た4つの原因を再現します。@については説明が済んでいます。
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@日米半導体協定による米国の圧力
→ A垂直統合に固執し構造改革に失敗
→ B魅力的な製品を作り出せない資質
→ C内向きで海外企業の連携が少ない
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第2の原因は「垂直統合に固執し構造改革に失敗」です。
半導体の設計・製造には莫大なコストがかかります。まして最
先端のチップの製造になると、研究開発費もかかるし、製造技術
も高度化するので、工場を保有して、半導体の設計と製造を一貫
して行う「IDM」を維持することが技術的にも、資金的にも困
難になってきます。IDMとは、次の言葉の省略形です。
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◎IDM
Integrated Device Manufacturer
自社内で回路設計から製造工場、販売までの全ての設備を持つ
垂直統合型のデバイスメーカーのこと。
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そこで、1980年代の後半になると、米国では、IDMを脱
皮し、工場を持たずにICの設計・販売に特化する企業と、受託
を受けて、ICの製造に特化する企業に分離していったのです。
この考え方は、限りある資金をその企業が得意とする分野に投入
するという意味でも、合理的な考え方であるといえます。
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@工場を持たず、ICの設計と販売に特化する企業
──→ ファブレス
A工場を有し、受託を受けてICの製造を行う企業
──→ ファウンドリ
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これは一種の構造改革ですが、この考え方を取り入れ、現在最
も成功しているのが、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)とい
う企業です。日本の半導体企業はこの動きについていけなかった
のです。そもそも日本という国は、構造改革が苦手な国であると
いえます。
日本の半導体企業について、この業界に詳しいグロスバーク合
同会社代表の大山聡氏は、2014年のコメントですが、次のよ
うに述べています。
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誤解を恐れずに言えば、日系半導体メーカーの問題点は、自社
のこだわりや強みを製品ロードマップ上で主張できなかったこと
だろう。技術やノウハウは持っているのに、何を作ったら良いの
か(売れるのか)明確な判断ができず、製品企画の時点で海外企
業に後れを取ったことが最大の原因だ、と筆者は考えている。
IDM形態で実績を残せなかった日系各社は半導体事業の分社
化にとどまらず、製造部門の売却や閉鎖を進めようとしている。
だが業績悪化の原因は製造部門ではなく、製造部門をフル回転さ
せるだけのヒット商品を作れなかった設計開発部門のはずだ。製
造部門を切り離すことで、確かに固定費の負担は軽減されるだろ
うが、それでヒット商品を生み出すことができるのか、はなはだ
疑問である。むしろ、切り離される製造部門にこそものづくりの
ノウハウが蓄積していて、これをファウンドリー事業に活用する
ことで、本当の「業界再編」が果たせるのではないだろうか。
https://bit.ly/40RvqLB
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第3の原因は「魅力的な製品を作り出せない資質」です。
アップルのアイフォーンは、2021年に2379億台も売れ
ています。対前年18%の増加です。しかし、そのアイフォーン
をバラしてみると、その60%の部品は日本製なのです。しかし
部品はきわめて秀逸なのに、日本のメーカーはそれを集めて魅力
的な製品を作れないのです。
枡岡富士雄氏という人がいます。ほとんどの人が知らないと思
います。もともと東芝のエンジニアですが、「米国の物まねでな
い新しい技術をつくりたい」として、大変な努力の結果、一人で
NAND型メモリ「フラッシュメモリ」を発明したのです。
今や「フラッシュメモリ」といえば、デジタルカメラ、アイポ
ッド、USBメモリをはじめ、自動車のエンジン制御やスマホな
どに幅広く使われ、大ヒットしていますが、東芝では正しい評価
が行われず、枡岡富士雄氏は東芝を退社し、東北大学教授に転身
しています。その枡岡富士雄氏のことを2005年11月24日
に読売新聞は「顔」に取り上げ、紹介しているので、添付ファイ
ルにしてあります。日本企業はどうしてこうなのでしょうか。技
術を生かせないのです。
第4の原因は「内向きで海外企業の連携が少ない」ことです。
日本は「井の中の蛙」で、国内ばかりに目を向け、海外企業と
連携が少ないことです。対照的なのは、韓国です。韓国は80年
代半ばから、政府の援助を受けて、サムスンなどの財閥が半導体
の生産に乗り出しています。しかし、国内市場だけでは生き残れ
ないと考えて、早い時期からシリコンバレーなどの海外の企業と
も連携を深めていたのです。
その成果が出て、1991年に世界初の「16M/DRAM」
の開発に成功し、続いて「64M/DRAM」の開発にも成功し
ています。そして、1992年にはDRAM市場で日本を抜いて
世界一になっています。これには、折しもバブル崩壊でリストラ
された70数名の日本の半導体エンジニアが好条件でサムスンに
移籍したことはよく知られています。韓国の凄いところは、現在
でもDRAM市場において圧倒的なシェアを占めて、トップを維
持していることです。日本と大違いです。
──[メタバースと日本経済/061]
≪画像および関連情報≫
●フラッシュメモリの開発者は「評価されない英雄」
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こんにちは。NHKエデュケーショナルの佐々木健一と申
します。今回は、私が作った番組をもとに、『世界を変えた
「フラッシュメモリ」/日本発の革新的デバイスはいかにし
て生まれたのか?』というテーマについて、5回にわたって
お話します。
まず、このテーマについて話すことになった経緯を軽く説
明します。私は『ブレイブ/勇敢なる者』という特番シリー
ズを企画・制作しており、2017年11月に、その第3弾
として「硬骨エンジニア」という番組を作りました。これは
東芝フラッシュメモリに関する番組だったのですが、放送後
多くの反響がありました。
この番組制作のために取材を始めたのは、東芝の経営問題
に関するメディア報道がすごく多い時期でした。例えば『週
刊東洋経済』2017・4・22号や『週刊ダイヤモンド』
2017・6・3号などのビジネス雑誌のタイトルは『東芝
が消える日』『三流の東芝 一流の半導体』等で、原子力事
業に始まり、東芝の経営問題が非常にクローズアップされて
います。 https://bit.ly/3oVdoe3
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枡岡富士雄氏「顔」