次のニュースを伝えています。
─────────────────────────────
理化学研究所は3月27日、次世代の高速計算機、量子コンピ
ューターの国産初号機の稼働を始めインターネット上のクラウド
サービスで公開した。企業や大学に利用を促し、将来の産業応用
に向けた知見を蓄える。日本は米中が主導してきた量子コンピュ
ーターの開発競争で名乗りをあげ、巻き返しを図る。
理研は埼玉県和光市の拠点に量子コンピューターを設置した。
国内では2021年に川崎市に米IBM製の量子コンピューター
を設置した事例があるものの、国産機の稼働は初めてとなる。計
算の基本単位で性能の目安となる「量子ビット」は64で、IB
M製の27量子ビットを上回る。開発した量子コンピューターは
極低温に冷やし、電気抵抗をなくした超電導の回路で計算する技
術方式を採用する。開発には、理研のほか産業技術総合研究所、
情報通信研究機構、大阪大学、富士通、NTTが参画し、政府も
18年度以降に約25億円を投じたプロジェクトなどを通じ支援
した。 ──2023年3月27日付、日本経済新聞
https://s.nikkei.com/3ADumAh
─────────────────────────────
スーパーコンピュータ「冨岳」で、世界を制覇している日本に
とって、国産量子コンピュータの開発は世界に誇るべき大ニュー
スです。当然3月27日には、披露式典が行われていますが、な
ぜか、岸田首相は出席していないのです。当初首相は出席する予
定だったのですが、急遽取りやめになったといいます。一体何が
あったのでしょうか。
以下の情報は、『選択』2023年/5月号の記事「量子技術
も米国の『属国化』」に基づいて記述していることをあらかじめ
お断りしておきます。驚くべき内容であり、日本の関係者の個人
名も出てくるので、EJとしては個人名の表記は最小必要限度に
とどめることにします。
仕掛け人は、駐日米国大使のラーム・エマニュエル氏です。エ
マニュエル氏は元シカゴ市長で、シカゴ市といえば、シカゴ大学
と組んで、IBMの量子コンピュータを活用した社会実装の一大
拠点となっています。エマニュエル大使としては、5月19日か
らのG7広島サミットを利用し、そこへ東大を呼び込む仲介役を
自身が演ずることによって、存在感を示したい思惑があるようで
す。その伏線として、1月の岸田首相の初訪米のさいに東大総長
の藤井輝夫氏が随行を求められ、IBMとの関係強化が画策され
ています。米国の狙いは、IBMの127量子ビットの最新マシ
ンの東大への売り込みにあります。
実は、IBMの量子コンピュータは、2021年7月に川崎市
の施設に27量子ビットの実機が設置され、JSR、トヨタ自動
車、みずほフィナンシャルグループ、三菱ケミカルグループなど
17法人が活用しています。量子イノベーションイニシアチブ協
議会(QII)なる組織とIBMと提携し、実現しています。当
時の東大と理化学研究所のトップがからんでいます。
しかし、このIBMのマシンは、量子ゲート型機特有の計算エ
ラーが生ずるので、実用としては役に立たないのです。このエラ
ーの訂正機能を備えるには、1000量子ビット以上まで集積度
を高める必要があります。しかし、今回導入しようとしているマ
シンは、127量子ビットでしかないので、実用化にほど遠いと
いえます。もっともIBMは、2023年度中に、1121量子
ビットを達成し、エラー訂正機能を実現するとはいっています。
不可解なのは、このマシンの導入は既に決まっており、経済産
業省は200億円の支援資金を昨年度の補正予算に計上していま
す。手回しの良い話です。そういう状況にあるので、岸田首相は
理化学研究所と富士通が開発した日本独自の国産量子コンピュー
タの披露式典に、米国大使とIBMに忖度して出席しなかったも
のと思われます。
文科省のある幹部は、経済産業省が用意している200億円の
支援資金について、次のように非難しています。
─────────────────────────────
日米協力の名を借りた200億円の予算執行は、いわばIBM
への”賄賂”だ。国産機開発をないがしろにする五神さん(理化
学研究所理事長)の罪は重い。
──『選択』2023年/5月号より
─────────────────────────────
本当に量子コンピュータの国産化は可能なのでしょうか。これ
については、IBMの力を借りなくても十分可能性があります。
これについて、「選択」は次のように書いています。
─────────────────────────────
1999年、超電導量子デバイスの制御に世界で初めて成功し
たのは、NECの中村泰信である。現在の理研の量子コンピュー
タ研究センター長だ。IBMマシンはこの原理を基礎にしており
最新の127量子ビットの開発までに20年かかっている。比べ
て、中村ら理研の国産機スタッフは、量子コンピュータに唯一積
極的な富士通と共同開発し、わずか2年で64量子ビットに漕ぎ
つけた。理研の国産機開発の可能性は小さくない。(中略)
「背景にあるのはIBMとの最先端半導体の技術提携だろう。
五神さんは、”チーム甘利”の有力メンバーだから・・」なるほ
ど、電機・電子業界の一部ではこんな囁きが交わされる。
──『選択』2023年/5月号より
─────────────────────────────
半導体の話がなぜ量子コンピュータの話になったのかというと
ラピダスとIBMとの「ビヨンド2ナノ」の提携とこの話が深い
関係にあるからです。案外IBMとしては、日本の量子コンピュ
ータの先端技術が欲しいのではないでしょうか。超電導にかけて
は、日本は世界をリードしているからです。
──[メタバースと日本経済/062]
≪画像および関連情報≫
●日本の研究グループが世界新の成果 今さら聞けない
「超伝導」の基礎と歩み
───────────────────────────
<生活に直結する実用的な科学技術で、日本人研究者の貢
献も目立つ超伝導研究。発見されてからの100年の歴史と
応用例について概観する>
成蹊大、東大などの研究グループは、世界最高の超伝導臨
界電流密度(Jc)を持つ材料を作成したと発表しました。
マイナス269°Cで、1平方センチメートル当たり1億5
千万アンペアを達成。総合科学誌ネイチェア系の専門誌であ
る「NPG Asia Materials」に掲載されました。
超伝導(「超電導」とも記述)は、研究の発展の節目ごと
に何度もノーベル賞を受賞しており、日本人研究者の貢献も
顕著な分野です。医療用のMRI(磁気共鳴画像診断)など
で、すでに私たちの生活にも導入されている、実用的な科学
技術でもあります。
とはいえ、人類が超伝導を発見したのは20世紀になって
からです。この100年間でどんな進展があったのでしょう
か。超伝導の歴史と応用を概観しましょう。
超伝導とは、特定の金属や化合物を絶対零度(0K、マイ
ナス273・15°C)近くまで冷やしていくと、ある温度
で電気抵抗が急にゼロになる現象です。電気抵抗とは電流の
流れにくさのことです。電流が流れると、超伝導体(超伝導
が起きている物質)以外では熱が発生し、電気のエネルギー
の一部が失われます。超伝導では、電気抵抗がないため発熱
せず、エネルギーのロスが起こらないため、電流が流れ続け
ます。 https://bit.ly/3HrlUb9
───────────────────────────
エマニュエル駐日米国大使