月、あるいは数年にわたってトラウマを残すような
  出来事だった。見て見ぬふりをすることができないことが起
  きたのである。SVBの大騒動から、わたしは犯罪ドキュメ
  ンタリーのレポーターである妻が、なぜ殺人の話がそれほど
  興味深いと思うのかと尋ねられたときに語ることを思い出し
  た。妻によると、殺人事件とは人の生き方を定義するような
  それまで包み隠されていた私的な行動を明らかにするものだ
  という。事件の捜査の過程で、はたから見れば理想的な生活
  が、実は嘘と秘密が入り乱れたものだったことが露呈するの
  だ。              https://bit.ly/3VVZUv3
  ───────────────────────────
SVB本店.jpg
SVB本店
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 世界インフレと日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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