2023年05月09日

●「『チーム甘利』と日米半導体協力」(第5947号)

 「チーム甘利」というのは、雑誌『選択』の造語ではなく、実
際に存在します。「甘利」とは、甘利明自民党前幹事長のことで
す。「チーム甘利」の存在を明らかにしたのは、2022年5月
11日付の「しんぶん赤旗」です。そこには、次のように記述さ
れています。
─────────────────────────────
◎「チーム甘利」/大学ファンド私物化か
 岸田政権が成長戦略の柱と位置づける10兆円の大学ファンド
にかかわって、自民党の甘利明衆院議員・前幹事長に連なる「チ
ーム甘利」の問題が急浮上しています。2022年4月27日の
衆院文部科学委員会で調査を迫った日本共産党の宮本岳志議員に
末松信介文科相はまともに答弁できなくなり、同委理事会への報
告を求められる事態となっています。
 宮本氏が取り上げたのは、主に大学をテーマとした雑誌『文部
科学教育通信』2019年11月11日号の「国立大学は『知識
産業体』の自覚を」と題した甘利氏のインタビュー記事です。
 この中で甘利氏は、政権復帰後、政府の総合科学技術・イノベ
ーション会議(CSTI)の議員だった橋本和仁氏から、後に東
大総長となる五神(ごのかみ)真氏を「この人を東大総長にした
いと思っている」「甘利大臣の大学改革にも興味を持っている」
と紹介されたと証言。甘利氏が「あなたが総長になったら、私に
ついてきてくれますか」と聞くと、五神氏が「その節には一緒に
やります」と応じたとしています。
 五神氏は、実際に東大総長となり、「運営から経営へ」という
キャッチフレーズのもとに国立大学初の大学債(200億円)を
発行しました。こうした姿勢は「『運営から経営へ』などという
国の方針を鸚鵡(おうむ)返しに唱えることが果たして『自立』
だろうか」(駒込武氏編『「私物化」される国公立大学』)と批
判されています。         ──「しんぶん赤旗」より
                  https://bit.ly/3LMNa6z
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 これでわかったことがあります。半導体製造の新会社ラピダス
と米IBMの提携に「チーム甘利」──とりわけ、その中心メン
バーである五神真理化学研究所理事長(前東大総長)が深くかか
わっていることです。甘利前幹事長は、自民党の「半導体戦略推
進議員連盟」会長でもあります。
 IBMとしては、自社の「2ナノ技術」の売り先がないまま、
量子コンピュータの第1号機の供与先の日本に、親しいエマニュ
エル駐日大使を引っ張り出し、「チーム甘利」を通じて2ナノ技
術でラピダスとの提携と、IBM製量子コンピュータ2号機の設
置の両方を日本に売り込んだことになります。
 しかし、IBMの2ナノ技術はまだ量産化には成功しておらず
果たしてどれほどラピダスにとって役に立つのか不明です。しか
も、かつてのIBMの大口顧客であった米グローバルファウンド
リーズに訴訟を起こされており、それほど有り難い技術提携であ
るとは思えないのです。
 しかし、量子コンピュータに関しては、少なくとも日本の方が
一歩リードし、国産化が期待されているのに、肝心の理化学研究
所が中心になって、IBMの2号機の導入を決めたことは、量子
コンピュータの国産化にとってブレーキになります。さすがに、
IBMマシンは、理化学研究所ではなく、東京大学に設置される
予定になっています。これについて、『選択』5月号は次のよう
に書いています。
─────────────────────────────
 理研が量子コンピュータを短期間で開発できたのは、超伝導の
要素技術が蓄積されているからだ。希釈冷凍機、低温高周波部品
など超伝導デバイスを構成する部品は、IBMマシンにも使われ
ているが、日本が圧倒的な強みをもつ分野。その技術を、東大と
の共同研究を足掛かりに吸収したいのがIBMの本音だろう。
            ──『選択』2023年/5月号より
─────────────────────────────
 もっとも米国が最先端の半導体の製造をこの時期に日本に委託
しようとするのは、米国の経済安全保障の観点から考えても必要
なことであるといえます。2021年1月13日、世界最大のI
DM、インテルのCEOに就任したパット・ゲルシンガー氏は、
半導体をめぐる環境について、次のようにいっています。
─────────────────────────────
 半導体をめぐる環境は大きく変わりつつある。現在ファウンダ
リーの最先端の製造施設の大部分はアジアにある。このため、業
界では地政学的にもっとバランスを取ってほしいという声が増え
ている。そうした中で、インテルの製造施設は米欧に集中してお
り、ユニークなポジションにある。新しいニーズ、具体的には、
「信頼される半導体のサプライチェーンの構築」というニーズに
応えることができる。──パット・ゲルシンガーインテルCEO
─────────────────────────────
 米国は、世界の半導体出荷額の5割程度を占めていますが、そ
の製造の大部分をファウンドリ最大手の台湾のTSMCに委託し
ています。製造能力において、米国は約1割ぐらいのシェアしか
持っていないのです。そのため、台湾有事などの地政学的リスク
に備えて、同盟国内で最先端半導体の製造能力を確保したいとい
う思惑があります。
 そういう観点から見ると、米国にとって最も期待できるのは日
本なのです。日本は、2ナノの製造技術は持っていないが、半導
体の製造装置や半導体の部品や材料などのトップメーカーが多く
アジアではあるものの、同盟国にしてG7のメンバーであり、米
国としては信頼できる存在です。そういう意味において、この時
期にラピダスが誕生したといえます。ラピダスが成功するか否か
はどのようなビジネスモデルを構築して事業に取り組むかによっ
て決まるといえます。果たしてどのようなビジネスモデルで取り
組むのでしょうか。  ──[メタバースと日本経済/063]

≪画像および関連情報≫
 ●米日の半導体協力・・IBM、販売まで支援する理由とは
  ───────────────────────────
   スーパーコンピューターや人工知能(AI)などに使われ
  る次世代半導体を日本で生産するため、米国が研究と人材育
  成から販売に至る全分野で積極的に協力することにした。
   ジーナ・レモンド米商務長官と西村康稔経済産業相は5日
  (2023年)、ワシントンで会談し、半導体など経済安全
  保障分野の協力を強化することで合意した。この会談には、
  米国のIT大手のIBMと日本の大手企業8社が昨年作った
  半導体会社「Rapidus(ラピダス)」の幹部も同席した。
   両社は次世代半導体の共同研究開発だけでなく、IBM側
  がラピダスの技術者の育成と販売先の開拓などにも協力する
  ことにした。日本経済新聞は「IBMの高性能コンピュータ
  向けの半導体生産をラピダスが受託する」と報じた。先月両
  社は次世代半導体の共同開発を進める内容の協約を結んだ。
   ラピダスは新生企業であるがゆえに優秀な人材と販売先の
  確保が大きな課題に挙げられていたが、今回IBM側が協力
  を約束したことで、負担を大きく減らすことになった。西村
  経済産業相は会談後、記者団に対し、「両社の協力は日米間
  の象徴的なプロジェクトだ。力強く後押ししていきたい」と
  し、「日本が次世代半導体を早期に国産化できるよう協力を
  強化する」と述べた。
                  https://bit.ly/3HqLD3u
  ───────────────────────────
「チーム甘利」.jpg
「チーム甘利」
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | メタバースと日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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